2019年からスタートした、観光経済新聞のオマツリジャパンコラム記事連載!2020年も「お祭り」をフックに、旅に出たくなる記事の連載をして参ります!奇祭好き、ケンカ祭り好き、お神輿好き…等、様々なライターさんに記事を執筆いただく予定ですので、ぜひご覧ください♪(オマツリジャパン編集部)
女性にだけ担げる天狗みこし
上州沼田。群馬県北部、利根川の上流に位置する沼田市は、古くから沼田城の城下町として発展してきた街だ。関東と新潟をつなぐ交通の要所に位置し、戦国時代には上杉、北条、真田が取り合ったことでも歴史好きの間では有名な土地かもしれない。そんな沼田で8月頭に行われる夏祭り「沼田まつり」は、一風変わったことでも知られている。その主役は、巨大なてんぐ(天狗)だ。
沼田はてんぐとの結びつきが強い街である。日本三大てんぐの迦葉山弥勒寺にはじまり、街中には石像に祠にてんぐだらけ。そのてんぐをお神輿(みこし)に掲げ、巨大な「天狗みこし」として女性だけで担ぐというのが沼田まつりの名物だ。お面のようにも見えるそのてんぐの大きさは規格外。鼻の長さは2.9メートル、顔の大きさは縦が4.3メートル、幅が2.3メートルと、軽自動車よりも優に大きいサイズだ。この天狗みこしの鼻を空高く掲げ、全国から集まった300人もの女性が担ぎ、練り歩く。「サァ、サァ」と女性の声が響き、てんぐが上下に揺れながら進んでいく。
沼田まつりの見どころは他にもある。山車の競演と祭ばやしだ。素戔嗚尊や弁慶などの人形が乗る山車は、色鮮やかで見る者を楽しませる。お囃子(はやし)を奏で、カネを鳴らしながら巡行し、山車が集まるタイミングはより一層盛り上がり必見だ。ちなみに沼田では山車のことを「まんど」と呼び、一説には「万灯」が変化したものではという。また、沼田まつりの別名は「おぎょん」。なんだそれは、と思った方もいるかもしれないが、「お祇園」がなまり、愛着を持ってこう呼ばれるようになったそうだ。
夕方に動き出した天狗みこしだが、日が暮れてくるとまた違った顔を見せてくれる。提灯に照らされ、ぼわっと浮かび上がるてんぐの顔は、どこか幻想的な雰囲気を醸し出す。いまでは名物となった天狗みこし。そもそもは男性が担ぐお神輿はあるが、女性が担げるお神輿を作ろうという課題意識から1983年に作られたものなんだとか。お祭りの新たな魅力を沼田で見ることができた。