東京では9月に入っても、盆踊りが週末を中心に開催される。多くは神社の秋祭りと関連して行われることから『奉納踊り』の名で親しまれているのだ。
9月の敬老の日に近い三連休の前日である金曜日から日曜日の3日間、墨田区の牛嶋神社では毎年恒例の祭礼が行われる。ところがここでは49ある氏子町会が独自に祭礼を行い、なんと30以上の町会で独自の奉納踊りが行われるのだ。
開催日時は各々異なるものの、これほど同時多発で踊りが開催されるのは、都内下町でも祭りの盛んな墨田区だけ。否、日本でもここだけだろう!
この三日間、いまだかつてない興奮と驚愕の体験があなたを待ち構えている。
※2020年は開催中止が決定しました
目次
東京スカイツリーのお膝元が盆踊り一色に染まる!3日間開催の【牛嶋神社祭礼氏子町会奉納踊り】
隅田川の東岸にある桜の名所・隅田公園。この公園に隣接して社殿を構える牛嶋神社は、平安時代前期の貞観2年(860年)にまで歴史を遡ることができ、本所地区の総鎮守として祀られている。
牛嶋神社の氏子町会は、北は花街の面影を残す向島や小梅、東京スカイツリーのすぐ近くである押上・中之郷から、南は両国や錦糸、西は隅田川沿いの吾妻橋・東駒形・本所・石原・横網・亀沢、東は太平・横川・業平と、およそ1.6キロ四方に計49を数える。
毎年9月の祭礼時には、各々が独自に町会単位、すなわち『〇〇一丁目』『〇〇二丁目』という単位での祭礼行事を行う。町中に神輿や提灯が見られ、半纏や神輿の装束・浴衣姿に身を包んだ住民たちの姿で賑わうのだ。
祭り一色に染まる下町らしい光景に、祭り好きでなくとも胸が高まることは避けられない。
5年に一度の大祭には、総勢150名による神幸祭(じんこうさい)鳳輦行列(ほうれんぎょうれつ)が行われ、まるで歴史絵巻の中にタイムスリップしたかの様だ。
この記事を執筆している2020年の時点で、次回は2022年の開催が予定されている。
祭礼行事は町会神輿のほか、演芸大会やショーなどが行われるが、いちばん多いのが奉納踊り、すなわち盆踊りだ。
以下便宜上『盆踊り』で統一するが、実に30以上の町会が、この3日間に盆踊りを開催する。各町会が踊り場となる同時多発盆踊りは、まさに『盆踊りのテーマパーク』!
同じ通りに複数の櫓が並び、音の合間には隣の盆踊りの曲や太鼓も聴こえてくるほどだ。
さらに『神明さま』の名で親しまれる江東亀戸天祖神社でも、牛嶋神社と同時期に祭礼を行い、同様に町会単位で盆踊りを行うところがある。加えて、二社双方の氏子となっている町会もあるのだ。
横川三丁目の交差点からの光景。南側には太平三丁目町会、西側は横川二丁目町会、北側は横川三丁目町会…と三か所の櫓を眺めることができる
この体験は他ではできぬ!町中盆踊りだらけという驚異の真実!
2011年9月、はじめて【牛嶋神社祭礼氏子町会奉納踊り】に参加したボクは、目的の踊り場からすぐ近所の町会でも盆踊りが行われていることを知る。そこへの移動中にも、別の町会に櫓がある様子、通りのあちこちに提灯が灯る姿に興奮し、終始アドレナリンが止まらなかった。
接近している踊り場は、互いの距離がわずか100メートルほど。同じ通りに4 箇所もの櫓が並ぶ『ゴールデンロード(筆者称)』では2つ先の櫓も見え、場所によっては三方向全てに櫓が見えることもある。
はじめてこの洗礼を受けた者は、間違いなく盆オドラーとして開眼してしまうはずだ。
さて、しばらくボクは毎年1箇所をベースに、あわよくば他の踊り場で踊れたら、という軽いノリで踊りを楽しんでいた。しかし、できることなら効率よく多くの踊り場を回りたい、他の踊り場ではどんな曲がかかるのか知りたい、という好奇心から、事前に全ての町会の情報をリサーチする様になる。
そして、踊り仲間とともに、3日間はこの踊り場巡りに命をかけることを決意。通称『牛嶋心中』!
