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お祭りとは何?いつ、どうしてやるの? 教えて!お祭り先生 vol.1

2021/6/28
2022/4/14
お祭りとは何?いつ、どうしてやるの? 教えて!お祭り先生 vol.1

ねぶた祭やだんじり祭りから近所の盆踊りまで、いつだってワクワクさせてくれる全国の有名無名のお祭り。でも、そもそも「お祭り」って何?どうしてこの時期にやるの?…などなど、知らないこともたくさん。

そこで、新入りスタッフの私・スージーが、オマツリジャパンの教授こと、玉川大学で文化人類学・民俗芸能学の講師を務める山崎敬子氏、通称ザキさんから、ちょっぴりアカデミックに、でもやさし~くお祭りの基礎知識を解説してもらいました。冒頭から目からウロコの話が満載です!では、さっそくいってみましょう。

ざきさんザキさん
オマツリジャパンのスタッフでありながら大学で民俗芸能学の講師を務める

スージースージー
今月オマツリジャパンに入社した。お祭り初心者。

1. まつるの語源は「たてまつる」=おうかがいを立てる

スージー:いきなりですがザキさん、「まつり」っていう言葉、どういう意味ですか?

ザキさん:「まつり」という単語自体は「たてまつる(奉る)」が語源になってます。奉るという言葉は何かを捧げる、おうかがいを立てるという意味があるんですよ。

スージー:へぇ~。(両手のひらを頭上に掲げて)貢ぎ物をハハーッと捧げるイメージですね。でも何でこれが「祭り」になるんでしょう?

ザキさん:古代も現代も、人間は一人では生きていけませんよね。必ず集落の中で話し合って、集団として暮らし方や生き方の方向性を決める。例えば、今度はこの種を植えようか?次はこの人をリーダーとしてやっていこうか?など、何かしらのジャッジをしながら集団生活を送ります。そのジャッジ、つまり私たちが決めた結論や願い事が、果たしてそれでいいのか?という最終決定のおうかがいを立てるんです。

スージー:会社で上司とか社長とか、権限のある人に最終承認をもらうのに似てるなぁ。

ザキさん:まさにそれ。でも古代の集落に会社はないので(笑)、まずは神様ね。神様におうかがいを立てるときのまつりが「祭り事」ということになるんです。そしてもう一つ、神様やその行事や組織を運営するトップの「人」におうかがいを立てる。これが政治の「まつりごと」になっていきます。昔は祭祀と政治は一体でもありましたから。

釜に湯を沸かして八百万の神々を迎え、神楽を舞ってもてなす「霜月祭」

スージー:なるほど!政治の「政」1文字で「まつりごと」と読むのはそれが理由なんですね。

ザキさん:そのとおり。「祭」も「政」も漢字は違っても同じように「まつり」と呼ぶのは、どちらも上におうかがいを立てるという由来があるからなんですよ。ちなみに、ちょっと脱線するけど、巫女の「巫」の字の由来を知ってる?

スージー:何だろ、「エ」の左右に「人」が2人座ってるように見えるけど…

ザキさん:これは上の横棒が「天=神」、下の横棒が「地=人」を表していて、真ん中の縦棒のように天と地、つまり神様と人をつないで、おうかがいを立てるような人のことを表現していると思っていただければ。古代日本では女性がその役目を担っていたので、この字に女と書いて「巫女」としました。英語でいうとシャーマンですね。

スージー:そんな成り立ちだったんだ。そういえば男性のシャーマンっていないのかな?

ザキさん:地域によって違っていて、韓国では男性の場合もありますよ。

2. 祭りでは、神様を呼び出す、たてまつる、あと一つは?

ザキさん:古代、神様はカミだけでなく「モノ」とか「タマ」とも呼ばれていました。現代でも霊魂とか神聖なものについてはタマという言葉を使ったりします。

スージー:そういえば、東京の靖国神社の夏の祭りは「みたままつり」ですね。

ザキさん:そうそう。靖国神社の場合、祀られているのは国のために戦って命を落とした人の魂で、その方たちの御霊(みたま)のために建てられたんです。

みたままつり

スージー:私の母方の祖父も、太平洋戦争中に東南アジア沖で戦死したので祀られてます。母が小学生の時、同様に父親が戦死した生徒たちは先生の引率で集団参拝に連れて行かれたと話してました。

ザキさん:そうなんですね。古代でも魂を鎮める祭りは「ミタマシズメ(ミタマフユとも言う)」と呼ばれて行われていたことが、万葉集や古事記で分かります。そして、祭りで何をやるかというと、神様を「呼び出す」、「たてまつる」あるいは「おさえる」という3つ。

スージー:「神様をたてまつる」は、さっき出てきたけど、え?おさえる?

