日本海に大きく突き出た能登半島に広がる、石川県能登町。
その能登の地で数馬酒造は、自然・文化と深く関わり合いながら活動しています。醸造されるお酒は、350年以上に渡り受け継がれている“あばれ祭”でも欠かさず、地域の方々から親しまれているそう。
今回は能登と共に生き、酒造りを行っている数馬酒造さんの5代目・数馬嘉一郎さんに、能登と密接に結びついた日本酒ブランド【竹葉(ちくは)】についてお話を伺いました。
目次
創業は江戸 食の時を楽しむ数馬酒造の始まり
詳しい記述は残っていないものの、数馬酒造の始まりは江戸時代。醤油作りから歩みを始めました。
世界農業遺産(※1)にも登録されている豊かな自然の中で湧き出る水が、醤油作りに適しているのが理由なのだそう。
世界農業遺産(※1)……世界的に重要な伝統的農林水産業を営む地域(農林水産業システム)のこと。
また日本海に突き出た能登半島では、夏場は高温多湿に、冬場は豪雪に見舞われ、食材を長く保存するため、イカを発酵させた魚醤“いしり”や、魚介を発酵させた独特の酸味を持つ“なれずし”など、発酵文化が大きく発達してきました。
数馬酒造の始まりにも、そういった能登の習俗が影響しているのかもしれません。
日本酒造りが始まったのは明治二年のころ。
現在は醸しのものづくりを通して“食の時を楽しくする”という価値観のもと、醸造を行っています。
「日本酒が数馬酒造の主な製造品となった近代では、何度か醤油づくりをやめる話が持ち上がったと聞いています。しかしその度に理念を見つめ直し、醤油づくりを続けてきたそうです。
そのくらい数馬酒造にとって日本酒の身に捉われない“醸しのものづくり”、“食の時を楽しくする”という想いは大きなものなんですよね。」
https://chikuha.co.jp/statement/
たしかに、和食では調味料に醤油を多く使用します。創業当時は、調味料が今ほど家庭に無い時代に、醤油ほどに適したものはなかったはずです。そして日本酒も、食の時を楽しくする存在の一つだったのでしょう。
「能登では“能登杜氏”という言葉があるほど酒造りが盛んで、同時に飲む文化も浸透していました。豊漁や豊作の際、お祈りのために贈られたり、神事や祭りに用いられたり。もちろん何でもない日にも日常的に飲まれていたんです。」
能登の魅力を活かした日本酒造り 竹葉ブランドの日本酒とは?
能登の祭りといえば、炎の中に神輿を投げ込むなどで勇壮な祭りとして知られる“あばれ祭”。“キリコ祭り”という巨大な灯籠を用いる、能登の伝統的な祭りの一種です。
その“あばれ祭”では、祭り中に振る舞われる酒はもちろん、フィナーレを飾る神事にもお神酒が用いられます。
この“あばれ祭”で用いられるお酒が、数馬酒造の【竹葉 能登上撰】。
「【竹葉】は数馬酒造のお酒に用いられているブランド名です。創業当時日本酒づくりの仕込み水を採取していた川が笹川という名前で、上流に多くの竹が茂っていたことに由来しています。また古典の時代においては、日本酒の別称としても使われていた言葉です。」
能登流の餅米を使った4段仕込みによって醸造され、柔らかい甘味を感じられるのが特徴。
「【竹葉 能登上撰】は“人の心に寄り添う酒”を目指して、飽きのこない味を目指し醸造しています。1年を通して食卓お店での晩酌、会食や宴会など、様々なシーンで味わっていただきたいんです。燗にした時の味わいも自信を持っていて、多くの賞を受賞しています。」
「酒造りの誠実さが伝わる」とまで表現された【竹葉 能登上撰】。普通酒であり地域の方々の晩酌酒だからこそ、こだわって丁寧に日本酒を醸造していることから、そう評されたといいます。
「地元の方に召し上がっていただけるお酒だからこそ、誠実にいいお酒をつくっていきたいんです。」
と嘉一郎さんは話してくれました。
【竹葉 能登上撰】をはじめとした竹葉ブランドは様々な取り組みを行っており【竹葉 生酛純米 奥能登】は、特に興味深いお酒です。
