2023年1月7日、福岡県久留米市大善寺町の「大善寺玉垂宮」にて、日本三大火祭りのひとつにも数えられるお祭り「鬼夜(おによ)」が3年ぶりに開催されました。6本の大松明が夜空を焦がした、大迫力のお祭りの様子をレポートしたいと思います。
鬼面尊神の神事からお祭りはスタート
大晦日の夜から1月7日まで続く大善寺玉垂宮の追儺(ついな)行事「鬼会(おにえ)」。その結願神事である「鬼夜」が、3年ぶりに開催となりました。主催者たちの願いが通じたのか、雨もなく穏やかな陽気のもと、お祭り当日を迎えました。朝から着々と準備が進んでいきます。
祭りの最大の見せ場となる「大松明廻し」は日も暮れた夜の開催。当日は、13時からの神事「鬼面尊神渡御」を皮切りに進行します。鬼面尊神とは、「鬼会(おにえ)」の主神となります。
まずは、本殿の中に氏子総代や来賓の関係者が集まり「祭典」が執り行われます。祭りが何事もなく開催されるよう、人々の祈りが捧げられました。
祭典が終わると、鬼面尊神渡御が始まります。漆塗りの箱に納められた鬼面を手に、一同が隊列を組んで本殿の周りを回って、鬼堂へと向かいます。
鬼堂に到着すると、ここでも神事が行われます。神事が終わると、例年は直会が催されるそうですが、今年は新型コロナウイルスの状況を鑑みて、直会はなしとなりました。
午後4時には「鬼面尊神還御」の神事が行われます。渡御の時とは逆に、鬼堂から本殿へと向かい鬼面尊神をお還しします。
小松明を持った裸衆が神社に集合
午後7時となり、日も暮れるといよいよ「火祭り」の時間です。耳を澄ますと、どこからともなく「おいさ、おいさ」の掛け声が聞こえてきます。
小松明を手にした裸衆(はだかしゅう)の一団が、列になって県道を歩きます。自分たちを鼓舞するかのような叫びが、寒空の中響きます。
裸衆は、神社裏手にある玉垂(たまたれ)公園に集まり、6本の大松明を担当する氏子町会ごとに待機をします。うずたかく積まれた藁に小松明で火を放つと、まるで鬼夜の開催を告げる狼煙(のろし)のように、もうもうと炎が立ち上ります。
午後8時頃になると、裸衆は再び移動を始めます。目指すのは、神社の前を流れる広川に設けられた「汐井場(しおいば)」です。
ここで行われる「汐井汲み神事(汐井口開け)」では、まず行事役職者たちが川の中に入り、汐井場で禊(みそぎ)をします。そして、手にした桶にお汐井を汲んで神前に供えます。
汐井汲み神事が終わると、続いては各大松明の代表者たちが順番に汐井場に降りて禊を行います。禊が終わると裸衆は小松明を手に再び神社へと戻り、境内をぐるりと一周します。この「汐井かき」を2往復、行います。
着火した大松明が裸衆に支えられて移動を開始
汐井かきが終わると、裸衆は境内に置かれた6本の大松明の周りに集合します。心が勇み立った裸衆と、彼らを取り囲む観衆たちの期待で、辺りは熱気に満ちていきます。
準備が整うと、松明も屋台の照明も、すべての明かりが落とされて神社全体が大きな闇と静寂に包まれます。暗闇の中を奥神殿から出た鬼火が近づき、その刹那、6本の松明に一斉に火が灯されます。
夜の帷(とばり)をつんざくような炎が大松明からあがると、暗闇に包まれていた祭り会場には再び活気が戻ります。裸衆や観衆のボルテージも、この時最高潮に。
大松明の前に設けられたステージでは「鉾面神事」が行われます。赤天狗・青天狗によるその儀式は、裸衆の「動的」なエネルギーに対して「静的」な趣があり、そのコントラストこそが、この神事の呪術性をより際立たせ、祭り全体の雰囲気を引き締めます。
「ソラ抜イダ」の声を合図に、太鼓や鉦が乱打され、いよいよ「大松明廻し」が始まります。
裸衆が「カリマタ」と呼ばれるカシ棒を手にし、大松明を両側から支えるように持ち上げます。カシ棒を当てる位置や、力を入れるタイミング、この辺りに絶妙なバランスが求められるため、大松明を動かすのも一筋縄ではいきません。
20人ほどの裸衆を指揮するのは手々振りで、指導するのは「赤鉢巻(あかばちまき)」と呼ばれる役職。一歩間違えれば大事故につながりかねない大松明の扱い。手々振りと赤鉢巻が声を張り上げながら裸衆を先導する姿が印象的でした。
境内が大松明廻しの熱気に包まれている最中、鬼堂には静かに人々が集まって、鬼堂巡りの儀式が行われます。子どもたちが役を務める「シャグマ(赫熊)」によって姿を隠された鬼が鬼堂の周りを回ります。暗闇の中で行われるため、近くにいても鬼たちの動きは気配でしか感じることができません。
最後の見せ場「惣門くぐり」で興奮は最高潮に!
鬼堂巡りの傍らでは、いよいよ6本の大松明の代表である、一番松明の「惣門くぐり」が行われます。神殿を一周した一番松明は、鬼堂の東側で「火取り神事」(一番松明から鬼火を取り、来年の一番松明へと継承する儀式)を行います。その後、一番松明は境内を下り紅蓮の炎をあげたまま惣門をくぐります。
一番松明の火が消された頃合いを見計らい、シャグマと警護役に付き添われた鬼も密かに汐井場へと向かい禊を行います。いよいよ、祭りは終盤です。
禊を終えた鬼が神殿に帰ると明かりが灯され、行事の終りを告げる厄鐘が七・五・三と打たれます。一番松明に続く、5本の大松明も続々と火が消されていき、鬼夜は終幕へと向かいます。
【あとがき】
火の中で奮闘する裸衆の凄みや、大松明の迫力に、ひたすら圧倒され続けた一日。そういった荒々しい側面も鬼夜の大きな魅力ではありますが、裏側で淡々と進行する鬼の神事の神秘性もまた、この祭りの奥深い魅力のひとつです。明と暗、動と静、二項対立のモチーフが祭りの重要な局面に現れ、見るものにミステリアスな暗示を与えます。謎めく鬼夜の全貌を確かめたい! そう思って、一度ならず、二度、三度訪れたくなるお祭りでした。
地域の人々の手によって長年支えられたこの貴重な祭りが、これからもずっと続いていくことを願ってやみません。