2023年7月8日(土)。初夏から盛夏へ移りゆく、七夕の季節。全国でここでしか行われていない、ユニークな花火競技大会が、秋田県大仙市にて行われました。文学と花火の融合ともいえる、独創的な競技花火をレポートします。
七夕の頃に上げる花火とは?
花火シーズンより一足早い7月頭。この時期に花火大会を行うに至った経緯を、協和七夕花火実行委員長の佐川松雄氏にお伺いしたところ、
「7月の頭は、田植えなどの植え付けの農作業も終わり、収穫もあまり無い農閑期で、夏の前にひと段落するあたりなので、この時期になったようです。
40数年前、秋田県の伝統行事『梵天』をこの時期に始めたのですが、小さなものではなく夏祭りとして何か出来ないかと、有志で花火を上げたのが始まりです。この地域は花火の打ち上げ従事者が多かったのです。その後、回を重ねるたびに花火の数を増やし、大きくしていきました。
しかし、実行委員会の高齢化が進み、実働で動く人がどんどん少なくなり、スポンサーの減少もあり、今後の継続が厳しい現状に直面しています」
と教えていただきました。付近には温泉もあるのどかな町ですが、高齢化の問題は、お祭りの存続にも影響を及ぼしています。
俳句を花火で表現!女性花火師による競技大会
女性花火師による「全国女流花火作家競技大会」は、2012年から協和七夕花火の新たな目玉として誕生した大会で、女性のみの花火競技大会は全国唯一です。この花火大会に新しい企画を作りたいと、実行委員会から相談を受けた花火研究家の小西享一郎氏(審査委員長)の発案により、始まりました。
せっかく七夕の時期に行う大会なので、七夕というロマンチックなシーンを日本伝統の俳句と花火で表現。今までどこにも無かった女性花火師のみの競技大会とし、女性らしい繊細な感性で競い、花火師同士の交流・技術向上の場にしようと始めた、画期的な企画です。
季語を含んだ五・七・五の俳句を作り、その情景を花火で表現するユニークな方式で、花火作品はもちろんのこと俳句のでき具合も問われます。作品は、以下の3点で審査されます。
(1)テーマ性
俳句の情景や思いが花火で表現されているのか。俳句にマッチする花火なのかが重要。
(2)技術力
花火に創意工夫が感じられるか。斬新性があり惹きつける花火なのか。
(3)構成力
花火で、展開性や構成力を感じられるか。ストーリー性があるのか。メリハリなど工夫があるか。
花火玉は、三号玉5発・四号玉7発・五号玉5発という5・7・5の計17発の構成で競われ、花火を打つタイミング(リズム)も重要で、ストーリー性を表現する鍵となります。
デザインが秀麗!各作品のレポート
各作品を、筆者の個人的な感想とともにレポートします。
1 あじさいに 陽光きらめく 花手水(はなちょうず)/石川県 北陸火工 林 早紀氏
水面に、艶やかなあじさいが浮かぶ情景を表現。透明感あふれるライトな色彩が、心地よいリズムで空を舞う。心が洗われる、神社の花手水の空気を感じ取れました。
2 夏空に 光彩の雨 描く虹/新潟県 新潟煙火工業 横山 江里氏
真夏の太陽⇒光る雨⇒止みそうな雨⇒虹⇒色が変わって消えゆく虹と、5段階のシーンが展開された楽しい作品で、情景の解りやすさが抜群。個人的にナンバーワンでした!
