2019年からスタートした、観光経済新聞のオマツリジャパンコラム記事連載!2021年も「お祭り」をフックに、旅に出たくなる記事の連載をして参ります!奇祭好き、ケンカ祭り好き、お神輿好き…等、様々なライターさんに記事を執筆いただく予定ですので、ぜひご覧ください♪(オマツリジャパン編集部)
悠久の時代へと誘う太鼓と鉦
岡山県備中地方から吉備高原で行われる「渡り拍子」の一つを紹介したい。渡り拍子とは「赤熊(しゃぐま)」をかぶった4人の男たちが跳ね踊りながら一つの太鼓を打ち鳴らすお祭りだ。
「三原」という地名は、広島県三原市の桜山城主が落ち延びて、岡山県芳井町にある川手地区を、三原(東三原村、西三原村)と名付けたことに由来する。そんな三原の渡り拍子が開催されるのは、11月の第2土・日曜日だ。
神社で待っていると、遠くから鉦(かね)の音がカン・カーンと鳴り響きだす。時間は午後の11時ごろ、神社を目指し、北と南から近づいてくる。途中に近隣の民家で庭打ちをして、それを合図にだんだんと人々が集まってきた。独特の音色と、リズミカルな踊りと、特徴的な姿で、この場所を現代と違う空間へと変えていく。
頭にのせた「しゃぐま」(赤熊、赭熊)は、日本の特別記念物となっている長尾鶏のオスの尾羽が使われ、大事に保管され、手入れもされているので、つやつやと美しい。
踊り曲は15種類もあり、きれいな音色と決まった調子が心地いいが、かつては鉦を力強く鳴らした方が優位に立ち、相手方を自分の鉦で従えるのを競いあったそうだ。永遠に続くかのように、鉦と太鼓を打ち鳴らし、踊り続けたという。
12時ごろには、一通り踊って昼食が始まる。何度か見に来たことがあるが、毎回おにぎりやお漬物などが振る舞われ、神社へ来てくれている人、皆でお祝いをする。
コロナの時代に、このような場面に出会えないのは、非常に残念で、記事を書いていて、ちょっぴり涙ぐんでしまった。
案内板には「猿田彦を先頭に六十名ほどの男衆が尾長鶏の羽で、つくった赤熊を冠り、鉦、太鼓を叩きながら跳ね踊る神儀は室町時代の古式をそのまま現代に伝える壮麗なお祭りです」と書いてある。
昼食後も踊りは続き、太鼓を4人でたたき、両端にシデの飾りがついたバチをくるくる回し、鉦がカンコンカンと鳴り響く。軽快なリズムは今も心に響いている。