—2020年4月8日、国の重要無形民俗文化財(1980年)の「青森ねぶた祭」の開催中止が決定された。「青森ねぶた祭」が現在の形態になった1958年以降初の中止であり、ねぶた祭りの主役である人形灯篭の「ねぶた」を制作する「ねぶた師」は仕事がなくなった。これは失業と同じ意味を持つ。この状況が続けば将来的に「ねぶた」の作り手がいなくなり、しいては日本の伝統文化である「青森ねぶた祭」自体の存続も危うい状況になる。これに危機感を抱き、かれらの経済的基盤を継続的に支える環境づくりのために立ち上がったのが、青森公立大学地域みらい学科の佐々木てる教授たちによる「ねぶた師支援プロジェクト」である。熱い!
今回、佐々木代表に時間をいただき、企画やねぶたへの想いをオマツリジャパン代表の加藤優子が直撃しました!
東京在住だった佐々木先生、ねぶたにどっぷりハマった理由は?
加藤 ねぶたを大好きになったきっかけは何だったのですか?
佐々木 僕が大学に赴任して青森に来たのは9年前。それ以前は東京/関東にずっといたため、まわりの皆から驚かれました。そして「青森っていうと『ねぶた』だね」「8月にみんなでやる祭りだよ」と言われたんですよ。その時はねぶたを知らなかったので、それで興味を持ちました。その年の8月に実際に参加したらあまりにも面白くて!あっという間に心をわしづかみにされました(笑)
加藤 いいですね!その時ねぶたのどこに惹かれました?
佐々木 何といっても熱量ですね!とにかく盛り上がってるじゃないですか。ねぶたが街中を動いて目の前にくるわ、夜にライト入ると綺麗だわ!見て綺麗なだけじゃなくて、動くし、参加者は跳ねまくっているし!もちろん僕も跳ねています。
加藤 おお!今も跳ねているんですか?
佐々木 はい!8/5と8/6は跳ねています。8/2と8/3は飲みながら楽しむ日、4日はじっくりねぶたを見る日としてブルーシートを準備して、ゼミの学生と一緒に観覧しています。(※青森ねぶた祭は毎年8/2〜8/7の6日間に渡って開催される)
加藤 そこまで!ねぶたが好きでも研究しようとまで思う人はあまりいない気がします。研究しようと思った理由は何だったんでしょう?
佐々木 僕は社会学者なので、もともと人と社会の関わりに興味があるんです。ねぶたを通じてみると青森の社会も見えてくるんです。ねぶたを通じて文化、コミュニティや地域とのつながり、地域経済が見えてくるので、これは(学者としても)面白いと思ったんです。
さらに言うと、人々とねぶたの関わりを文献で調べてみようとしても、そういう文献が実は無いんです。歴史や民俗学などやねぶた師さんについての本はあるのですが、「人がどう関わっているか」「社会とどう関わっているか」という目線での文献や先行研究がなかったんです。だから、自分で調べよう!と思ったんです。
加藤 なるほど~!で、ねぶた沼にはまった、と(笑顔)
佐々木 はい(笑)
クラウドファンディングは順調な滑り出し…さらなる目標へ。
加藤 今回のプロジェクトのきっかけは何だったのでしょうか。
佐々木 4月8日に2020年の青森ねぶた祭の中止が発表されて、ねぶたの関係者みんなが茫然自失だったんです。僕もゼミの取り組みをどうしようと思いました。まず、個人的に学園祭で小さなねぶたを作るクラウドファンディングを考えたのですが、友人に相談したら「それだとねぶた師みんなには還元されないのでは」と言われて、やめました。そのあと、ねぶたの柄が入った生地を使って、ゼミでマスクを作ろうと思い、生地を買いにいったときに、店長の内藤亘さん(青森の洋服店の甲州屋)から、今回の企画の原案を相談されました。そこで意気投合し、同じねぶた仲間の後藤公司さん(あおもり伝導舎代表、青森ねぶた跳人衆団跳龍會名誉顧問、青森わの會顧問、高田ねぶた実行委員会事務局長)にも入っていただいて3人で計画を作りました。さらにやるならば学生にも参加してもらい、クラファンを通して青森の経済を理解してもらおうと思ったので、学生にも声をかけました。大学として関わる以上、全てのねぶた師さんにお声がけをし、全員に還元することを前提にし、「公共性」や「公平性」を特に気を付けています。
加藤 ねぶたマスク良いですね♪ねぶた師の皆様にご理解いただいて始まったんですね!プロジェクトに参加されているねぶた師さんは14人ということですが、現在、ご活躍されているねぶた師さんはこの皆様でしょうか?
