東京都の多摩丘陵を舞台にしたジブリ映画「平成狸合戦ぽんぽこ」のモデルとなったお話は、多摩丘陵から遠く離れた徳島県にあったと言われています!今回は、そんな江戸時代末期に阿波国で繰り広げられた「阿波狸合戦」をご紹介します。
目次
平成狸合戦ぽんぽこのあらすじをおさらい!
ジブリの映画「平成狸合戦ぽんぽこ」は、自然に恵まれた東京の多摩丘陵を舞台に繰り広げられるお話です。
昭和42年、多摩丘陵には狸たちがのんびりと暮らしていました。しかし宅地造成による自然破壊・開発の波が押し寄せます。
狸たちは自分たちの住処を守ろうと、先祖伝来の「化け学」「人間研究」に励みます。住民の信仰心に訴えたり、古典的なお化けに化けたりとさまざまな抵抗運動で工事を思いとどまらせようとしますが、開発は留まることを知りません。加えて、四国と佐渡の長老に助太刀を頼み、妖怪大作戦を決行するも失敗に終わってしまいます。
命を落とす仲間も出る中で、残った狸たちは最後の力を結集し、美しい多摩丘陵の幻を人間たちに見せつけるのでした。
時が経ち、化け学を使えるものは人間として暮らし始めます。
そしてある晩、人間に化けた仕事帰りの狸・正吉は、ぽん吉やかつての仲間がゴルフ場で宴会を開いているのを見つけます。全員狸の姿で、再会を喜び合うのでした・・・
お話のモデルとなった阿波狸合戦とは?
あらすじをご説明した平成狸合戦ぽんぽこは、「阿波狸合戦」というお話をモデルに作られたと言われています。
平成狸合戦ぽんぽこに出てくる「化け学」では、同じ狸であっても化け学の習得状況には個人差や地域差がありました。多摩丘陵においては変化本能がほとんど失われている一方、「阿波」「讃岐」「伊予」「佐渡」では変化の伝統を守り続けているのです。作中では化け学を学ぼうと、四国・佐渡から長老を呼んでいる場面もあります。
このように、狸の文化「阿波狸合戦」は、狸と縁が深い阿波地方を舞台に、語られてきた合戦話です。
阿波狸合戦の伝説
「阿波狸合戦(あわたぬきがっせん)」は、江戸時代末期の阿波国(現・徳島県)で起きたとされる狸たちの戦争話です。四国に数多く伝わる狸話のうち、この合戦話が最も有名とされ、文献に初めて載ったのは、1910年刊行の「四国奇談実説古狸合戦」と言われています。
さて、この伝説は、人々に虐げられていた「金長(きんちょう)」という狸を、茂右衛門という人間が助けたことから始まります。
茂右衛門の商売繁盛を助ける金長は、より位の高い狸になるべく、狸の総大将「六右衛門」の下で修行に励みます。
金長は茂右衛門に忠義を尽くそうと才覚を発揮させていきますが、六右衛門はその才覚を疎ましく思い始めます。そして、六右衛門は金長を牽制するために、金長の大切な仲間である「大鷹」を殺害してしまうのです。
これが火種となり、狸たちの大戦争「阿波狸合戦」が巻き起こるのでした。
深手を負った金長は、茂右衛門に礼を述べた後に亡くなるのですが、茂右衛門により「正一位金長大明神」として祀られました。
阿波狸合戦の由来
阿波狸合戦には多くの由来が存在します。
まず、恩返しをベースとするのが、天保年間の大和屋に助けられた“狸が恩返し”をした「動物報恩譚」です。そして、この報恩譚に“勝浦川の河川敷に多数の狸の死体があった事実”が加わったことで、金長と六右衛門の対決話が誕生したとも言われています。
次に、人間社会の出来事を置き換えたと考える向きもあります。津田地区・小松島間の漁業権争いがモデルであったり、合戦における葛藤や派閥争いは人間社会でも珍しくなかったりと、さまざまな可能性が考えられます。
平成狸合戦ぽんぽこと阿波狸合戦の共通点は?
