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堺市在住の盆踊り好きが、大阪盆踊りのリアルな魅力をご案内!

花田口 荘介
2021/6/15
2021/6/15
堺市在住の盆踊り好きが、大阪盆踊りのリアルな魅力をご案内!

全国津々浦々、盆踊りは日本各地で開催されていますが、大阪府の盆踊りは「生音頭」と「民踊」、2つのタイプが楽しめるのが特徴であり、大きな魅力なんだとか。大阪府堺市に住んでおり、府内あちこちの盆踊り会場を巡っているという花田口荘介さんに、大阪盆踊りの魅力、楽しみ方、おすすめ会場などを解説いただきました。

「江河泉」生音頭と全国民踊の競演

夏の夜、会場の最寄り駅を降りると、空を伝って聴こえてくるエレキギターの音。もう始まっちゃった? と慌てて駆けつけると、よかった、まだ音出しの途中。櫓の上では浴衣を着た数人が、ギターを、三味線を、太鼓のバチを携えている。櫓の下では何人かがTシャツ姿で、忙しくミキサーやスピーカーの調節している。そして本部席近くのテントでは音頭取りが、町会長やゲストの音頭取りと談笑している……

大阪の夏の、ありふれた風景です。やがて櫓の中心に立った音頭取りが挨拶をし、後ろを振り向いて仲間たちにアイコンタクト、まずは太鼓が打ち鳴らされ、すぐにギターと三味線が加わり、ついに音頭と踊りのはじまりです。「エェー……さては一座のみなさまへ……」

大阪の盆踊りといえば、彼ら音頭会による迫力の生音頭。近江の国より伝わり独自の発展を遂げた“江州音頭”、更に南へと情感たっぷりに変幻しつつ今なお古風な様式を残す“泉州音頭”、そして東京の「すみだ錦糸町河内音頭大盆踊り」でもお馴染み河内音頭……百派千人とも言われる音頭取りたちが夏のお盆に限らず年中芸を競い合っています。

まとめて「江河泉(ごうかせん)」とも称されるこれらの音頭は、観光化も商業化もされていない、かといって絶滅の危機に瀕しているわけでもない、生きている現役の芸能です。だから大阪の櫓は非日常的な祝祭空間でありつつ、どこかゆったりとして落ち着ける、日常とも近い感じも併せ持っているように思います。

一方で東京や愛知と同じく都市部の盆踊りらしい、多彩な音源を使って民踊を楽しむ櫓も多数あります。「炭坑節」や「ドンパン節」は大阪でも大定番、「大阪音頭」など文字通りご当地曲に加え、区民音頭や町会音頭などピンポイントな地元曲もたくさん。その傾向は地域により様々で、そこでしかかからない一曲を求めてやってくる盆踊り好きもいるとか。

生音頭と民踊。雰囲気や楽しみ方が少し異なるこれらの盆踊りを、どちらもたーっぷりと楽しめるのが大阪の盆踊りの魅力なんです。

地域によって踊られる盆踊りにも特色あり

大阪、と言いましたが、盆踊りはやはり旧国名で考える方がわかりやすいかもしれません。すなわち、河内、泉州、摂津の3カ国です。

大阪の東部、南北に長い河内では河内音頭と江州音頭が、大和川より以南の泉州(和泉)では泉州音頭が、文字通りそれぞれ盛んです。大和川より北、大阪市内から兵庫県の尼崎、そして伊丹にかけた摂津では、音源を使った民踊盆踊りが中心になることも多いです。

これを抑えておくと「どんな盆踊りに行きたいか」ある程度イメージにあわせて櫓を探せるかもしれません。西高東低ならぬ「西民踊・東音頭」といったところでしょうか。大阪市内中心部は参加者が多いぶん踊りやすい定番曲が多めですが、環状線や淀川を越えるにつれ、選曲の幅がどんどん広くなっていくような気がします。

ただし、これはあくまでざっくりとした目安に過ぎません。全国津々浦々の民踊が流れつつ地域伝承の生唄も混ぜ込まれる盆踊りや、生音頭が常識の地域で人知れず開催される素朴な音源の盆踊りなど、意外な櫓を見つけるのも最高に楽しい!

なお、筆者はこの三つの国の境にある、その名も堺市に住んでおりますので、あれもこれも行き放題というわけです。

大阪のおすすめ盆踊り会場を紹介!

