歌舞伎町で「福井の獅子舞」が演舞、東京のど真ん中で舞い感じたこととは?

2025/3/27
2025/3/27
歌舞伎町で「福井の獅子舞」が演舞、東京のど真ん中で舞い感じたこととは?

福井県の獅子舞が東京・歌舞伎町で舞った。2025年2月9日(日)に「新宿カブキhall~歌舞伎横丁」にて、福井県越前町八田区に伝わる県指定無形民俗文化財「八田獅子舞」の演舞が行われたのだ。

はたしてどのような演舞になったのか?獅子舞研究家として全国500件以上の獅子舞を取材した筆者が、当日の様子と会長の井上邦夫氏へのインタビューをもとに、当日の様子をレポートする。

八田獅子舞とは? 

八田獅子舞は福井県越前町八田地区に伝わる民俗芸能だ。歴史を遡ると300年前の江戸時代より、伊勢神宮に所属する伊勢大神楽が諸国を巡る中で、それを自分たちでも実際に舞ってみようということで舞い始めた。1986年には福井県の無形民俗文化財に指定されている。

毎年10月の秋祭りには、早朝6時に地元の氏神様を祀る柳田神社に奉納してから、2組に分かれて地区内約70戸の家々を舞い歩く。御神酒をいただいたのちに、地区内の神社と家々を悪魔祓いのため訪問し、玄関先でお初穂と飾り餅を交換して舞を開始する。

演目は6つあり、悪魔払いの舞、本獅子の舞、にらみの舞、剣の舞、三番叟の舞、あがきの舞である。舞う順序もこの通りである。家を回る時は、悪魔祓いの舞、本獅子の舞、あがきの舞を中心に舞い、他の演目は奉納や各種出演の際に披露される。

獅子舞を実際に拝見して

「新宿カブキhall〜歌舞伎横丁」は、新宿駅から徒歩10分もかからないところにあるホテル×エンタメ施設からなる超高層複合施設「東急歌舞伎町タワー」の2階に位置する。2023年4月に開業し、東京・歌舞伎町の新たなランドマークとして認知されたこの施設を代表する空間だ。昼間からキラキラと光るネオンに彩られた飲屋街が立ち並び、Z世代と思われる若者たち、あるいは訪日観光客たちが集い、賑わいを見せる中、その中心を飾るのがステージである。吹き抜けの構造になっており、3階から鑑賞することもできるし、ステージ前には丸型テーブルが点在して、食事や飲み物を飲みながら芸能を楽しむことができる。今までこのステージで、数々の民俗芸能が披露されてきた。

演舞の時間は、13時からと15時からそれぞれ30分ほど。各回「にらみの舞」を除く5つの舞が披露された。最初は悪魔祓いの舞によって獅子に魂が宿された状態となる。それから本獅子の舞、剣の舞と、獅子の演者2人のゆっくりした舞いが続いていく。三番叟の舞になって、急に獅子の胴幕の中に5人の人が入り、舞い始める。そして会場には天狗が登場して、飴玉をプレゼントしてくれたり、子どもや訪日客などをさらって、獅子に頭を噛んでもらうということもしていた。参加者と演者とのコミュニケーションが生まれていて、会場に笑顔が溢れていた。そして獅子が扇子を咥えて日の丸を取り込んだかと思うと、どんどん活発になっていく。最後のあがきの舞では、特に舞いが激しくなり、最前列の観客に迫るような動きもあって圧巻だった。

悪魔祓いの舞

本獅子の舞

剣の舞

三番叟の舞

あがきの舞

歌舞伎町で福井県の獅子舞を拝見してみて、穏やかな動きが多く感じられたが、体が大きい分迫力があった。伊勢大神楽の系統だと主に2人立ちだが、5人立ちは珍しい。多くの担い手が必要になる印象だ。20分超の中で演目の目まぐるしい変化も見どころで、いつも地元で演じる神事のままを意識したようだが、観客としても楽しめる舞いとなっていた。

見物客の傾向としては、じっくり演舞を見学していると言うよりは移動しながら、その足のスピードを緩めるように、チラチラと獅子舞の方を気にして見ている方も多いような印象があった。20歳前後の若い女性が獅子舞の御幣を振る姿をノリノリで真似ているような光景も見られた。また、訪日客が頭を噛まれた姿を記念写真として撮ってもらっていて喜んでいた。客席は丸テーブルと椅子が点在していてフランクに鑑賞できる雰囲気なので、客席に天狗が入っていったり、獅子が見物客の頭を噛んだりということもしやすいように感じられた。

井上邦夫会長にインタビュー!歌舞伎町での演舞はいかに

さて、今回の演舞に関して、空き時間に八田獅子舞保存会会長の井上邦夫さんにお話を伺うことができた。獅子舞の演舞を演じ手はどのように捉えたのだろうか。

ーー最初、歌舞伎町での依頼を受けた時にどのように感じましたか?

