奈良の東大寺二月堂で、毎年3月1日~14日まで行われる伝統的な法会である「修二会(しゅにえ)」。
3月12日の「お松明」行事と、13日の1:30頃からの「お水取り」行事が有名で、特に「お水取り」はそのまま東大寺の修二会の通称として広く浸透しています。
「お水取りが終わると春がやってくる」ともいわれ、春を呼ぶ行事という側面も。今回は、その歴史やどのような行事なのかなどをご紹介しましょう。
(この記事は2019年に公開されたものを再編集しています。2024年1月26日 編集部更新)
「修二会」とはどのようなもの?
修二会は修二月会ともいい、各地の仏教寺院で行われている法会のひとつで、旧暦の2月に行われていたことからそう呼ばれるようになりました。現代では3月に行われている所があるのは、旧暦2月を現在の新暦に当てはめると約1か月遅れになるためです。
「練行衆」と呼ばれる精進潔斎した僧侶たちが、人々が犯した罪を懺悔し罪過を悔い改めると共に、天下泰平・五穀豊穣・万民豊楽などを祈ります。世の中の罪を悔い改める苦行を、一般の人々にかわって行なってくれるという、大変ありがたい行事なのです。
「修二会」はいつ、どのように始まった?
東大寺の修二会の歴史は古く、最初に行われたのは752年。東大寺を開山した良弁僧正(ろうべんそうじょう)の高弟、実忠和尚(じっちゅうかしょう)が創始といわれています。それ以来、一度も欠かされたことのない「不退の行法」です。
正式名称は「十一面悔過」で、二月堂の本尊・十一面観音に日頃の過ちを懺悔する、悔過(けか)の行事であり、「声明」「達陀」「五体投地」などの行法で悔過するとともに、世の中や人々の幸福を祈ります。
明日3月1日から3月14日まで東大寺・二月堂でお水取り(修二会・お松明)が行われる予定です。お水取りは奈良時代の752年(天平勝宝4年)から途絶えることなく続けられ、千二百年以上の歴史があります。 #奈良 #東大寺 #お水取り https://t.co/kCrT5htTnA pic.twitter.com/1bGq3m2j4G
— 奈良観光・奈良ガイドブック (@naratripin) 2019年2月28日
東大寺の修二会はどのように行われる?
東大寺の修二会は、毎年3月1日〜14日の2週間かけて行われます。
前年の12月16日、良弁僧正の命日に11人の練行衆が発表されます。年が明けて2月20日からは、「別火」といわれる前行が始まります。前行は、修二会の本行を行うための準備期間のことです。ここでさまざまな準備を行い、3月1日に修二会がスタートします。
東大寺の修二会の通称にもなっている「お水取り」は、13日の午前1時30分ごろから始まり、練行衆が童子の持つ松明とともに「閼伽井屋(あかいや)」といわれるお堂に向かいます。閼伽井屋の中には「若狭井」という井戸があり、ここから「お香水」を持参した桶に組み上げるのですが、閼伽井屋内で行われていることは、残念ながら当役以外の人が見ることはできません。
閼伽井屋と二月堂の間を3往復して運ばれたお香水は、「根本香水」と「次第香水」に分けられて本堂陣内に納められます。根本香水は、お水取りで汲んだ水を毎年足し加えているもので、次第香水はその年汲まれた水のみを入れます。次第香水の水は、二月堂の井戸水と共に小瓶に入れられ、二月堂受納所にて頒布されます。
「お水取り」と共に有名なのが「お松明」です。修二会の間、毎日10本の松明が灯され、回廊を走ります。松明といっても、その大きさは想像以上で、重さ40kg、竿の長さは7mにも及びます。
特に12日の「籠松明」は、松明の数が11本に増え、重さは70kg、竿の長さは8mにもなり、夜空を赤々と照らす炎は幻想的で神々しく、圧巻です。お松明の火の粉を浴びると無病息災のご利益があるといわれ、その灰を大切に持ち帰る人も多いのだとか。
「お水取り」は閼伽井屋から二月堂までの通路沿いで、「お松明」は二月堂前の広場で見学することができます。コロナ禍の影響を受けて人数制限などが実施される場合がありますので、お出かけ前には必ず東大寺の公式サイトで詳細をご確認ください。
他にもあります、有名な「修二会」
東大寺の他にも、各地の寺院で行われている修二会。特に奈良県内の古寺で行われるものが有名で、そのいくつかをご紹介します。
薬師寺
世界遺産にも登録される薬師寺。修二会は3月25日〜3月31日の7日間にかけて行われます。梅・桃・桜など、10種類の和紙の造花が本尊の薬師如来に納められることから「花会式」とも言われています。
修二会後の夜には「鬼追式」が行われますが、これは松明を持って暴れまわる鬼を毘沙門天が鎮めるという儀式です。
長谷寺
長谷寺の修二会は毎年2月8日~14日に行われ、結願の日(最終日)の14日には「だだおし」と呼ばれる鬼追い行事と松明行事が行われます。
だだおしでは災厄を象徴する3匹の鬼が出現。参拝者のすぐ目の前で、燃え盛る松明にぶつかりながら暴れまわり迫力満点です。鬼は僧侶たちが持つ牛玉札(ごおうふだ)の法力で退治され、安全になった堂内では、参拝者が持つ牛玉札と額に「牛玉宝印(ごおうほういん)」が押してもらえます。
別名「ダンダ印」ともいうこの印を押すことが「だだおし」の由来という説があるそうです。
法隆寺(西円堂)
西円堂の修二会は、2月1日〜3日の3日間です。2月3日の結願後には「鬼追式」も行われます。
新薬師寺
新薬師寺の修二会は「おたいまつ」と呼ばれ、毎年4月8日の夕方から行われます。
長さ7メートルの大松明10本と籠松明1本が本堂の周りをまわると、ちょうど満開の桜が白く照らされ、とても美しい光景が広がります。おたいまつの後に本堂で、桃の花、南天の実、灯明のあかりに包まれた薬師如来の御前で法要が営まれます。
おわりに
私たちの罪を練行衆が代表して悔い改めてくれるという、ありがたい行法「修二会」。厳粛な雰囲気のなか行われる「お水取り」も、勇壮で神々しい「お松明」も、参拝者を惹きつけてやまない魅力がいっぱいです。ぜひ一度、訪れてみてはいかがでしょうか?