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愛知県の<徹夜まつり>の魅力がギュッと凝縮!2023年「東栄フェスティバル」で700年続く神事「花祭」を味わう!

2023/11/2
2023/11/2
愛知県の<徹夜まつり>の魅力がギュッと凝縮!2023年「東栄フェスティバル」で700年続く神事「花祭」を味わう!

2023年11月3日に愛知県北設楽郡東栄町で「東栄フェスティバル」が開催されます。

この地域に伝わる重要無形民俗文化財「花祭」シーズンの到来を前に、同祭のエッセンスを凝縮したパフォーマンスが行われるイベント。この記事では、ライターの小野和哉さんによる2022年の現地レポートとともに、2023年の開催情報をお届けします。

花祭への思いを込めて人々は舞った!

2022年11月3日、愛知県北設楽郡東栄町の「東栄ドーム」にて、3年ぶりとなる「東栄フェスティバル」が開催されました。愛知や静岡など、近隣地域の人でにぎわう観光まつりとして昭和60年から続くこのイベント。東栄町の11カ所の地区(布川地区は休止中)に伝わる、重要無形民俗文化財指定のお祭り、「花祭」の実演や、地域の子どもたちによる太鼓パフォーマンス、数々の地元物産でにぎわった、イベント当日の模様をレポートします!

感染対策をしながら、東栄町の魅力をたっぷりと堪能!

会場となった東栄ドームは、天井の付いた全天候型の多目的施設。壁がないため開放感は抜群! 野外に近い環境で演目を楽しむことができます。

開場の時間になると、さっそくたくさんのお客さんが会場入り口の受付に並びました。今年は感染対策として、入場前に消毒・検温・来場者受付シートへの記入が義務付けられています。受付を済ませた人には、その証としてリストバンドが装着されます。

会場内では「とうえい物産市」と題し、近隣で採れた野菜の販売、特産物の展示、B級グルメの屋台など、さまざまな出展ブースが並び、開場から多くの人でにぎわいました。

会場で購入した飲食物は、ドーム外の飲食可能スペースで食べることができます。これも、感染対策の一環。東栄町を取り巻く奥三河の雄大な自然を眺めながら食べる、地の名産はまた格別です!

東栄町の若者たちが花祭の継承を目的に活動している「花祭部」のブースでは、花祭で使われる衣装の着付けや、祭り会場に飾られる「ざぜち」という切り絵の体験コーナーが用意されており、こちらも多くの人でにぎわっていました。

「湯立て神楽」の若き担い手たちが意見を交わしたトークセッション

物産市が盛り上がる傍らで、ステージエリアでは司会進行のお二人が壇上に並び、オープニングトークを開始。客席にも、続々と人が詰め掛けます。なお、今回のイベントの模様は、YouTubeでもライブ配信されました。

例年はステージエリアを取り囲むように物産ブースが配置されていましたが、今年は物産エリアとステージエリアを分け、さらにステージエリアに入り口と出口を設けることで、人流をコントロール。人が密になりすぎないように配慮されていました。

ステージエリアでの最初のプログラムは、「三遠南信湯たて神楽トークセッション」。実は東栄町の花祭のように、大きな釜に湯を沸かして無病息災や五穀豊穣を願う、いわゆる「湯立神楽」と呼ばれる神事は、全国さまざまな場所に伝わっています。

今回は、東栄町をはじめ、静岡県浜松市天竜区佐久間町の「川合花の舞」、長野県飯田市遠山郷の「遠山霜月祭」の若き担い手が集まり、それぞれの地域の祭りの特徴や、伝統芸能の継承に関する意見交換がおこなわれました。司会は、東栄町足込地区の出身で、花祭部のメンバーでもある伊藤拓真さんと、東京在住の花祭愛好家・豊村ゆかりさんが務めます。

東栄町月地区で花祭の担い手をしている伊藤諒也さんが、月地区の花祭の特徴として挙げたのが、時間が長いということ。なんと、二日間夜通しで祭りを開催します。また、伊藤さんが感じる花祭の魅力は、保育園児からおじいさんおばあさんまで、老若男女が参加して、いろいろな世代が繋がれること。最近では、昔は参加が禁止された女性の参加も増え、ますます多様な顔ぶれになっているようです。

続いて、川合花の舞保存会の笹野良太さんより、「川合花の舞」の紹介がありました。東栄町からも近い佐久間町で継承されている「川合花の舞」は、毎年10月の最終土曜日に開催。五穀豊穣と無病息災を祈る、花祭とよく似た湯立て神楽です。特徴は、色紙を用いたカラフルな「ざぜち」。実際に、1/4サイズのざぜちがステージ上で披露されました。

