節分といえば、鬼退治。豆をまいて「鬼は外、福は内」という掛け声のもと、鬼のお面を被った人に豆をぶつける姿を思い浮かべる方は多いでしょう。また、今年は誰が鬼役をやるのかな?などと想像を膨らませている方もいらっしゃるかもしれません。それにしても、なぜこのような奇妙な行事が始まったのでしょうか。実は、この節分の鬼退治の由来は様々で意外なものも多いです。その一部を今回ご紹介します。
節分の基本情報
まず、節分とは何かをおさらいしておきましょう。節分は季節の変わり目のことで、春夏秋冬と実は年に4回あります。ただし例年、2月の節分は旧暦の大晦日に当たる日だったので、新年が始まるという意味で特に重要な日でした。年の変わり目は特に邪気が入りやすいということで、厄を払うべく鬼退治という発想が生まれたのです。それではこのような行事が始まったきっかけについて見ていきましょう。
節分の由来① 山の神と来訪神が節分に関係している!?
まずは、あまり知られていない由来として、民俗学的な解釈の話があります。中世の随筆である『徒然草』に、「つごもりの夜・・・亡き人のくる夜とて、魂まつるわざは、」とあるように、大晦日の晩は死者の霊がやってくると考えられていました。
死者の霊には、2つのタイプが存在するようです。まずは、「まれびと(来訪神)」として村人に幸福をもたらしてくれる福の神、そして、もう一方は妖怪や悪霊となった山の神。これがまさに、節分における「鬼は外、福は内」に対応しているというわけです。幸福をもたらす来訪神としての福の神については、折口信夫が唱えた説として知られています。一方で、妖怪や悪霊となった山の神に関しては、民俗学的な解釈として山の神の中で零落して妖怪化ないし悪霊化したという文脈で語られることもある内容です。
岩手県遠野地方では、小正月の午前中に子供達が「福の神が舞い込んだ」と唱えて餅をもらう風習が伝わっています。まるで、ハロウィンで子供達がお菓子をねだるような光景が想像できますね。一方で、晩になると、恐ろしい山の神が来るから決して外には出ないとのこと。節分の豆まきとは風習が異なりますが、節分の由来の一つとして考えることもできるでしょう。
節分の由来② 見えない鬼を追い立てた!?
2つ目の由来として、昔宮中では追儺(ついな)という儀礼が存在しました。大晦日の戌の刻に、方相氏(ほうそうし)という役の者が仮面をかぶって、大声を発し、右手に持った鉾と左手に持った鉾とを三度打ち。それを合図に、臣下の者が桃の杖、桃の弓、葦の矢で東西南北に分かれて目に見えない疫鬼を追い立てる行事をしていました。これが、平安末期になると、鬼を追い払うはずの方相氏が鬼と誤解されて外に追い出される、という内容に変わったのです。
京都の吉田神社などでは、近代に入ってこの追儺儀礼が復元され、方相氏が見えない鬼を追い払うという内容でした。しかし、それでは評判が良くなかったため、目に見える鬼が登場するようになりました。何れにしても、見えない鬼を退治するのではなく、鬼という役を登場させるべく行事の内容が変化したというわけです。
・京都・吉田神社の節分行事についてはこちら(公式HP)。
節分の由来③ 鬼を親にもつ美女が人間の男と結ばれるため!?
最後は、京都の鞍馬や貴船に伝わる鬼退治のお話です。この話は、室町時代に編纂された『貴船の本地』という御伽草子の説話に登場します。寛正法王の時代(寛正年間は1460年~1466年)、帝の寵愛を受けた中将定時という人物が、理想の女を探し求めて歩いた末に、鞍馬の毘沙門天の加護により龍女の宮という美女に出会います。
しかし、この龍女の宮の父は鬼だったそうです。龍女の宮は父(鬼)に内緒で人間界に住む中将定時と契りを結びますが、それがバレて父(鬼)に食われてしまいました。しかし、中将定時の伯母が龍女の宮の生まれ変わりを生み、再び二人は結ばれます。それに激怒した龍女の宮の父(鬼)は、2人を亡き者にしようとしましたが、2人は協力して鬼の国との出口を封じて、煎り豆で鬼を打つことに成功。のちに、龍女の宮は貴船大明神、中将定時は客人神として祀られました。
・京都・鞍馬寺の節分行事についてはこちら(公式HP)。
・京都・貴船神社の節分行事についてはこちら(公式HP)。
このように、節分に鬼を追い払う由来は、日本全国の様々な地域で違った伝わり方をしています。それを一つ一つ見ていくと、日本の暮らしに根付く信仰の奥深さを知ることができ、意外なエピソードまで発見できて面白いです。上記の内容は、小松和彦さんの著書『鬼と日本人』などに詳しく書かれています。
コロナ禍で節分を楽しむ
さて、今年は2月2日が節分の日。新型コロナウイルスの拡大を防ぐためにも、密集を避けながら、手洗いなどもしっかり行うことは大事です。お祭りもなかなか実施できないご時世ではありますが、家族で非日常的な豆まきを粛々と楽しむのも、気分転換になるかもしれません。その際にはぜひ、節分の鬼退治の由来や歴史にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
参考文献
小松和彦, 『鬼と日本人』, KADOKAWA, 2018年
萩野由之『新編御伽草子』, 誠之堂書店 , 1901年