2019年からスタートした、観光経済新聞のオマツリジャパンコラム記事連載!2020年も「お祭り」をフックに、旅に出たくなる記事の連載をして参ります!奇祭好き、ケンカ祭り好き、お神輿好き…等、様々なライターさんに記事を執筆いただく予定ですので、ぜひご覧ください♪(オマツリジャパン編集部)
水田を進む彩り豊かな馬
チャグチャグ、チャグチャグと鈴の音が、田んぼが連なるさわやかな緑の景色の中に響き渡る。あぜ道の奥から進んでくるのは、赤を基調にカラフルに着飾った馬。自然の緑と馬の赤が重なり合い、醸し出される独特な風景は美しい。
初夏の陽気を感じ始めるこの日、毎年6月中旬に岩手県滝沢市と盛岡市を横断して行われるお祭り「チャグチャグ馬コ」が開催されていた。チャグチャグ馬コは、岩手県がまだ南部藩と呼ばれていた江戸時代から200年以上続くお祭りだ。南部駒といわれる南部藩が育ててきた優秀な馬からも分かるように、当地では昔から馬を大切にしてきた歴史がある。馬は、当時から岩手で盛んだった農耕と密接なこともあり、居住した南部曲り家というユニークな形の家も知られている。その馬に感謝と無病息災の祈りを、ということで旧暦の端午の節句に合わせ行われているのがこのお祭りだ。
馬は乗り手の子どもたちと共に、田園風景の中を連なって進んでくる。女の子は「あねっこ衣装」と呼ばれる、青く染められた服に黄色い帯を締めているのが特徴だ。豆絞りの上に、赤いぼんぼりの付いた編み笠をかぶっているのもかわいらしい。この時代絵巻のような馬と子どものコンビで、滝沢市の鬼越蒼前神社(おにこしそうぜんじんじゃ)から盛岡市の盛岡八幡宮まで、約14キロ、4時間の旅路を進む。
農村の風景を抜け盛岡市内へ入ると、また違った光景を味わうことができる。市街地への入り口、北上川に架かる中の橋を渡る際には、遠方に望む岩手山とのコントラストも美しい。そして市街地へ入ると、一変ビル街の中で馬たちは歩みを進めることになる。現代と原風景の重なりが見られるのも見どころの一つだろう。
この馬が歩いている様子を見ているだけで、優しい気持ちになってくるのはなぜだろうか。馬と仲良く時代を重ねてきた、岩手の空気感がそうさせるのだろうか。行列を横目に盛岡名物のじゃじゃ麺を食べながら、ふとこんなことを考えた。