最後に、上村遠山霜月祭保存会程野支部の宮田浩司さんより、「遠山霜月祭」の紹介がありました。長野県飯田市上村の4地区で継承されている「遠山霜月祭」は、毎年12月第1土曜日から12月中旬に開催されています。800年の歴史があるとされ、百姓一揆によって滅びた遠山氏の霊を鎮める祭りでもあるとのこと。上村下栗地区の霜月祭はジブリの宮崎駿監督も見学をしたということで、ジブリ映画のモチーフになっているそうです。

登壇者の自己紹介と、それぞれのお祭りの紹介が終わった後は、各地域共通の課題である「継承活動」に関する意見交換に移りました。

時代に沿った形で子どもたちに伝統を伝えていくために、練習日を平日から土日に変更したり、学校教育に伝統芸能の体験授業を盛り込んだりと、さまざまな取り組みがなされてきました。そんな中で、技術の継承面では、今の子どもたちは手取り足取り教わる機会が多く、舞が形式張った味わいのないものになっているという課題も出てきています。

そこで思い出されるのは、先輩たちの背中を見て憧れをおぼえ、技術を習得したかつての自分たちの姿。この経験を踏まえ、子どもたちの憧れに存在になることが大事であると、若手継承者たちの意見が一致します。必要なのは、自分も大人になったら祭りの担い手になりたいと思ってもらえること、そのために将来地元に戻りたいと思ってもらえること。宮田さんは、「祭りの力は地域の力とイコール。祭りがある限り、村は滅びない。だから、まだまだ祭りを絶やしたくないし、これからも盛り上げていけると思っている」と、力強く語ります。

普段交流する機会の少ない若き担い手たちの熱い思いが交差したトークセッション。その様子を見守っていたモデレーターの豊村さんも、「若い世代の方々が祭りに対して真っ直ぐ向き合っている姿は刺激をもらえるし、これからも祭りをみんなで楽しみながら続けていくために、私も応援できるところは応援していきたい」と、最後にコメントされました。

トークセッションの後は、東栄小学校の生徒たちによる和太鼓の演奏が披露されました。東栄小学校では、5〜6年生の児童が全員「和太鼓クラブ」に入って、地元の和太鼓グループ「志多ら」の指導のもと、和太鼓練習に励みます。その練習の成果が発揮された、迫力のある演奏でした。

笑いあり、榊鬼の勇壮な舞あり、バラエティに富んだ「下粟代」の花祭

小学生による和太鼓演奏の後は、いよいよ花祭の実演となります。開会式では、東栄町長の村上孝治さんや、その他たくさんの来賓の方々からのご挨拶がありました。村上町長は三年ぶりに東栄フェスティバルを開催できたことへの喜びを、万感の思いを込めて語られました。

トップバッターを飾るのは、下粟代(しもあわしろ)花祭保存会。男性が一人登場し、すべての舞の最初におこなわれる「市の舞」を披露します。大きく両手をかざしたり、ゆっくりと体をひねったりと、祈りを捧げるような動きが特徴。神がかり的な動きに、聴衆は引き込まれていきます。

続いては、「地固めの舞」。この舞は、舞庭を清め固める意味があるとされていますが、今回は、「扇」「ヤチ」「剣」の3つの採りもの中から「剣の手」を披露しました。若々しさを誇示するかのような、足腰を使ったダイナミックな舞に目を奪われます。シンクロする二人の動きも心地いい調和を感じさせます。

花祭に登場するさまざまな神々の一人である「翁(おきな)」が、舞台の下からゆっくりと登場しました。花祭の中でもコミカルな要素の強い演目で、この日も時勢に合わせて翁の面の上にマスクを装着。

花祭をやると聞きつけてやってきた翁が、ステージの上で「改め役」と交わす滑稽な問答も見どころの一つ。「やっとかめでやったな。3年ぶりくらいか? 何をやっとったんやれ」「コロナで……」「コロナかかっちゃった!? オミクロンかい!?」と、時事ネタを織り交ぜたトークで、観衆の笑いを誘っていました。

最後を飾るのは、大地再生の神と崇められている「榊鬼(さかきおに)」。最初に榊鬼の家来である「伴鬼」が二体出てきて、マサカリを振るう激しい舞を披露。場を盛り上げたところで、いよいよ親分である榊鬼が登場します。ゆっくりとした、非常に威圧的な動きが特徴で、場を圧倒します。

途中、「改め役」との問答を挟みながら、最後には勇壮な「へんべ」の舞を披露。地面を踏みしめるような動きは、地の聖霊を呼び覚ますものだとされています。

実演の後に、「市の舞」と「地固めの舞」を舞われた金田 新さん(29)にお話を伺いました。

金田さん「実際のお祭りとはまた違った環境ではありましたが、とても楽しく舞うことができました。今年の下粟代の花祭は非公開での開催となりますが、これからも続けていけるように、一個一個をしっかりと舞っていきたいなと思います」

子どもたちの舞にほっこり、そして最後は「湯ばやし」のクライマックス!

