関東を中心に開催される「酉の市」という伝統的なお祭りを知っていますか?
特に関東にお住まいでない方には聞き馴染みが薄く、関東の方でもその起源について知らない方も多いでしょう。
この記事では、そんな酉の市について、なぜ関東中心で行われているのか、そして三大酉の市についてご紹介していきます。
そもそも酉の市って何?
まずは、「なぜ、酉の市は関東を中心に開催されているのか」という疑問を解消する前に、そもそも酉の市の起源について知りましょう。
酉の市の起源と最初に酉の市を開催したお寺や神社を知れば、ヒントが見えてきます。
酉の市の起源は諸説あるって知ってた?
酉の市の起源は仏教説と神道説の2つの説があり、言い伝えはそれぞれ異なっています。それぞれの言い伝えを見てみましょう。
仏教説での酉の市の始まり
鎌倉時代の文永2年に、宗祖・日蓮大聖人が現在の千葉県茂原市である上総国鷲巣(かずさのくにわしのす)にある小早川家に滞在している間、国家平安を祈願していたそうです。
その時突然、金星が動き出して不思議な力をもって現れたのが鷲妙見大菩薩(わしみょうけんだいぼさつ)と言われています。鷲妙見大菩薩は、七曜の冠を被り宝剣をかざして鷲の背に立つ姿から「鷲大明神(おおとりだいみょうじん)」や「御酉様」と呼ばれてきたようです。
鷲妙見菩薩が現れた11月の酉の日をご開帳日と定めて以来、開運招福の守り本尊として広く尊び崇められています。仏教説で崇められているのは「鷲大明神」で、開運招福のご利益があることが分かります。
神道説での酉の市の始まり
天照大神(あまてらすおおみかみ)が洞窟に隠れて、天宇受売命(あめのうずめ)が洞窟の前で踊った時、そこに弦という楽器をつかさどる神がいて天手力男命(あめのたぢからお)が洞窟を開いたそうです。
その時に、弦の先に鷲(わし)が止まったため、神様たちは世の中が明るくなる兆しだと喜びました。その後、神様は鷲の一文字を入れて「鷲大明神」や「天日鷲命(あめのひわしのみこと)」と称したそうです。天日鷲命は、諸国の土地を開いて、開運・殖産・商売繁盛のご利益がある神様として祀られるようになりました。
後に、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東夷征討の時に、埼玉県久喜市にある鷲宮神社に立ち寄り、戦勝を祈願したと言われています。その後、志しを遂げて帰還する途中、神社の前の松の木に武具の「熊手」をかけて勝利を祝いお参りしました。その日が、11月の酉の日だったので、この日を例祭日と定めて始まったのが「酉の市」と言われています。この出来事をきっかけに、日本武尊が併せて祀られ、御祭神の人柱となりました。
二柱の一つである「鷲大明神」が仏教説と共通している点は興味深いところですね。
酉の市発祥と言われる4つの寺と神社
酉の市の発祥の地は4ヶ所あると言われています。
1ヶ所目は、仏教説を唱えている、浅草の鷲在山長國寺です。長國寺は、江戸時代の1630年より酉の市を開催しています。
2ヶ所目は、神道説を唱えている、同じく浅草の鷲神社です。長國寺と鷲神社は、江戸時代には同じ境内に在ったそうです。しかし、明治初年の神仏分離令により南と北に分割されました。元々同じ境内に在ったことが、言い伝えにある神様の名前が共通している所以かもしれません。
3ヶ所目、4ヶ所目は足立区の大鷲神社、千住の中酉神社です。
酉の日に開催される酉の市
酉の市は11月の酉の日に行われます。十二支である酉は、酉年など年を表すことが一般的ですが、月や日あるいは時刻を表すことにも用いられます。
一年を通して日付に十二支が割り振られており、その年ごとに酉の日は異なります。
11月の酉の日は最大3回訪れ、1回目を「一の酉」、2回目を「二の酉」、3回目を「三の酉」と定めて開催されるお祭りが酉の市です。なお、3回まで開催される年は火事が多いと言い伝えられています。
なぜ酉の市は関東に多いのか?