3 君想い 心彩る 星月夜/長野県 信州煙火工業 小河原 晃子氏
夜空に想いを馳せる、俳句の情景をキラめく色彩で表現。3重構造の可憐なデザイン、艶やかな点滅の八方咲き(雪の結晶のような形状の花火)の美しさが際立っていました。
4 妖(あやかし)の すさぶ世空に 慈雨の花(じうのはな)/秋田県 小松煙火工業 摂津 万希子氏
「妖」の語頭に合わせるべく、和火(炭火のような暗めの花火)で幕開けし、消え際に青く光る妖艶な世界観が印象的。その後にカラフルな花が咲き誇り、最後に水色の千輪(小花が一斉に咲く花火)で、大地を潤す慈雨が降り注ぐ。季節と大地の営みを巧みに表現した力作でした。
5 とりどりの 短冊たちが 風に舞う/福島県 糸井火工 佐藤 梨緒奈氏
目が覚めるような煌めく星空から、色とりどりの短冊がなびいてくる幻想風景を表現。時差(色光が動く花火)の輪から、たくさんの短冊が飛び出してくる構造に驚きました。
6 雨降れば 傘を差し掛け 稲光/静岡県 三遠煙火 鈴木 麻衣子氏
遠雷が響いて来たので傘を差し、柳の雨が降り、最後は稲光で〆る。4部構成で梅雨時の日常風景を夜空に描き、俳句の言葉を忠実に表現した創造的な作品でした。
7 眠る山 オオカミの目は 月光(つきひかり)/長野県 伊那火工堀内煙火店 松井 のの子氏
序盤でいきなり、端正な八重芯(円が3重になる花火、難易度が高い)が出てきて圧倒されます。背後の山から、月光のような「目」が昇ってくる情景が、俳句の世界とマッチしている秀作でした。
8 青々と 晴天隠すは 竹の春/長野県 紅屋青木煙火店 青木 真紀氏
若葉の小さな竹がすくすく育ち、天高く伸びて空を覆う過程を、タイムプラス写真で見ているかのような感じでした。伝統の降砂菊(キラキラと砂が降ってくるような花火)も美しいです。
9 初浴衣 願いを込めた 夏休み/茨城県 山崎煙火製造所 山崎 美恵氏
カラフルな浴衣を表す、鮮やかな色彩、ときめく心を思わせる八方咲きなど、美しい玉の数々でした。ただ、打つテンポが早すぎて、ストーリー性を感じる事が出来ないのが残念な点でありました。
10 七夕に 色のパレード 万華鏡/秋田県 和火屋 久米川 湖穂氏
俳句にも盛り込んでいる「色」に特化した作品で、新しい配色の八方咲きの美しさが鮮やかでした。序盤のティファニーブルーの美しさが夏らしくて爽やかです。
11 かがり火に 火の粉妖しく 蛾の炎舞/秋田県 北日本花火興業 今野 美幸氏
飛んで火に入る夏の虫「蛾」をテーマにした、発想が飛びぬけた北日本花火らしい作風。序盤の赤い焚火に蛾が飛んできて、飛遊星(四方八方に飛来する花火)を用いて羽ばたきを表現していました。
12 届くかな さくらんぼ狩りで かたぐるま/秋田県 響屋大曲煙火 齋藤 夏樹氏
高いところに実っているたくさんのサクランボを、解りやすく表現。小さな玉の中に、大量のパラシュートを詰め込む、とても根気のいる作品で、技術力の高さが光ります。
結果は即日発表され、大会終了後に公民館にて表彰式が行われます。
◎優勝
12 届くかな さくらんぼ狩りで かたぐるま
秋田県 響屋大曲煙火 齋藤 夏樹氏
〇2位
4 妖(あやかし)の すさぶ世空に 慈雨の花(じうのはな)
秋田県 小松煙火工業 摂津 万希子氏
〇3位
7 眠る山 オオカミの目は 月光(つきひかり)
長野県 伊那火工堀内煙火店 松井 のの子氏
〇特別賞
3 君想い 心彩る 星月夜
長野県 信州煙火工業 小河原 晃子氏
のどかな谷間に轟くワイドな花火
フィナーレは大玉が連打され、圧巻のワイドスターマインが繰り広げられます。谷間に響き渡る音圧と、視界いっぱいの光に魅了されます。
公表玉数が少ないからと、侮るなかれ!大迫力のフィナーレが待ち受けているのです。
ここでしか見られない、芸術性の高い花火、圧巻の大玉スターマイン。
10数発の持ち寄りで始まった花火が、小さな町でも大きな事が出来るんだぞ!とみんなが頑張り続けて、唯一無二の大会に成長した協和七夕花火。有名花火大会のような雑踏は無く、穏やかな雰囲気の中、独創的な花火をじっくり楽しめる大会です!
協和七夕花火へのアクセス
秋田自動車道 協和インターチェンジより、東方面へ車で約30分
開催場所:秋田県大仙市協和船岡字上宇津野地内
駐車場:約500台