奇祭とは、魔を払う厄除けの呪術!?
どうも、奇祭ハンターのまっくです。「異形」の祭りを求めて全国行脚する奇祭旅の、今回は静岡編(26県目)。毎年、1月末に静岡県の伊豆長岡温泉で開催される「鵺(ぬえ)ばらい祭」を体験レポートします。
いざ、伊豆長岡温泉へ!
東京から電車を乗り継ぐこと約3時間。伊豆長岡駅から巡回バスに乗って「湯らっくす公園」に着きました(バス停「宗徳寺前」で下車)。足湯も利用可能なのどかな公園で、子どもたちが走り回っています。
露店はしゃれおつな感じでラーメン屋台やキッチンカーが出ていました。はて「いかリップ」とは何ぞや?
鵺のイメージは怪鳥から雷獣へと変化した!?
今回の祭りのテーマである「鵺」をテーマにしたゆるキャラ「ぬえ左衛門」が登場。このぬえ左衛門よると鵺とは「頭がサル、体がトラ、尻尾がヘビの大妖怪だぬん!」とのこと。ちなみに尻尾の黄色いヘビは「マサオ」っていう名前らしい(なぜに!?)。
オープニングセレモニーが終わり、いよいよ地元の中学生が扮する鵺が登場。小鵺四匹、中鵺二匹、大鵺一匹の編成で現れます。
鵺を発見したらしい村人が何やら叫んだ後、太鼓の音に合わせてまずは小鵺、中鵺が元気よく跳ねながら会場に入ってきました。「鵺おどり」の始まりです。
さて、そもそも鵺とは何なのでしょうか? 鵺とは、正体不明の伝説上の大妖怪(怪鳥・怪物)のことで、転じてつかみどころのない得体の知れない人物や物事のことを「鵺」と言ったりもしますな。
鵺は古くは「万葉集」や「古事記」にも名前が登場し、元来は、夜中にヒョーヒョーと薄気味悪い声で鳴く怪鳥とされていました(現在では、鳴き声の正体はトラツグミというのが定説です)。
「呪術廻戦」で伏黒恵が召喚する鵺はこの初期の怪鳥ベースの鵺ですな。
#呪術廻戦
伏黒恵(ふしぐろ めぐみ)の呪術・呪具
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しかし「平家物語」に頭がサル、胴体がタヌキ、手足がトラ、尻尾がヘビという姿で、鵺の声で鳴く得体の知れない怪物が登場すると、次第にこの奇態な怪物そのものが「鵺」の姿(文献によって諸説あり。現在は単純に体全体がトラという設定が定番)だと認識されるようになりました。
姿を見せない得体の知れなさに、中世の人々の妄想力が働いた結果でしょうか。江戸時代の浮世絵師、歌川国芳が描いたマッチョな「鵺」の姿なんてもう完全に雷獣です。
従って、鵺の図像イメージは、怪鳥から雷獣へと時代の変遷とともに変化していったのです。
なお、このように複数の動物を合成したキメラタイプの大妖怪は極めて珍しく、他に合成系の大妖怪と言って思い浮かぶのは、瀬戸内海を中心に水辺に出没する大妖怪、牛鬼(角は牛、顔は鬼、体は蜘蛛)ぐらいでしょうか。愛媛県には、この牛鬼が山車として登場する奇祭(和霊大祭、宇和の秋祭り)もあります。
伝説の弓を受け継ぐヒーロー、源頼政とは?