ある年には一晩で10箇所の踊り場を回ることもあった。
やがて全ての踊り場を制覇するのだが、今では特にご縁ができて親しくなったところや、自分が行きたい踊り場を厳選する様にしている。いわゆる『荒らし』的にならない様心がけているつもりだ。
だが、しかし。目当ての踊りが始まる前にここでは20分踊れる、移動中に踊りの誘惑に負け、ちょっと立ち寄って踊ってみる、そして踊り終わった後でも、あそこはまだ踊れるかも知れないから行ってみよう…といった欲求に逆らえず、毎年一晩で5、6箇所はハシゴしてしまうのだ。
一晩で複数のハシゴ盆踊りが可能!この楽しさを知ったらやめられない!
ボク同様、ここでの楽しさを知れば、誰もがハシゴせざるを得なくなるだろう【牛嶋神社祭礼氏子町会奉納踊り】。
各町会では、それぞれの櫓や装飾に手作り感や独自のアイデアが溢れており、踊り場を見て回るだけでも楽しい。
そしてもちろん、曲にも独自性がある。
その年のヒット曲や子どもたちに人気の曲が多くかかるところもあれば、《おしなりくん あい愛おんど》《言ちゃん音頭》といった、ご当地ゆるキャラにちなんだ音頭に親しむ踊り場も多い。
ご当地曲の《すみだ音頭》や《桜橋おどり》、東京スカイツリーにちなんだ《東京スカイツリー音頭》《TOKYOスカイツリーおどり》、メジャー曲の《東京音頭》《炭坑節》《大東京音頭》《八木節》といった曲はどの踊り場でも定番だ。
また、《新二十一世紀音頭》や《花笠太鼓》といった昭和の名曲、《バハマ・ママ》も人気のナンバーとしてセットリスト化されている。
公園や通りに移動式の櫓を建てる町会、ジャングルジムを櫓がわりにする町会、シンプルに輪踊りのみ楽しむ町会、マンションの吹き抜けで踊る町会など、不思議なことに、同じ曲でも違う雰囲気の中踊ると、全く印象が異なるのだ。
雨降る路上で《新二十一世紀音頭》が踊られる櫓の脇を、コミュニティバスが通り過ぎるシュールな光景。亀沢三丁目町会
他所では普通に踊られるだけなのに、この踊り場ではやたらと盛り上がる、という曲もある。
これだから盆踊りは面白い。
しかも一晩に何度も、様々な趣向で楽しめるのは、牛嶋神社の氏子町会ならでは。
まさに唯一無二、墨田区が誇る文化遺産といっても過言ではないだろう。
【牛嶋神社祭礼氏子町会奉納踊り】に参加するなら、知っておきたいワンポイント情報
【牛嶋神社祭礼氏子町会奉納踊り】は牛嶋神社の氏子町会が、各々独自に開催する盆踊りであって、すべての情報がまとめて公開されている訳ではない。しかも、A町会は金曜日と土曜日、B町会は土曜日と日曜日、C町会は土曜日のみ…というように、開催日も異なれば、時間も異なる。そのため事前のリサーチが欠かせない。
ただし公園や寺などの大きな踊り場の情報はネットでも調べることができる。
ハシゴしても空振りとならないよう、ぜひあらかじめ確認しておこう。
それぞれの盆踊りは町会のものであり、町会の運営費や寄付を元に、地元の住民の方のために開催されている。参加の際には、そのことを念頭におき、謙虚な気持ちを忘れない様にしよう。
多くの踊り場では快く受け入れてくれるはずだ。その際はぜひ盛り上げ役にひと役買うことに務めよう。
駅から離れた踊り場も多く、自転車等の移動手段を使うのが便利だが、交通ルールを遵守し、無断駐輪等で迷惑をかけない様に注意すべし。
下町には銭湯や隠れた名店も多い。
踊りの後は汗を流してサッパリし、一杯引っ掛けて締めくくる、という楽しみ方もオススメだ。
ちょっとした心がけで、地元の方と心を通わせながら楽しむ盆踊りは、きっと他では味わえない経験となることだろう。そして翌年もまたその町会の踊り場へと足を運ぶことになるのだ。
下町らしい雰囲気を存分に楽しみ、この特別な3日間を思い出に刻もうではないか。
いざ、盆踊りのテーマパークへ!
盆ボヤージュ!
名称:牛嶋神社祭礼氏子町会奉納踊り(通称)
開催場所:東京都墨田区内、牛嶋神社氏子の各町会
開催日:毎年9月敬老の日に近い金曜日から日曜日の3日間
主催:牛嶋神社氏子の各町会
アクセス:
東武スカイツリーライン・東武亀戸線「曳舟」、
東武スカイツリーライン「とうきょうスカイツリー」、
京成押上線・都営浅草線・東京メトロ半蔵門線・東武伊勢崎線「押上」、
都営浅草線「本所吾妻橋」、
JR総武線・都営大江戸線「両国」、
JR総武線・東京メトロ半蔵門線「錦糸町」下車
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