続いては、御園地区花祭保存会による実演です。最初の演目は子どもたちが舞う「花の舞」。大人に肩車をされてステージに上がってきた四人の舞い手が一生懸命に舞います。衣装の鮮やかさも含めて、文字通り「花」が舞うような華やかな舞となりました。

子どもたちが退場すると、二体の伴鬼が登場して一心不乱にマサカリを振るう舞を披露します。場が盛り上がってくると、いよいよ「山見鬼」の登場です。

迫力のある顔つきをした山見鬼が、しずしずとステージに入ってくると、場の雰囲気が一変します。最初は矛を手にしていますが、途中でマサカリに持ち替え、大地を割るような仕草で上下に振るいます。この所作は浄土を開くという意味合いがあるそうです。

最後の演目は「湯ばやし」です。両手にワラを束ねたタワシ(湯たぶさ)を持った四人の舞い手が、釜の周囲で激しく舞います。実際のお祭りでは、釜に湯を沸かしていて、その熱気も相まって、舞庭のボルテージはだんだんと高まっていきます。

舞の熱気が最高潮に達したところで、舞い手が釜の中にタワシを入れて、周囲に撒き散らします。この場では紙吹雪が舞いましたが、実際の花祭ではお湯が飛び散ります。しかし、この湯を浴びるとその年は病気にかからないそうです。

実演の後に、最後の「湯ばやし」に出演された尾林雅司(24)さんにお話を伺いました。

尾林さん「久々に舞ったら、こんなにしんどかったかなという感じでした(笑)。子どもたちの舞も含めて、みんな忘れている部分もあるなと感じましたので、今日の反省を踏まえ、本番に向けて練習していきたいと思います」

東栄フェスティバルのトリを務めたのは、東栄町を拠点に長年活動を続けている和太鼓グループ「和太鼓 志多ら」。観客参加型のコーナーもあり、花祭を模した演舞もあり、盛りだくさんの内容で会場を盛り上げました。

担い手の皆さんの思いが、「祭り」を再び再生させた

イベント後、今回の東栄フェスティバルの立役者ともなった、東栄町役場の山下康晴さん、東栄町観光まちづくり協会の伊藤拓真さんに感想を伺いました。

山下さん「ここ数年は、残念な決断をしなくてはいけない状況が続いたのですが、今年は感染症対策もしっかりとして、なんとか「東栄フェスティバル」を開催にこぎつけることができました。かつ、これだけたくさんのお客さんに来ていただけたことは、嬉しい限りです。

また今回は、花祭だけでなく「三遠南信湯たて神楽トークセッション」を行いました。「湯立て神楽」をキーワードに各地の若手たちが集まって意見を交わすことができたので、未来につながるフェスティバルになったんじゃないかと思います」

伊藤さん「今回『三遠南信湯たて神楽トークセッション』で、各地域のみなさんの思いを聞けたことがとてもよかったです。これまでの東栄フェスティバルは、各保存会の方に出演してもらうだけで終わってしまい、関係者同士でつながる機会がなかったんですよね。

実際に話を聞いてみると、それぞれ共通点がとても多くて、思いもそうですけど、悩みも同じだったりして。その悩みに対してどう対処していくか、一緒に取り組んでいくことができれば、これからのプラスになるんじゃないかなと思います」

【あとがき】

3年ぶりの開催の喜びに満ちあふれた、今回の東栄フェスティバル。印象に残ったのは、困難な状況の中でも「いまできることは何か、そして未来に向けてできることは何か」を考えて行動を続ける地元の方々の姿。それはまさに、地の精霊を呼び覚まし、「再生」を祈願する花祭の本質とも重なるものでした。

2023年の開催情報!

日時:11月3日(金・祝)10:00~15:40

場所:東栄ドーム(東栄町大字本郷字上大林1)

主なスケジュール:

10時00分〜 とうえい物産市開始

11時20分〜 東栄小学校和太鼓発表(30分)

12時00分〜 開会式

12時40分〜 花祭・中在家花祭保存会(50分)

13時45分〜 和太鼓演奏・志多ら外部サイトへのリンク(50分)

14時50分〜 花祭・中設楽花祭保存会(50分)

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