ザキさん:そうです。呼んで、たてまつる=おうかがいを立てるのは良い神様。おさえなきゃいけないのが、私たちの生活に禍(わざわい)をもたらす神様。良い神様を呼び出して、今年1年いい思いができますようにと期待をかけるような祭り、例えば神楽のようなものは、冬~春にかけてたくさん行われます。春は良いものを迎える季節だから。

スージー:ということは、禍をもたらす神様というのは…

ザキさん:古代、天気が悪いとか病が流行るのはそのような神によるものと信じられていました。現代では医療が発達してワクチンや薬といった技術がありますよね。でもその時代にはなかった。代わりに神様がいて、神様がもたらす禍をおさえるのが技術だった。だから、そのような神様にはできる限り静か~に、遠くのほう~に行っていてほしい、今ここにいてほしくない。そのために「おさえて送る」ということをしていたんです。そして季節は夏が多かった。なぜなら夏は台風が多く、疫病も流行ることが多いから。

スージー:ふむふむ。良い神様と禍をもたらす神様に要・個別対応だったんですね。ところで、それぞれの神様代表に有名人、いや有名神っていますか?

ザキさん:良い神様には自然信仰の神様が多いですね。山の神様とか、海の神様とか。禍をもたらすほうの神様は、例えば御霊信仰(ごりょうしんこう ※1)とか「たたり神」っていわれている神様で、人間の霊魂がなることが多いんですよ。
日本三大怨霊(※2)に名前が挙がる菅原道真とか平将門とか政治的にも強い力を持っていた人は、あの世にいっても強いだろうから、霊力もスゴくてえげつない雷を落とすだろう、と。だからおさえて送る、なだめて封じて遠ざけるという作業をするんですね。

※1 御霊信仰:不幸な死に方をした人間の霊がたたり、怨霊となって災いをもたらすという考え方と、それを抑え、なだめるために神として祀る信仰。
※2 日本三大怨霊:御霊信仰の対象となった人物のうち、政治や貴族の勢力争いに敗れて現世に強い恨みを抱き、最強のたたりで天災や流行病をもたらすと信じられた菅原道真、平将門、崇徳天皇(崇徳院)を指す。

3. 巧みに俳優した?祭りのルーツに踊りあり

ザキさん:ところで、スージーは「祭りと芸能のルーツ」といわれる「天岩戸神話」を知ってる?

スージー:弟のスサノオノミコト(須佐之男命)がヤンチャしすぎて、アマテラスオオミカミ(天照大御神)が激オコで岩屋に引きこもり、世界が真っ暗になっちゃった。困った他の神様たちが作戦で宴をして、「楽しそ~」と岩戸をちょい開けしたアマテラスを引っ張り出した、で合ってますか?

ザキさん:そうそう、おおむねそういうお話(笑)。作戦会議では、男性の神様がいくら話し合っても何も決まらなかった。そこでアメノウズメノミコト(天宇受売命)という女性の神様が、桶を逆さにドンと置いてそこに立って踊ったの。日本書紀と古事記では書き方が違っていたりもするけど、踊り出すと局部が丸見えになって男性の神様が大笑いする。その声につられてアマテラスオオミカミが外に出てくることになったわけだけど、このアメノウズメノミコトの行動に対して「巧みに俳優(ワザオギ)した」と書かれているんです。

天岩戸神話の天照大御神(春斎年昌画、明治20年(1887年))

スージー:「俳優」と書いて「ワザオギ」。なんかスゴい読み方だけど、どういう意味ですか?

ザキさん:ワザ=踊りや舞の技、物真似の技が上手かったという表現です。今の祭りでも色々な踊りがあると思うけど、祭りのルーツの時点ですでにもう入っているんですよね。

スージー:へぇ~。祭りははじめから踊りとか芸能と深いかかわりがあったんですね。

4. 神輿は思い切り振ったほうがいいワケ

ザキさん:今でこそ、地域のお祭りって毎年何月何日とかって決まってたりするけど、単純にいうと「生活のサイクル」と思っておいていい。この祭りが終わったらまた1年みんなで楽しく生きていって、来年の祭りの準備をしようといった感じ。太陰暦や太陽暦など「こよみ」は変わりますしね。

スージー:なるほど。暦は完全に後付け。

ザキさん:そう。でも日本には四季があって、その語源が祭りに関係している。春・夏・秋・冬という言葉は、実は「種の成長サイクル」を表しているとも言われるんです。

スージー:え~、それは初耳。どういうことですか?

ザキさん:「春」は、命が張り出すの「張る」。地中の種から地上に芽が吹き出て張り出してくることです。
夏は諸説あるけど緑が満ちている、「満つる」から「夏」になったのではといわれています。
秋は「飽きる」くらい実がなる。飽和状態ね。で、その木の実は地面に落ちてまた地中に入り、冬を迎えます。
外は寒いが地中には種があり、命を増やす。「殖やす」「増やす」の冬です。
なおかつ御霊鎮め(ミタマシズメ)の別名を「ミタマフユ」だと言いましたが、フユ=振るのことなので、ミタマフユとなると「魂を振って増やしていく」ということになります。

スージー:面白い!色んなものが振るだけで増えるといいのになぁ…(遠い目)。

ザキさん:「良い神様に実りを増やしてほしい」と思ったら、例えば神楽で鈴を振るとか。物を振るということは、古代から日本人のおまじないだったんです。これは「神輿を振る」ことにもつながるんですね。だから神輿は思い切り揺らしたほうがいいんです。

三社祭の神輿

スージー:なるほど!振れば振るほどご利益があるってこと!?わー、それメッチャ楽しいヤツ~。

ザキさん:ただこれは神輿だけの話で、祇園祭なんかでは山車(だし)が出るけど、山車は神様が来るための目印なので振る必要なし。その代わり、人間たちが乗って歌ったり音をたてたり飾り立てたりして「ここで私たちは祭りをやってますよ」と華やかにしていく。神輿と山車の違いはこういうところにありますね。

5. お盆が7月と8月の地域がある、単純すぎるその理由

ザキさん:それから、大事なのは「お祭りをやる時期」。盆踊りをやるのって、どんな時期だか分かる?

