ここ数年、花火ファンから「それ」はいつ来てもおかしくないと目されていましたが、ついに、先日行われた花火競技の最高峰、大曲の花火でキタ──────!「内閣総理大臣賞」(=総合優勝)を獲得し、ノリにノッている花火屋さんである株式会社マルゴー。2022年10月8日(土)に開催される三陸花火競技大会でもメインを張っているのが、実はこのマルゴーさんです。今日はその本拠地、山梨県の市川三郷町にやってきました。
今回の目的は2022年の「三陸花火競技大会」で個人戦の部に出場予定の若手花火師「長廽 睦(ながさこ むつみ)」さんへのインタビューです。それではお願いします!
目次
紆余曲折の花火師人生
―― まずは長廽さんのプロフィールと、マルゴーに入られた経緯を教えてください。
長廽です。現在39歳になります。もともと出身が島根県で、大阪の大学に通っていたんですが、卒業前の就職活動の時、普通に就職して会社員になるというのが自分の中でしっくりこなかったんです。で、花火が好きだったのと、そのとき付き合ってた彼女に「花火師になったら?」って言われたんですよ。それはすごい記憶に残ってます。それで原付で諏訪湖の花火大会に行って、お客さんが喜んでいる歓声を聞いて「これを仕事にしたいな」って思いました。
そこで就職課の先生に花火師になりたいですと言ったら「いや、きみ経済学部じゃん、自分で探してよ。」って(笑)。それで煙火協会の名簿を見つけて電話し始めました。でもどこも花火師は募集していなくて、中国語はできるかとか、夏だけ手伝いに来れるかとか、そんな反応でした。そこでまた就職課の先生にも助けていただいて、関西の花火会社に入社できたんです。
―― 当時は就職が厳しい時代でしたが、様々な縁があったのですね。
そこから30歳くらいまでは玩具花火を扱ったり、国内外の会社から花火玉を買って打ち上げ演出をやったりしました。でも自社で花火玉は作ってなかったので、もどかしい気持ちが高まってきて、社長にも相談して他社に修行に行く道なども模索しました。が、やっぱりそれは難しく最終的には会社を辞めて、数か月間アルバイトの身分で花火打ち上げの現場を手伝う生活をしていました。その中にマルゴーの現場もあったんです。
すると当時お付き合いのあった保険会社の方がその話を聞いて、「(マルゴーに)これからの事、直談判しましょう」って背中を押してくれたんです。それで一歩踏み出すことができて、マルゴーにもたまたま入れる枠があって入社できたんです。これがなかったら今頃どうしていたか分からないですね。
超多忙!花火師の仕事とは?
―― 今はどのようにお仕事をされてますか?このところマルゴーさんはメディア露出も増えて、忙しそうな印象を受けます。
はい、コロナで仕事がない時期もありましたが、現在は忙しくしてます。私が入社した2014年頃に比べると、現場の数も、花火玉の生産量も増えています。いま火薬を扱っている社員は7人ぐらいいるんですが、全員がすべての工程を一通りやっています。星掛け(色の出る火薬を丸く形成する作業)をやって、天日で乾かしてる間に玉込め(花火玉に星掛けした火薬を詰める作業)をして、それが終わったらもう次の星掛けです。
―― 三陸花火のような現場ではどのようなことをされていますか?
花火打ち上げ中、社長は本部側にいますがほとんどのメンバーは点火場にいます。みなさんの客席から姿は見えませんが、何メートル間隔で消火器をもって待機する係や無線の係など、何人も展開しているんですよ。
点火するだけでなく火の粉が落ちたらすぐ対処しますし、本部側から社長が異常を見つけて指示が飛ぶこともあります。こうした監視は大事なんです。無線トラブルの経験もありますね。事前テストで問題がなくても、当日になると警備会社の使う無線や携帯電話の移動基地局が入って状況が変わることがあります。
三陸花火ではない別の現場ですが、カウントダウンが点火場に届かなくて気が付いたら音楽が8秒くらい先に進んでいたことがありました。後追いで打ち上げ始めて、無線で本部側の音を送ってもらい、途中で点火タイミングを合わせたことがあります。インターネットに上がっているその時の動画でも最初ずれていて途中から合っているんですが、SNSにそのことに気づいている人がいて驚きました。
―― 次の現場は三陸花火競技大会ですか?