場面は再び「鵺おどり」へ。跋扈する鵺を退治すべく、ヒーロー(清和源氏)が来た! 源頼政とその郎党の猪早太(いのはやた)です。
さて「平家物語」には鵺退治の様子も描かれています。平安時代後期、京都の清涼殿では、「ヒョーヒョー」という不気味な鳴き声ともに夜な夜な怪しい黒雲が覆って帝(近衛天皇)を怯えさせていました。そこで武士に警護させよということになり、源頼政が抜擢されます。上空を見上げた頼政は暗雲の中に蠢く影を視認。南無八幡大菩薩と唱えながら山鳥の尾の鏑矢を放ち、これが見事に鵺に命中!矢を受けた鵺はたちまち正体をあらわし地に落ちたと言います。
この時使った弓こそ、高祖父・源頼光(酒吞童子や土蜘蛛を倒した平安の妖怪ハンターとして有名)から受け継いだ名弓・雷上動。
この演目のように、落ちてきた鵺は猪早太が何度もメッタ刺しにして倒しました。これが後世、浮世絵にも描かれた名シーン、世に言う「猪早太の9回刺し」でございます。なお、鵺が落ちた地点は現在の二条公園がある辺りと言われており、現在そこには鵺池(復元されたもの)があります。
猪早太VS雷獣・鵺。猪VS雷とか、「鬼滅の刃」が好きなら燃えるシチュエーションですな。推せる!その後、鵺を倒した褒美に、源頼政は容体が回復した近衛天皇から褒美として獅子王という名の剣をもらいました。
「あれれ~、おかしいぞ~」。さて、賢明なる読者諸君にはコナン君ばりに疑問に思われた方もいらっしゃるでしょう。なぜ、京で討たれた鵺の故事を静岡で再現しているのかと? その謎を解くカギは源頼政の鵺退治の後日談に…。って、おおっと!
戦いはまだ終わっていなかった。仲間のピンチについにラスボスの大鵺が登場だぁ!
源頼政らと大鵺の最後の死闘が始まりました。
提供は地元、長岡中学校の生徒のみなさんによるものでした。実は今回、源頼政ら武士を演じたのはすべて女の子。コロナ下で中止になっていて久々の再開だったため、演者が見つかるか一時は開催も危ぶまれたのですが、祭りのために一役買って出てくれたのです。
毎年1月末に行われる伊豆長岡の奇祭、鵺払い祭りに行って来たゾ。伊豆長岡の出身であるあやめ御前の旦那、源頼政が鵺退治で有名だったから始められたのじゃ。地元の中学生による鵺踊りを刮目して見よ! pic.twitter.com/k51HNruXPX
— 奇祭ハンター まっく (@Mac40626899) January 30, 2023
伊豆長岡で鵺を払うミステリーとは?
都合2回にわたる「鵺おどり」の他にも、当日は催しが目白押し。弓で鵺を退治した故事にちなんで地元高校の弓道部による弓のデモンストレーションが実施された他、豆まきや伊豆長岡芸妓連による踊りの披露、最後は餅まきでフィナーレとなりました。
そう言えば、話の途中でしたな。実は源頼政による鵺退治には後日談がありました。武功を挙げた頼政は、褒美として絶世の美女を紹介され、妻に迎えました。それが近衛天皇の父である鳥羽院に仕えていた女官、菖蒲御前(歳の差は何と33歳差!)です。
晩年、当時の源氏としては破格の従三位にまで出世した源頼政でしたが、平家打倒のために挙兵(その後、頼政は敗北し、宇治川の合戦で自害)。その際、菖蒲御前は故郷である伊豆長岡へと逃れました。
そう。伊豆長岡は、宮仕えのために京に上がる前の菖蒲御前の出身地だったのです。菖蒲御前と言えば源頼政、頼政と言えば鵺退治というわけで、鵺払い祭りが始まったわけです。何だか強引な気もするが、嫁の実家は強し!
今回の戦利品。豆まきの豆と、餅まきの餅と、ドリンクウォーターは、鵺の衣装などの修繕のために寄付を行ったらオマケでついてきました。
伝奇と史実がたっぷりと詰まった今回の鵺払い祭りはいかがでしたか?ここまで妖怪をがっつりフィーチャーした祭りも珍しいでしょう。近い将来、ダイダラボッチ払い祭りや毛羽毛現(けうけげん)払い祭りが爆誕することもあり得るかも。それでは、次の奇祭旅でお会いしましょう!
今回のお食事ジャパン
外はフワフワでパクッと口に含むとアツアツでジューシーな旨味がブワーッと広がります。中にはタコではなく、希少部位であるイカの口が詰められ、独特の歯ごたえをプラス。「カツオだしが効いているので、本当はソースをかけなくても美味しいんですよ」と、屋台のおじさんも太鼓判を押す一品です。