東京下町やスカイツリーにも近い向島百花園は、江戸時代発祥の山草、野草を中心にした文人趣味豊かな江戸花園です。四季を通じて様々な催しが開かれており、海外からの旅行者もたくさん訪れています。
この向島百花園で2023年秋に開催された月見の会をレポート。絵行灯の点灯や筝の演奏、茶会など、今を生きる人々に受け入れられる様々な工夫をこらした、風情ある空間での月見の会の様子を紹介します。
目次
向島百花園ってどんなところ?
向島百花園は、江戸時代の文化文政期(1804年~1830年ごろ)に造られた庭園です。
骨董商を営んでいた佐原鞠塢が、交友のあった江戸の文人墨客の協力を得て、旗本である多賀氏の元屋敷跡地に、花の咲く草花鑑賞を中心とした民営の花園を造りました。開園当初は、酒井抱一ら文人、町民が360本の梅の木を寄贈したことから「梅屋敷」と呼ばれました。その後、詩歌にゆかりの深い野草や、秋の七草などが植えられ、特に萩を中心にした秋の草花の美しさで知られるようになりました。また、将軍徳川家斉や家慶も訪れたり、文人のサロンとして利用されてきた歴史もあります。
月見の会は夜だけじゃない!園内の散策もオススメ
今年の向島百花園の月見の会は、9月28日から30日に行われました。筆者は最終日の30日に行ってみました。
入り口には「月見の会」と書かれた提灯が下げられています。
中に入ると、しっかり手入れされた草花、そして芭蕉などの様々な句碑もあり、風情が心に染み入ります。
年配の方で写真撮影している方や、素敵なご夫婦など予想より多くの方が散策されています。今まで知らなかったことがもったいなかったなと感じるくらいしっとりとした素敵な空間です。
こちらは桔梗。眺めていると、写真撮影をしているおじいさんが、花の写真の撮り方を教えてくださったり、ふれあいが楽しい。
散策していて目に留まったのは、秋の七草のひとつでもある萩祭り。向島百花園の名物である萩のトンネルをついついくぐり抜けたくなりますね。
入り口前には数人並んでいました。前方には、幼い女の子と手を繋いだお母さんが、歌を歌いながら歩いていきます。他にはゆっくりとトンネルの中を撮影している女性も。
萩がどんな花か、今までほとんど知りませんでしたが、小さい、深い赤みの花がたくさんついていて、奥ゆかしく、素朴な美しさが感じられます。万葉集にも詠まれたという日本人にはなじみの深い花なんだとか。
その魅力をしみじみと感じたところで、あずまやで心の俳句を一句ひねってみました。
一期一会のお茶席は、自由で豊かな時間
萩のトンネルを出たあとは、一般参加できるお茶会を発見。受付の女性に、「お茶がはじめてでも大丈夫でしょうか?」と聞いてみると「大丈夫です」とのことだったので予約してみました。一席1000円です。
少し待つと予約した時間に。お茶室に伺いました。
床の間に飾られている書や、花、茶道具についてのお話などを伺っていく中で、お茶がたてられていきます。
数名の参加者の中には、お茶をやっている方もいて、場を素敵にリードしてくださって心地よい雰囲気に。海外の方もいらっしゃる中でしたが、みんなが楽しく、お茶の世界を親しみをもって感じられるように、先生が配慮してくださいました。椅子もあるので、足が悪かったり、正座が難しくても安心です。
いざ、お抹茶とお茶菓子をいただきます。すすきのお皿に置かれたお茶菓子は、とてもかわいらしいビジュアルで、味もおいしい。点てていただいたお抹茶も素晴らしく、皆さん満足そうでした。
お茶席が終わってからは撮影もさせてくださり、楽しいひと時となりました。
月見団子と絵行灯、筝の演奏など工夫がいっぱい
外に出てまた園内を散策しているうちに、足元に灯籠が置かれたり、月見への期待が高まっていきます。
そしてお月見団子のお供えがはじまりました。法被を着た庭師の方々が、手を合わせて捧げています。団子にさといも、茄子に柿など。すすきも相まって、映える要素満載。みんな嬉しそうに撮影しています。
17時半から絵行灯の点灯。参加希望者は、秋の七草の場所の前に17時40分に集合。
庭師の方から、参加券をいただきます。
今回は海外の団体から13名参加、ということであっという間に人数が上限に達します。ベテランの庭師の方と、若い男女の庭師の方が案内してくださります。皆さん法被がとてもよくお似合いです。
園内にある35か所の行灯を回って点灯していきます。長い木の棒の先にあるろうそくに点火して、それを箱の中のろうそくに移し替えていくのです。
行灯に描かれた絵や句もとても味わい深いものです。
次は、お琴の演奏を聞きに。こちらはかわいいお月見の幕の前で、童謡などが演奏されています。やはり海外の方が、夢中になって動画を撮影していました。
さて、月はどこから出るのかな、と思っているうちに庭園内がにぎわっていきます。売店付近では、言問団子やかき氷など売っていたのですが、みんなアルコールが入り始めた様子。
「月が出てきましたよ」と教えてくださる方がいるので、空をみると大きなお月様が登場!中秋の名月当日は、悪天候で全く見られなかったとか。この日はとても大きなお月様!
月をこんなにじっくり見るのは、何年ぶりでしょう。大きな月の柔らかい光に、身体が浄化されていくようです。
月が庭園を照らしながら登っていく時間が、ゆっくりと流れていきます。お供えのお団子も美しく、秋の夜を楽しめました。
スカイツリーも傍らで、光っていました。
帰りには「お月見スタンプラリー」にも参加。
ウサギが里芋を持ったかわいいスタンプも押してみました。
案内をみてみると、浜離宮恩賜庭園で十三夜のイベントも開催されるそうです。そちらも行ってみたい気持ちになりました。
向島グルメ「志満ん草餅」をおみやげに
向島はおいしいものも多い街。せっかくなので、名店「志満ん草餅」で草餅を購入。こちらは16時までなので入園する前にゲット。
こちらの草餅は、あんこの入ったものと入っていないものがあります。食べてみてまず驚くのが蓬の味の濃さ、そしてもちもちでやわらかい食感。きな粉と黒みつをかけていただくとなんともおいしいです。あんこが入っているものも、上品な甘さでとてもおいしく、入っていないものは蓬の風味のみの潔さ。これはまた食べたいおいしさでした。
悠久の時と重なり合う豊かな月見のひと時
向島百花園は、日本人が長年大切にしてきた、野山の草花に美を見い出し、生活の中で丁寧に愛でる、素朴な美にあふれた素晴らしい空間でした。
朝ドラ「らんまん」の効果もあってか、植物園の人気が高まっているようで、多くの観光客が訪れていました。また外国人観光客が多いのも印象的でした。夜が更けてからは、近隣の方もこの催しを楽しみにしているようで、普段着でたくさんの年配のご夫婦や家族連れが訪れて共に月を眺めています。
人生の時間と、悠久の自然の時間が重なり合うような、そんな月見のひと時でした。
向島百花園は、リーズナブルに日本の楽しさ、豊かさを感じられる素敵な場になっています。また、年間を通して様々な形で、季節の草花や伝統行事を楽しむ企画を行っているようです。皆さんも足を運んでみてはいかがでしょうか。