人口減少や娯楽の変化などにより、担い手不足の課題を抱える芸能団体は多い。今回は郷土芸能を次の世代に繋ぐという視点で「獅子舞王国さぬき」というイベントをご紹介したい。
このイベントでは香川県にある多くの獅子舞団体が一堂に会する。獅子舞を次世代に継承するために必要なことは何か?そのようなことに注目しながら、2022年11月6日、栗林公園にて取材を行った。
県内の団体が技を魅せ合う場
近年、香川県では獅子舞を各地域ごとだけではなく、それらを集結させてお披露目するという動きがある。それが顕著に表れているのが、「獅子舞王国さぬき」の存在である。
今回、県内23団体(獅子組)が栗林公園に集った。公園内のA~Eの5箇所で、10時から16時まで常に演舞が行われていた。また、お昼には19団体がグループごとにA~Eの場所に配置され、一斉演舞を行うという場面もあった。
香川県の獅子舞の一つ一つの違いを知ることができ、何よりものすごい熱気が感じられた。イベントの司会者が各団体に毎回「見所は?」と質問していたのが印象的だったが、まさに演舞者たちの技を魅せ合う場となっていたのだ。
獅子舞継承のヒントを発見!
獅子舞王国さぬきを訪れてみて、私見ながら獅子舞を次世代に継承するためのヒントが多数見られたのでご紹介したい。
◎女性が積極的に担い手に加わっている
まずは、こちらの中組獅子舞保存会(さぬき市造田)の演舞。最初は男性の担い手が獅子頭を持っていたのだが、途中から女性の担い手に切り替わった。女性のしなやかさが際立った舞い方だったが、しっかりとその所作が継承されていた。
担い手不足もあって女性が笛などのお囃子に参加するのは全国的にも多く見られるが、獅子頭を持つことまではまだ少ないといえるだろう。
◎団体間の繋がりがある
こちらは若宮獅子連(さぬき市造田)の演舞である。若宮獅子連は中組獅子保存会と繋がりが深く、中組からお囃子に入っている人もいるらしい。団体間のつながりがあると、お互いが応援し合うという協力体制が築ける。
◎子どもが憧れる獅子舞
また、半田獅子保存会(高松市飯田町)の演舞を見ていると、ぐるぐると回転するような動きが非常にアクロバティックで激しく、多くの観客を虜にしていた。
その中には小さな子どもも混じっており、おもちゃの獅子頭を持って舞う姿も見られた。何度も担い手と子どものセッションが行われ、「子どもが憧れる獅子舞」となっていることを実感した。
◎段ボールの獅子頭が手に入る
獅子舞王国さぬきの本部では、手作りの段ボール獅子頭が飾られていた。子どもがこの獅子頭を作って遊べるらしい。
段ボールでも獅子頭の特徴がよく表れており、本物気分を味わえそうだ。本物の獅子頭だと高価だが、段ボール製のものであれば、気軽に購入しやすい。
◎油単の技術で小物づくり
染物屋さんの販売コーナーもあった。香川の獅子舞の胴体は油単(ゆたん)と言い、染物屋さんが作る場合が多い。ただ、かなり注文数が少ないため、油単から派生して風呂敷や巾着、ハンカチもつくっているという。
油単づくりは専業だけではなく、染物屋さんとして幅広い商品を取り扱っており、獅子舞イベントでも出店しているのだ。また獅子頭や油単はそれぞれ修理業を頻繁に受け付けることで専業化できているお店も僅かにあるという。
このように、イベント会場内において様々な獅子舞を次世代に継承するヒントのようなものが感じられたのは大きな収穫だった。
獅子舞を集結させるイベントの役割とは?
今回、獅子舞王国さぬきの主催者であり、中組獅子保存会の十川(そごう)みつるさんに、取り組みに関する詳しいお話を伺うことができた。このイベントは獅子舞継承という観点で、どのような役割を担っているのだろうか?
ー次世代への継承という観点から、このイベントが果たしている役割はどのようなことでしょうか?
このイベントはまず、若手が活躍する場所です。若い担い手のテンションが上がる場を作りたいです。また、獅子組同士の交流を深める場所でもあります。
過去の参加団体が出てくれるということが多く、多いときだと65組参加してくれた年もありました。
ーこのイベントが始まったのはいつからですか?
2009年から始まったので、今年で14回目ですね。もともと商店街活性化のために広告代理店に持ち込まれた企画でした。獅子舞が盛んな土地なので、獅子舞で盛り上げたら良いだろうということで始まりました。
私自身は1回目から舞い手として呼ばれ、4回目から運営にも関わるようになり、現在に至ります。
ー始まった頃と比べて何か変化したことはありますか?
最初の頃は自分たちの獅子を見せるという雰囲気だったのですが、徐々にこのイベントに来ることが目標になっていきました。
つまり、最初は自分たちが地元の神社でやっているような舞いをそのまま持ち込んでいましたが、このイベントのために舞い方をアレンジして「魅せる獅子」も生まれてきたんです。
また、最初は商店街のアーケードでやっていたのですが、お囃子の音が騒がしいと感じるお店が出てきて、それならばということで5回目から商店街でないところで開催することにしました。中央公園、高松港などで実施したこともありますが、今回は栗林公園でやることにしました。
ーコロナ禍での運営で困難なことはありましたか?
今年は飲食ができないという難しさがありました。出店が出るわけではないんですが、お酒を飲みながら獅子舞をすることができないなどの制約があるんです。それをOKしていただいた団体に出演していただいてます。
ー今後取り組んでいきたいことはありますか?
人手不足で辞めようかと検討している団体もあるので、このようなイベントを通じてもう少し頑張らなあかんなと思ってもらえるようにしたいです。
香川県の獅子舞の歴史的背景
なぜ香川県は獅子舞がこんなに盛んになったのかについて、十川さんによれば「各神社に1つの獅子舞という意識があったことや、娯楽のない時代にお金が儲かるようになったことが関係しているかもしれませんね」とのこと。
今日のように地域コミュニティの中で受け継がれ、娯楽性の高い獅子舞になったのは、圧倒的に江戸時代末期以降である。これは香川県の今ある獅子舞の由来書の多くがこの時期を起源とするものが多いことからも想像がつく。
先ほど写真を載せさせていただいた親子獅子の綾南組は天保年間に始まったと言われており、この先駆けとなった獅子舞の1つだろう。
その後明治、大正、昭和における国の吉事、日清・日露戦争の勝利、天皇の御大典記念などの時期に爆発的に増え今日に至る。この傾向は石川県や富山県などとも近く、獅子舞伝承数が多い地域の特徴と言えるかもしれない。
獅子舞を次世代に継承するために
香川県の獅子舞伝承数がまず多く、それには歴史的な背景が関わっている。その中でお互いに切磋琢磨し、盛り上がっていくような風土がある。
獅子舞王国さぬきは、若手が活躍し子どもが憧れる素晴らしい獅子舞伝承の場だ。獅子舞団体同士の個性を知り、自分たちならではの獅子舞が継承されている誇りを感じ取ることもできる。
「魅せる」楽しさを知り、伝統という本筋をどこまで改変するかという葛藤も多分にあると考えられる。しかし、獅子舞が一堂に会することで、次世代への継承が進んでいくという大きな流れが作られることは間違いない。そのようなことを考えながら会場を後にした。
参考文献
高瀬町教育委員会「さぬきの獅子舞ー西讃地方を主としてー 」美巧社, 平成元年10月
瀬戸内海歴史民俗資料館「香川県の民俗芸能ー平成八・九年度香川県民俗芸能緊急調査報告書ー」美巧社, 平成10年3月