普段は福井県内での舞が多くて、新宿に来たのは今回が初めてです。若者向けのイベントが多いところなので、「本当に雰囲気的に合うのかなあ」と思っていましたが、お受けしました。全国に獅子舞はいろいろあると思いますが、福井県には八田獅子舞あり!と伝えたかったんですよね。

ーー歌舞伎町では神事としての舞いをそのまま舞いたいというお話をされていたようですね。

イベント用に何かを変えるということは基本的にしていなくて、変えるとしたら舞を短くするくらいですね。カーニバルとも違って、毎年コロコロ変えたり派手にしたりはできません。今回は10分間、ゆっくりとした舞いをする「にらみの舞」のみ、歌舞伎町ホールの賑やかな雰囲気と合わないかもしれないと思い省略しました。最後の演目だった「あがき」は近くから見たらすごい迫力で、ステージが広いともうちょっと大きく動き回れるかなと思いました。

あがきの舞

ーー獅子舞のサイズが大きくて十分に迫力を感じましたよ!

昔はかなりの担い手がいて、みんなが主人公でやるにはこのくらいの(5人立ちの)大きな獅子舞が必要だったのかもしれません。

ーーこの演舞を見ていると、多くの担い手が必要な印象があります。

八田は約70軒のうち半数が区長さんになる家柄で、3世代が同居している家が多いです。3世代同居の割合は全国ではたった4%、福井県だと11%ですね。一方でなんと八田は50%を超えるんです!家の広さは福井県は富山県についで全国第2位くらいです。北陸はとにかく3世代が同居することが多くて、家も広いんですよ。そういう環境で担い手が育っています。

ーーそういう意味では、家が広いと獅子舞も舞いやすそうですね。

そうそう、そうなんです。家の中で、獅子舞も舞いますね。八田の人たちは、子育ても仕事もどちらもできるんです。子どもはじいちゃんばあちゃんが面倒見てくれて、旦那と嫁で共働きができて、ゆとりができるんですね。2人が働いていると、年取ったら年金が2人分もらえますね。だからお金の面でも心の面でもゆとりがあって、出しゃばらなくても十分幸せにやっていけるんですね。ゆとりがないと祭りも獅子舞もやっていけないんですよ。

ーーなるほど!ゆとりって重要ですね。若い方々は獅子舞をやりたいと言ってくれますか?

誘いに行ったらやりたいという方もちらほらいます。だいたいどこに何歳の子がいるかは知ってますから、玄関のピンポンを押して誘うんですね。地方自治法の地縁団体と言いまして、建物でも土地でも八田区で登記ができ、区民名簿もあるんです。それで70軒程度なら、緩やかなコミュニティがあって、みんな把握できるんですよね。

ーー八田獅子舞は次世代に何を伝えていきたいですか?

黙祷をしたり礼をしたりと、礼儀作法を獅子舞から学べるので、家の中ではなかなか学べないことが学べる良い機会だと思います。そういうことについて、親の理解を得ることも重要ですね。そして小さい頃に慣れておけば、大人になったらすぐに獅子舞ができます。後継者育成は頑張っていきたいですね。

ーー今回の演舞が刺激となり、また獅子舞の担い手も増えていくと良いですね!本日はお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。

八田獅子舞の演舞を拝見して

福井県と東京のど真ん中を往復した八田獅子舞。多くの外国人客や東京在住と思われるZ世代の若者たちが興味深い様子で演舞を眺めたり、ステージで獅子舞との交流を楽しんでいた様子から「福井県には八田獅子舞あり!と伝えたかった」という会長の言葉の通り、東京、そして海外へもその価値を示すことができたのではないだろうか。

また、新しい舞台に対するとまどいもありつつ、それでも伝統的な演舞をしっかりと魅せる姿に感銘を受けた。演舞を行う建物や空間に対する考え方、それを観る人々の姿勢や受け止め方など、それら全てが獅子舞の伝統継承を考えるヒントになっているように思えた。福井の故郷では、この八田獅子舞はどのように舞うのだろうか?大きな好奇心が湧いてくる取材だった。

八田獅子舞の奉納情報

【場所】
柳田神社(福井県丹生郡越前町八田51−14)
並びに福井県越前町八田の一部

【時期】
1月上旬と10月の第1日曜日

タグ一覧