平成狸合戦ぽんぽこと阿波狸合戦の共通点を、裏設定と講談の人気から探っていきましょう。
平成狸合戦ぽんぽこの裏設定
実はこの平成狸合戦ぽんぽこは、第二次世界大戦当時の日米関係を暗に示しているとも言われています。第二次世界大戦では、圧倒的な力を持つアメリカに対し、日本は背水の陣で挑むことになりました。
言われてみれば、負けを覚悟でそれでも「生きるために立ち向かう」日本人の姿が劇中の狸たちに重なりますよね。
阿波狸合戦が講談で親しまれた背景
明治時代、日清戦争下の日本では、阿波狸合戦の講談が人気を博しました。その背景には、以下の3つの理由があったと考えられます。
1.仲間の絆が強まるご当地ヒーロー
ご当地ヒーローの狸が活躍することで、応援する地域の結束力が深まったようです。
2.戦う男性に好まれるストーリー
大義名分を掲げ、第三国との駆け引きをしながら戦う日清戦争。派閥同士の武勇伝や名誉の死・敵討ちなど、現実との共通点に盛り上がったようです。
3.身近に感じられる人間模様
仲間の助け合いで生きていく、人間同様のストーリーが当時の人にも身近に感じられたようです。
2つの狸合戦は、いずれも「人間」の姿を映し出す「ドキュメンタリー」として、その時代の人々が歩んできた歴史を表しているという共通点があると言えるでしょう。
阿波狸合戦の史跡を訪ねよう
阿波狸合戦が繰り広げられた徳島県には、多くの「狸スポット」が存在します。合戦の“史跡”として、4ヶ所ご紹介します。
1.平成狸合戦にも登場した「金長神社」
平成狸合戦に登場した神社は「金長神社」と言い、モデルとなった神社があります。1939年に「阿波狸合戦」が映画化されると大ヒット!その礼を示そうと徳島県小松島市に建立された「金長神社(金長大明神)」です。
茂右衛門の営む染物屋「大和屋」を繁盛させた金長伝説にあやかって、現在も「商売繁盛」「勝負事」に臨む参拝者が絶えません。
なお、2019年のお正月には特別な御朱印が授けられました。通常とは異なる「藍」「阿波和紙」を用いたものです。今後、限定の御朱印は、5月の「金長神社大例祭」と10月の第一日曜日に授ける予定があるそうです。
染物に縁のある「藍」は「勝色」として知られています。阿波の合戦で勝利した金長を祀る神社に参拝してみませんか?
・アクセス
徳島よりJR牟岐(むぎ)線、「南小松島」駅下車
2.「小松島ステーションパーク」で巨大な狸の銅像を見物
小松島ステーションパークには、金長の銅像があります。全高5mを誇る、世界一大きな狸の銅像で、小松島市のシンボルです。
立札の指示に従って、狸の前で手を叩いてみてください。面白いことが起こります!
なお同パーク内、SL記念広場横の郵便ポストには、木魚を抱えた狸が鎮座しています!
・アクセス
徳島よりJR牟岐(むぎ)線、「南小松島」駅下車
3.「金長だぬき郵便局」で旅の思い出を残そう
今まで色々な郵便局を回ってきましたが、ここまでインパクトのある局名は初めてです>金長だぬき郵便局 pic.twitter.com/fGOTnQZUXA
— たくりんP兼任提督 (@takurin1231) 2013年5月2日
「金長だぬき郵便局」は、動物の名前が付いた全国初の郵便局です。小松島の地域活性化の第一弾として、「小松島新港郵便局」から改名されました。
同局で制作されたハガキ・切手には狸が描かれています。狸型の消印もあるので、旅の思い出を残すのにはもってこいの郵便局です!
・所在地
小松島市小松島町新港(小松島ステーションパーク横)
4.六右衛門側が砦としたと伝わる「津田寺」
阿波狸合戦に登場する六右衛門を祀るのが、「津田寺」です。境内にある洞窟は「穴観音」と呼ばれ、合戦の際に六右衛門が砦としていたそうです。
六右衛門大明神・息子の「千住太郎」・娘の「鹿の子」と、親子そろって祀られている津田寺に詣でる人も多くいます。
・アクセス
JR各線「徳島」駅より徳島市営バス「津田海岸行き」に乗車、バス停「津田一丁目」下車
阿波狸合戦に思いを馳せつつ、狸にまつわる史跡をたどろう!
いかがでしたか。今回は、平成狸合戦のルーツを求めて「阿波狸合戦」のあれこれを紐解いてきました。小松島の街には、狸合戦の英霊でもある狸たちが至る所で見ることができます。本記事を参考に、その足跡をたどってみてください。