2019年からスタートした、観光経済新聞のオマツリジャパンコラム記事連載!2020年も「お祭り」をフックに、旅に出たくなる記事の連載をして参ります!奇祭好き、ケンカ祭り好き、お神輿好き…等、様々なライターさんに記事を執筆いただく予定ですので、ぜひご覧ください♪(オマツリジャパン編集部)
日本の芸能を変えたハイヤ節
熊本県天草市というと、「隠れキリシタン」という言葉が頭を過ぎるように、陸路でのアプローチは容易ではない。されど、大小120もの島々による入り組んだ地形は豊かな海産資源を育み、牛深(うしぶか)は、鹿児島と長崎、大阪を結ぶ海路の一大寄港地として、江戸から昭和にかけ、大変なにぎわいを見せた。
この地に立ち寄る海の男たちを魅了したのが、「牛深ハイヤ節」という民謡だ。奄美地方の六調から影響を受けた早いテンポと、「サッサヨイヨイ」「ヨイサー、ヨイサー」という独特の掛け声や節回し、そして網ひきや櫓(ろ)こぎといった、港町らしい所作を伴う重心を低くとった踊り。情熱的な南国の雰囲気を持つハイヤ節を耳にすると、誰もが踊りださずにはいられない。
「ハイヤ」とは、土地の言葉で南風を意味する「ハエの風」が変化したものとされる。風待ちの宴席をにぎわせたハイヤ節は、船乗りたちによって港から港へ唄い継がれ、日本各地で新たな芸能となった。「阿波おどり」や「佐渡おけさ」はみな「ハイヤ系民謡」と呼ばれ、北は北海道から南は鹿児島まで、その数は40以上に及ぶ。
牛深では毎年4月の第3金曜から日曜までの3日間、「牛深ハイヤ祭り」が開催される。後半の2日間には祭りのメイン「ハイヤ総踊り」が行われ、色とりどりの衣装に身を包んだ3千人もの踊り子でにぎわい、港町は熱気に包まれる。総踊り前には踊り講習も行われ、一般客も「飛び入り丸」という踊りの連で参加することができる。土曜の晩には、ハイヤ節の原点である「座ハイヤ」というプログラムがある。振る舞い酒をたしなみながら、ござの上を自由な振り付けで踊る様は、かつての宴席を思わせる。
「牛深三度行きゃ三度裸 鍋釜売っても酒盛りゃしてこい」という歌詞は、船乗りが活躍した時代だけのものではなく、21世紀になっても変わることはない。筆者のようにこの魅力に取りつかれ、次に丸裸にされるのは、あなたかもしれないのだ。