スージー:うーん、8月中旬のお盆の頃?でも7月にも9月にもやってるなぁ。

ザキさん:稲が育ってあとは収穫を待つだけの時期、つまり農閑期でもあります。

スージー:そっか!忙しい時に一人だけ祭りやりたがってたら、ただのヤバイ奴ですもんね(笑)

ザキさん:よく「季節の変わり目」にやりますよ、っていうのは、変わり目には病になりやすいという理由もあるけど、作業目線で見ると農閑期であることも注目ポイントになる。例えば現代でも夏のお祭りとか色々なお祭りは、土日とかにやることが多いじゃない?これはみんなが集まれるから。「みんなが集まれる」という、ここが大事なんです。

スージー:なるほど。お祭りの開催日を決めるときに「絶対にみんなが集まれる日でなくちゃ」ってことで保存会の中でも意見が割れるという話を聞いたことがあるけど、至極まっとうな話なんですね。

ザキさん:日程というのは曖昧なもので、いま私たちは太陽暦(西洋のグレゴリオ暦)というものを使っているけど、それは何のことはない、1872年(明治5年)に法律が変わったから。
その前は、月の満ち欠けによる太陰暦を、554年の欽明天皇の時代に日本に入ってきて以来ずっと使っていた。といっても、太陰暦は地域ごとに使っていて一定のものはなかったんだけどね、とにかく改暦を境に旧暦の7月は新暦では8月に変わったんです。

スージー:暦は後付けってさっきも出たけど、たった150年前に変更になったってことは、日本とお祭りの歴史の中ではつい最近のことじゃないですか。

ザキさん:そうなのよ。その結果、「太陰暦の7月」を大切にして7月にお盆をやろうという地域と、「太陽暦の8月」にやろうという地域が出てきてお盆は7月と8月に分かれたんです。他にも例えば山形の鶴岡では、ひな祭りが3月と4月の2回あります。

スージー:ということは、単純に暦が変わったから、新・旧暦どちらに合わせようか?ってことで、同じお祭りでも2つのパターンができちゃった?

ザキさん:そのとおり。日本では1872年以降にお祭りが2つに分かれたんだけど、これは暦法が変わったからと理解すればよくて、暦というのは曖昧なものなんだと思えばOKです。暦にしばられた行事であるよりは、農作業が比較的少ないタイミングでみんなが集まれる、つまり農作業など生産活動をする時期を日本人は大事にしたんだな、ということも覚えておいてもらえるといいかなと思う。

スージー:暦がいきなり変わってしばらく混乱したでしょうけど、いうなればお祭りが増えて「二度おいしい」ですね!

ザキさん:お祭り好きにはうれしい方向への変化よね。それと、最後にもうひとつ。お祭りを言い表すとき、今は「年中行事」という言葉を使ったりもします。1年のうちの決まった時期や定期的なサイクルでやってきたことから、この動きをとって「年中行事」と呼ばれている。

スージー:年中行事って本当によく聞くし使うんだけど、お祭りとの区分というか使い分けがよく分からなくて。

ザキさん:明治時代以降、神様におうかがいを立てる必要のないイベントタイプの「祭り」も定着してきましたよね。例えば一番分かりやすいのがバレンタインやクリスマス。クリスマスはキリスト教にとっては非常に重要な日だけれど、キリスト教徒ではない日本人にとっては何の関係もなく、祝う必要もない。こういうのがまざってくると「たてまつる」の定義でお祭りを考えることは難しいですね。だから「年中行事」という単語で表現するほうが今の祭りは分かりやすいかもしれません。

スージー:であれば、おうかがいを立てる部分があればお祭り、なければ年中行事、ということ?

ザキさん:いえ、むしろ大事なのは「周期性」かな、と。地域の方々が定期的に回数を重ねていること、周期性をとても大切にして行っているものは、お祭りであり年中行事といえるかと思います。
なので単発のイベントは本来の意味では、お祭りではないのかもですね。地域の商工会議所が行う「地域おこしまつり」というのも周期性があれば祭りだけど、1回だけで終わってしまったらちょっと違うし、ずっと続けば今の私たちにとってはお祭りなのかなと思います。

スージー:なるほど!周期性がカギになるんですね。
今日は面白い話をたくさん聞かせていただいて、ありがとうございました!また次回も楽しみにしていますので、どうぞよろしくお願いします。

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