野崎観音千日まいり(7月9日)で初め、東大寺二月堂十七夜盆踊り(9月17日)に納める……これが関西の盆踊りシーズンとされていますが、音頭取りや太鼓会による各種盆踊りイベントは年中無休。盆踊り好きにとって夏は再会の季節……というのが普通ですが、大阪で夏はお別れの季節だといいます。シーズンオフ中のイベントは踊り子が一箇所に集中するため毎回のように顔を合わせますが、お盆の時期はそれぞれの地元や贔屓の音頭取りを追っかけたりとばらばらになるので、むしろお別れになっちゃうんですね。大阪らしいエピソードです。

それでは、千にも及ぶと言われる関西の盆踊りの中から、ほんのごく一部ですがご紹介致します。

中大江校下盆踊り

8月上旬、中央区の中大江公園で開催されるこちらの盆踊りは、生音頭と民踊のどちらも踊れるハイブリッド型。二代目桜川唯丸師匠の未来感溢れる江州音頭と、「浪花のモーツァルト」キダ・タロー作曲の中央区民音頭、どちらも楽しめる、とっても大阪らしい櫓の一つです。二日目の開幕時は大阪では珍しい鳥取のしゃんしゃん傘踊りも披露されます。傘踊らーはお見逃しなく。

金岡神社の盆踊り

堺を代表する盆踊りでありつつ、世間的には盆踊りの開始を告げる太鼓担ぎの方が有名かもしれません。「べーらべーら、べらわっしょい!」夜、十一町の太鼓が宮入を終えると見物客は概ね解散しますが、地元民にとってはここからが本番、ようやく盆踊りの始まりです。
ここは有名会派の来援ではなく、青年団自身が古風な音頭を深夜までノンストップで取ります。だから音頭取りは浴衣でなく粋なお祭り装束。趣向の凝らされた台に吊るされた、十一の巨大な太鼓が一斉に打ち鳴らされる中、深夜までひたすら踊る! 昔ながらで贅沢な盆踊りを堪能できます。

難波別院 南御堂盆踊り

夏も終わる頃、親鸞聖人の法要(8月27 日、28日)にあわせて開催される、お馴染みの盆踊り。御堂筋線本町駅近くという、まさしく大阪の中心で開催されるので、コアな踊り子からライトな層まで、二日間で数千人が集まるといわれています。
大阪市日本民踊研究会による凛々しいお手本のもと、全国の定番曲が民踊歌手の生唄でしっとり楽しめるほか、遊び心あふれる高速炭坑節や「繁昌ブギ」といった賑やかな曲も。そして「親鸞おどり」といったレア曲も踊れます。南御堂のキャラクター、ブットンくんと一緒に、合掌。

八尾グランドホテル

夏を待ち切れない、夏で踊り足りない方にピッタリ。例年春と秋に八尾グランドホテルが駐車場を利用して開催する盆踊りは、八尾の名門八条会を中心に、多数の出演者が音頭をとる豪華な櫓です。
地域に開かれた祭りなのでどなたもふらりとご参加可能ですが、折角なので天然温泉につかって、大衆演劇を観て、そして生音頭で踊りまくる、そして再び温泉で汗を流す、というフルコースがお勧め。ホテルが出店する屋台も欠かせません。ふと見れば、さっき出演していた大衆演劇の役者も踊っているかも。

踊り方にそれぞれのスタイルが表れてくる!

さて、迫力の生音頭派か多彩な民踊派か。どちらの会場も紹介致しましたが、踊り子の中でもどちらかの層に別れているのは事実です。映画と演劇の違いのようなものでしょうか。筆者はどちらも大好きな珍しいタイプ。

例えば河内音頭でも踊り方は様々にありますが、やはり「マメカチ」が中心。大阪の踊り子は、たった十二呼間しかないこの踊りを幾千、幾万回と繰り返すことになります。自ずと崩した、独自の踊り方になってきます。意図的なアレンジというより、一人一人のスタイルが、その人だけの形へと洗練されていくという感じでしょうか。

とても生音頭らしい踊り方ですが、この感覚は「正しく踊る」のが基本の民踊派にも、少なからず影響を及ぼしているのではないかと思います。時に荒く、時に遊ぶように。大阪の炭坑節はひと味違う……かもしれません。

方や生音頭派も、折りに触れ民踊の振付を導入したりもしています。河内音頭を八木節の、江州音頭をばんばの振付で踊ってみせるのもその一つ。もともと河内音頭や江州音頭自体も、様々な節を貪欲に取り入れたりしているので、芸の本質を垣間見る気がします。

さても、そんな魅力に溢れた盆踊りも、昨年はほぼ全てが中止となりました。そして今年も残念ながらそんな気配が濃厚です。でも、そんなに影響を受けるのも、盆踊りが生きている文化である証左。いつかまた、何処かの櫓でお会いしましょう、踊りましょう。

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