獅子舞が一堂に会するイベントは、若手にとってテンションが上がる場。各団体の獅子舞が演舞を競い合い、切磋琢磨することができるからだ。
2022年11月6日に香川県の栗林公園で「獅子舞王国さぬき」が開催された。このイベントでは、獅子組23団体が集い、それぞれ選りすぐりの技が披露される。現地を訪れて感じたことを振り返りたい。
獅子舞王国さぬきとは?
2008年から毎年行われている獅子舞イベントで、香川県内各地から獅子舞団体(獅子組)が集い、技を披露し合う場である。今回は県内の23団体が栗林公園に集い、演舞を披露した。
A~Eまで5箇所で10時から16時まで行われ、また、お昼には一斉演舞を行う場面もあり、香川県の獅子舞団体ごとの個性を知ることができる。
香川県の獅子舞の特徴
香川県の獅子舞の多くは「猫獅子」とも呼ばれており、フサフサした毛が特徴的な獅子頭や、色鮮やかな胴体である油単(ゆたん)が見られる。
また、鉦(かね)や太鼓などの鳴り物が多く見られ、賑やかで激しい演舞が行われる。このような特徴に注目しながら、実際に現地を訪れた時のことを振り返っていきたい。
演舞に団体ごとの個性があふれる!
午前10時、栗林公園。高松市の中心市街地から電車で2駅のところが、その会場である。美しい庭園が広がり、朝の散歩者もいる中で、太鼓や鉦の音が「ドンドンドン」と鳴り響く。ああ、始まったんだ!と急ぎ足で会場に向かう。
こちらは総社獅子舞保存会(坂出市林田町)の獅子舞。獅子頭は黒い髪の毛に覆われており、油単は色鮮やかだ。「獅子に牡丹」と言われるように、牡丹の花が描かれている。
また、総社獅子舞保存会は鳴り物がとても多いのが特徴。太鼓2つに鉦が5つである。
こちらは金色に輝く獅子頭を持つ下法中獅子組(丸亀市飯山町)。衣装はまるでピカチュウのように、黄色地に黒や赤の斑点がつけられている。
演舞は最初ゆっくりだったが、徐々に非常に激しくなっていったのが印象的だった。
こちらは中組獅子保存会(さぬき市造田)。頭を左右に振るシーンなど、まるで生き物であるかのような動きが見どころだ。カメラを構えている観客に近寄ってきたくれたこともあり、さらに迫力が感じられた。
12時半からは30分ほど、一斉演舞が開催!19団体が各所で舞う姿は圧巻だった。すべて回りきることができなかったのは残念だったが、自分のお気に入りの獅子舞を見つけて、ついつい見入ってしまった。
写真や動画を撮りたくなる気持ちと、獅子舞を直視したい気持ちが交錯して、バタバタしてしまったが、獅子舞の盛り上がりと熱気を感じることができた。
私が一斉演舞でとても格好良いと感じたのが、こちらの半田獅子保存会(高松市飯田町)の演舞。
グルグルと激しく回転する動作が大変印象的で、それを見た子どもがおもちゃの獅子頭を持って、真似をする姿も見られた。
お隣の本村獅子組(高松市西植田町)の場所では、5頭の獅子舞が勢ぞろいして記念撮影する姿も見られた。色とりどりの油単が並べられると壮観である。
こちらは綾南の親子獅子舞(綾歌郡綾川町)。親子の獅子舞というのは全国的にも珍しく、親が子どもを撫で、子どもが親を慕う様には心打たれた。感情が込められた丁寧な演舞が素晴らしかった。
このように獅子舞王国さぬきでは、各団体ごとに個性あふれる獅子舞の演舞が行われていた。
香川の獅子舞は、他県と比べると、総じて鳴り物の数や種類が多く、音色が高いという印象を持った。また、香川県の獅子舞は「お囃子が鳴り響く中国の獅子舞の影響を受けている」といわれているが、「その通りかもしれない」という実感を得ることもできた。
讃岐獅子舞保存会のYoutubeでは、当日の演舞の様子がアップされているので、ぜひご覧いただきたい。
香川県の獅子頭や油単の特徴
獅子舞王国さぬきでは、獅子舞の演舞のほか、獅子頭や油単の展示・販売が行われていた。祭礼で使われる獅子頭は5~60万円くらいとのこと。木で全体を作ることは少なく、その多くは持ち手部分のみ木製で、紙の張り子で作られている。また、塗りの大半が漆である。
獅子頭の工房は、香川県善通寺市などで一部専業で行われている所はあるが、今ではかなり少なくなってきているという。一方で専業の場合は、コンスタントに修理の注文がくるため、成り立つ場合が多いとか。また、子ども用の獅子頭を作ることもあり、これは安く手に入れることができる。
獅子頭の胴体(油単)は染物屋さんが作ることが多い。昔から油単は「大事なものをくるむ」という意味があり、家具にかける布も油単である。油単は安くて90万円くらいからで、獅子頭よりも値段が高いのが普通だ。
さらに他県の獅子舞の胴体は綿で作られることが多いが、香川県の多くは絹を使っているため、かなり細かい柄が入るという特徴がある。
ものづくりの観点でいえば、香川県の獅子頭は紙製、胴幕(油単)は絹製というのが面白い。全国的には、それぞれ獅子頭が木製、胴幕が綿製という場合が多いからだ。
胴体が獅子頭以上に派手という観点から言えば、石川県・富山県の工芸文化の発展を背景に作られてきた「蚊帳」を連想させる。ただし、これら北陸文化圏よりも獅子頭の値段が安いのは「獅子頭の重量が軽く、その分舞い方が激しい」という背景があるようにも思える。香川の獅子舞はとにかく賑やかという印象が強いのだ。
香川県の獅子舞を体感!獅子舞王国さぬき
このように、獅子舞王国さぬきを訪れてみて、香川県の獅子舞文化の特徴を十分に感じることができた。
獅子舞が盛んで伝承数が多いうえ、切磋琢磨できる場もある。各団体がお互い刺激しあい、もっと良い演舞にしようと高め合っている様子を伺い知ることができた。
また、お囃子や油単の派手さなどは、この賑わいをさらに後押ししているとも言えるだろう。香川県の獅子舞を見てみたいという方は、ぜひ毎年秋に行われるこの獅子舞王国さぬきを訪れることをおすすめしたい。