今年、実は三陸花火競技大会の1週間前に岩手県奥州市で現場があるんですよ。で、そのまま1週間岩手に滞在して三陸花火競技大会の準備をします。遊んではいません(笑)。でも、三陸花火は大規模な現場ですが、地元の人や他の花火会社さんで手伝ってくれる人がたくさんいるので助かってます。会場も初年度は砂利だったところが翌年来たら舗装されたりとか、どんどん変わっていて復興を感じますね。
花火師の語る花火。マルゴーの花火の特徴とは?
―― 三陸花火競技大会を観覧予定の人にマルゴーの花火の特徴を伝えるとしたら何と言いますか?
何だろう……やっぱり色の濃さ、鮮明さは違うかな。そういう強い光が動いて見える「グラデーション」という種類の花火玉があって、見たことがない人にはおすすめです。グラデーションというのはうちの会社での呼び名で、世間的には「時差式」とも言われています。
―― 長廽さんご自身が好きな花火はありますか?
そこまで強く意識してないですが、点滅、パステル点滅ですね。あと花火終わった後に最近は観客のみなさんがスマホライトを振ってくれることが多くて、うわぁきれいだなあってこっちも嬉しくなりますね。
―― マルゴーは斬新な演出、特に終わり方が普通じゃないプログラムが多いです。あれはどういう経緯で誕生するんですか?
おっしゃっているような演出は工場長が手掛けたものですね。同じような終わり方ばかりだと面白みがなくなるのかもしれません。三陸花火競技大会でも工場長の演出が見られますよ。とはいえ、社内でアイデアは共有しています。何人もで考えているから新しいものが生まれますし、武器が増えたほうが面白いですから。
三陸花火競技大会に出品する花火玉のヒントは…?花火師にとっての競技大会。
―― 今回の「三陸花火競技大会」には長廽さんが出品されています。
はい、今回は工場長の指名です。
―― マルゴーといえば多彩な花火玉がありますが作る人は決まっているのでしょうか?
ひと通りはみんな作れます。製造レシピを共有しているという感じですね。
―― ちょっと変なことを聞きますが、競技会に出品する花火は本当に自分で作っているんですか?
はい、三陸花火競技大会の個人戦なら4号10発、5号10発で競いますが、私が全部やっています。会社として製造する花火玉の割り振りとは別に競技会用として任されていますから、管理も自分がやりますよ。
新作という規定についても、人によって新作の定義はあると思いますが、私は「本当に今まで誰も見たことがないもの」という物を作っています。
―― それは気になりますね。どんな花火かちょっとだけヒントもらえますか?
三陸花火競技大会で上がる花火玉のヒントとしては「コズミック」系ですね。力がみなぎる感じの花火です。
注:コズミックもマルゴー独特の時差式の一種。まるで地球儀のように光が動いて見える。
―― 他の出品者の反応は気になりますか?
あまり気にしません。というか、三陸花火では私は点火場にいるので反応が見えないんですよ。その代わり自社メンバーの反応はわかります。大体はポジティブですが無言もたまにあります(笑)。
―― 逆に長廽さんが気になった出品者はいますか?
他の人の作品では、昨年ゲームの音楽を使った作品(千葉県の福山花火工場の小林さん)があって面白いなと思いました。あとは、競技ではありませんが丸玉屋小勝煙火店に広瀬さんという立体の花火を作る人がいて、ビールジョッキや餃子の立体花火を打ちあげるんですが、あれは面白いですね。
―― 花火の競技会になじみがない観客もいると思いますが、どうやって見ればよいでしょうか。
三陸花火競技大会では、音楽に合わせて花火が打ちあがります。そこから作った人の意図を感じ取ってもらうことができたなら、それは良い花火だと思います。でも楽しんでもらえるのが一番ですね。
競技会での優勝を目指して…今の立ち位置とこれから
―― 8年ほど前、別媒体のインタビューで、「競技会で優勝したい」とおっしゃっていたのですが、ここまでの道のりをご自身で振り返ってみるとどうでしょうか。
そうですね……。マルゴーの良いところなんですが、自分で作りたいものを作らせてもらえて、成功するにせよ失敗するにせよ、結果を自分で受け止めてまた進んで、挑戦、挑戦なんです。例えば花火の原材料もいますごく値上がりしているんですが、だからと言って作りたいものを制限するようなことにはならず、やりたいことをやらせてもらっています。
色々教えてもらって花火を作ってきて、会社としても内閣総理大臣賞をいただきました。そう考えると自分の道は間違ってなかったなと思います。これからも人を喜ばせる仕事をしたいですね。
―― さらに高みを目指しているんですね。本日はどうもありがとうございました。