江戸時代から酉の市が行われている鷲神社や大鷲神社は、武神である日本武尊命ゆかりの神社であるため、当時、武運長久を祈り武士たちから崇拝される神社だったそうです。
当時武士社会の中心地は関東だったことから、関東を中心に広がったと考えられています。
元々は武士の祭りでしたが、江戸時代半ばになると戦国の時代が収束し、酉の市は武士のお祭りから農民の祭りへと変わり広がったそうです。
酉の市に似たお祭り「えびす講」や「おかめ市」とは?
開催時期が酉の市と同じ日になる場合がある、「えびす講」という恵比寿様を祀る行事があります。
えびす講は、「えびす祭り」や「えべっさん」とも言われており、家内安全や商売繁盛を願い熊手や福笹飾りが販売されます。酉の市でも、商売繁盛を願って熊手が売られているため、酉の市とえびす講が混同されることがありますが無関係のようです。
次に、酉の市と同様で酉の日に開催される「おかめ市」というお祭りがあります。
おかめ市は埼玉の一部の地域で開催される、開運や商売繁盛を願う酉の市と同一のお祭りです。
おかめ市の特徴は、他の酉の市とは異なり12月に開催され、おかめの面や小判などを飾り付けた熊手が販売されていることです。
行ってみたい関東三大酉の市
こでは、関東三大酉の市の特徴と、2019年の開催情報をご紹介します。
浅草:鷲神社・長國寺
浅草酉の市の特徴は、鷲神社と長國寺の両方の「御酉様」に商売繁盛と開運招福を願い、参拝できることです。また、辺り一帯に浅草の老舗や開運グッズの屋台など約500店舗の露店が出店する盛大なお祭りです。露店には、可愛い熊手守りから豪華な縁起熊手まで揃えられています。
2019年の酉の市の開催日時は以下のとおりです。
一の酉:2019/11/8(金) 00:00~24:00の24時間
二の酉:2019/11/20(水) 00:00~24:00の24時間
新宿:花園神社
よってらっしゃい~
みてらっしゃい~
見世物小屋ですよ~👏
新宿花園神社 酉の市名物
見世物小屋。
日本最後の東京に残存する
最後の一軒「大寅興行社」の
見世物小屋ですワクワクします😄 pic.twitter.com/iROkU83Znn— 池の鯉 (@haveaniceday101) November 8, 2019
花園神社 酉の市の特徴は、日本で最後の見世物小屋があることです。見世物小屋は、江戸時代より奇獣や奇形児などがパフォーマンスを行う舞台でしたが、昭和50年以降は、障害者を見世物にすることへの批判が高まったことで衰退していったそうです。
花園神社の見世物小屋では、現実離れした珍しいものやグロテスクで衝撃的なパフォーマンスを見ることができます。「火を吹く女」や「蛇女」が有名ですが、内部は撮影禁止のため足を運んだ人しか彼らのショーを観ることができません。
2019年の酉の市の開催日時は以下のとおりです。
一の酉:前夜祭 2019/11/7(木)夕方頃~午前2時
本祭 2019/11/8(金)昼頃~午前2時
二の酉:前夜祭 2019/11/19(火)夕方頃~午前2時
本祭 2019/11/20(水)昼頃~午前2時
府中:大國魂(おおくにたま)神社
大國魂神社で開催される酉の市の特徴は、大鷲神社でお祓い済みの神符熊手を購入できる点です。かんざし守りという500円程度の可愛らしい熊手から3,000円程度の大きな熊手まで揃っています。大國魂神社の酉の市は比較的混雑しているものの、落ち着いた雰囲気のなか楽しむことができます。
2019年の酉の市の開催日時は以下のとおりです。
一の酉:2019/11/8(金) 00:00~24:00の24時間
二の酉:2019/11/20(水) 00:00~24:00の24時間
酉の市が関東中心なのは「武士の祭り」だったから
酉の市は、武神である日本武尊命が起源に関係していることから、武士社会の中心地だった関東を中心に開催されてきました。
その後、農民へと門戸が開かれ、現在のような市民向けに変わっていったようです。
東京の三大酉の市は、浅草や新宿など江戸時代から続き、それぞれに異なる特色がみられるため、参加する際は規模や目的に応じて行き先を決めるとより一層楽しめるでしょう。
開催時間が約12時間~24時間と長いため、1日で2、3ヶ所の酉の市に参加することもできます。酉の市に一度も行ったことがない人は、まずは関東三大酉の市に参加してみてはいかがでしょうか?