佐々木 はい。現時点でねぶた師は全部で14人いらっしゃいます。ねぶたは22台出ますが、1人で複数台を制作するねぶた師もおられますので。今回一緒にプロジェクトを立ち上げた内藤さんも後藤さんも14人すべてのねぶた師さんとご縁がありましたので、一軒一軒、皆様のところにご説明に伺いました。ご理解をいただき、時には逆にご提案をいただいたりしながらこのプロジェクトが始まったんです。
—そして始まったねぶた師支援プロジェクト。現在、第一目標額を達成し、第二目標2500万円(6月30日23時募集終了)に挑戦している。
加藤 現状順調に推移されておりますが、要因は何だと思いますか。
佐々木 第一目標(150万円 )を達成し、今は第二目標(2500万円)をめざしているところです。皆様のお気持ちが本当にありがたいです。第一目標を達成できた要因は、ひとえにねぶたの人気があってこそ。そして広報の成果です。行政・市長からも情報を拡散していただき、メディアにも取り上げていただくことで事前に情報が拡散できたことが影響したと思います。そしてリターンとしての返礼品の良さだと思います。ですが、やはり反響の大きさには素直にびっくりしました。ねぶた師さんの皆様へ1人100万をお渡しするためにも、目標額(2500万)が達成できたらよいなと思っています。
加藤 クラウドファンディングに協力される方は地元の方が多いのでしょうか?それとも地元以外?
佐々木 印象値でお答えする限りでは、半分半分。青森県出身、青森市出身で今は青森を離れている方からのお声もあります。「また見に行きたい」「来年こそ行ってみたい」などの声もあるので、半分は県外・市外、半分は市内という感じでしょうか。
ねぶたの授業とは?どんな視点からねぶたを学ぶ?
加藤 佐々木先生は実際に大学ではどのようなことを教えてらっしゃるんですか?
佐々木 青森公立大学では2年生からゼミに入ることになっているので、2年生には、まず、お祭りを見る基本的な視点を学んでもらいます。そして毎年テーマを決めて調査研究を行います例えば2017年にはねぶたの運行団体、全22団体に取材をし、その特徴をまとめました。
加藤 それはうらやましい!
佐々木 いや、そう感じる加藤さんが凄いですね(笑)で、取材をしたその次の年にはお囃子の全団体さんにも話を伺いました。その他にも「出世太鼓」で毎年ねぶたに参加される藤本建設さんや青森観光コンベンション協会さんなど、ねぶたを支える皆様にも話を伺いました。毎年そうやって取材をさせていただき、それらをシンポジウム形式で学生や一般の皆様に報告して、報告書も作成するという取り組みを継続しています。
加藤 学生と地域との関わりも調査・体験の中に意識されているのでしょうか?
佐々木 うちは地域みらい学科なので、何をするにしてもそこがまさにテーマ。大前提なんですね。ねぶたに関わることで地域に関わることになります。いつもは毎年7月くらいまでに調査を終えて、知識をもった上で当日にねぶたを体験することで面白さを体感するという流れですが、今年はそれができないので、学生も僕も来年を楽しみにしています。
加藤 来年絶対行きたいですね!先生はこれからも青森に?
佐々木 生涯青森にいようかな、と思っています。
加藤 おお!いいですね!
佐々木 食べ物も美味しいし!加藤さんもいつでも来てください!早くおいでー!
加藤 ありがとうございます!早めに行きたいです!
※ねぶた師支援プロジェクトとは
2020年「青森ねぶた祭」の開催中止により、ねぶた祭りの主役である人形灯篭の「ねぶた」を制作する「ねぶた師」は仕事がなくなった。これは失業と同じ意味を持つ。この危機に立ち上がったのが、青森公立大学地域みらい学科の佐々木てる教授たちによる「ねぶた師支援プロジェクト」である。ねぶた師を支え、ねぶた文化を継承していくためのクラウドファンディングは開始わずか1時間で第一目標の150万円を達成。第二目標の2500万円に向けて挑戦中。支援募集は6月30日(火)午後11:00まで。