能登の素材にこだわり、米、水、酵母、すべてが能登産。【竹葉 生酛純米 奥能登】は、まさに能登の魅力を味わい尽くす一品なのです。
発酵に用いられている能登産の酵母・Misaki酵母は、なんと能登の海岸に打ち上げられた海藻から採取されたものなのだとか。
「先代の頃に、能登海岸に打ち上げられた海藻から酵母を採取。石川県立大学や東京海洋大学と共同開発した結果、生まれました。
低温で旨味を発揮する“リンゴ酸”を多く含み、竹葉 生酛純米 奥能登の白ワインの様なキレと、締まりのある酸味をつくり出しています。
能登の魅力を凝縮した【竹葉 生酛純米 奥能登】は、IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)という世界最大級の品評会でも金賞やリージョナルトロフィーを能登の酒蔵で初めてを受賞しているんですよ。」
また2021年の冬には、お客さまからの声に応え【竹葉 純米大吟醸】の販売を開始したといいます。
こちらも能登産の酒米を用い、仕込み水も能登のものを使用。
そして何よりの特徴が、先ほどのMisaki酵母に加え、金沢酵母という2種の酵母をブレンドしていること。
大吟醸ならではの華やかな香りと深い旨味が楽しめるお酒になっているといいます。
理念と市場のニーズから生まれた新路線 竹葉 地域食材特化シリーズ
嘉一郎さんは5代目となった後、各地を巡り、市場ではどんなお酒が求められているのか、どんな課題を抱えているのか、様々な方の声をヒアリングしていったと話してくれました。
「いただいたお話の中で、いちばん印象的だったのが、飲食店さんで『バイトの子でも説明しやすい商品はおススメしやすい』ということでした。
飲食店さんのバイトは大学生も多く、日本酒への馴染みがなく、知識をつけてもらっても4年ほどで卒業してしまいます。」
酒造りを行う人間として、食の時を楽しくする数馬酒造として。
なんとかこの現場の声から新しい商品開発ができないか。
そうして始まったのが【竹葉 地域食材特化シリーズ】でした。
【竹葉 地域食材特化シリーズ】はそれぞれの食材に合わせたシーンや味を追求し、醸造しています。
例えば、【竹葉 いか純米】は、能登町小木地区の名産品であるイカ料理に合わせて楽しむことを想定したお酒です。
「東京大学の学生と共同で開発をし、何度も検討を重ね、味を調整していきました。甘味をベースに、焼き、刺し、煮付け、様々なイカ料理に合うよう、温度帯で味わいが変化するお酒に仕上げました。」
一方で【竹葉 とり純米】は とり肉に共通する、弾力のある淡白な肉質や旨味、皮の味わいに合わせて、どんなとり料理にも合うように味を追求していったお酒です。
特に甘味のあるタレを用いたとり料理に合うそう。
「飲食店さんから特に多かったのが『鶏料理に合うお酒を造って欲しい』というものでした。
そのため、いつかチャンスがきたら鶏料理に合うお酒を開発しようと決めていたんです。
そして、試験的に醸造したお酒を試飲した際、鶏肉に合うのではないかと思い、そのお酒を【とり純米】として改良していくことにしました。」
「焼き鳥などのとり料理と試飲を重ね、商品化へ向けて味を調整。
お客さまから『とり料理と合わせなくても、このお酒だけでもおいしい』という感想をいただけるほどの味に仕上がっています。好評のご感想を頂けたときは嬉しかったですね。」
食の時を楽しくする これからの数馬酒造の酒造り
理念を見つめ、様々な取り組みを行っている数馬酒造。これからの酒造りについて伺うと
「現在も新しいお酒を仕込んでいるところです。皆様の声を聴きながら、新しいお酒として仕上げていけたらいいなと思っています。」
「僕たちが醸しのものづくりを通して地域に貢献していくには、弊社が掲げている、“食の時を楽しくするものづくり”を深めていく必要がると考えています。日本酒を飲むといつもの食事がより豊かに、よりおいしく、楽しく感じるようなお酒。そういったお酒をこれからも造っていきたいと思いますね。」