千葉県の匝瑳(そうさ)市八日市場には、千葉県でも特に歴史の深い盆踊りが継承されています。それが千葉県の県指定無形民俗文化財にも指定されている「八日市場の盆踊り」です。
コロナ禍の影響で2020年以降は地域の盆踊りも中止となっていましたが、2022年5月5日、GWの最中にNPO法人 匝瑳市観光物産協会の地域イベント「八日市場の盆踊り~GW真昼の盆踊ラーふぇす~」が開催、地元の方々のみならず遠方から盆踊りファンも駆けつけるにぎやかなイベントとなりました。今回はその模様をレポートしたいと思います。
コロナ禍で祭りが途絶えた2年間
会場の最寄り駅となるのが、JR総武本線の「八日市場駅」。都心から電車を乗り継ぎ約2時間ほどかかります。それなりに遠いですが、行きしなの車窓から見える田園の風景は美しく、心が癒されました。
駅から歩いて1分。会場となる「そうさ観光物産センター 匝(めぐ)りの里」に到着しました。その名の通り、匝瑳市の観光案内所を担い、千葉県のさまざまな物産が販売されています。この建物に併設された広場がお祭りの会場です。
個人的には、この場所を訪れると、コロナになる前に八日市場の盆踊りを訪問した記憶が蘇ります。
時間が遡りますが、上の写真は私が2018年に匝りの里で開催された盆踊りを訪れた際のものです。
同日、少し離れた場所でも盆踊りが開催されていました。実は一言に「八日市場の盆踊り」と言えど、そのような名前のお祭りがどかっと一つあるのではなく、実際のお祭りは地区ごとに小さく開催されています。演奏や歌唱も、地区ごとの囃子方が務めるという、地域に根ざした昔ながらの盆踊りなのです。
八日市場の夏は、まさに祭りの季節です。盆踊りはもちろんのこと、毎年8月4日、5日に開催される「八重垣神社祇園祭」はさらに熱く燃え上がります。
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八重垣神社祇園祭は神輿祭り。お囃子が鳴り響く中、各地区の神輿が「あんりゃあどした!」の掛け声とともに、激しく担ぎ出されます。沿道からかけれる水が、いやがうえにも担ぎ手たちの勢いを高めていきます。
祇園祭をお祭りの本番とみなすと、盆踊りはどちらかというと地域の人たちの憩いの時間という感じがします。私が2018年に八日市場の盆踊りを訪れた際も、囃子方も、見物人も、分け隔てなく会食しながらリラックスする光景が印象的でした。
コロナ禍は盆踊りのみならず、祇園祭の開催も阻んでしまいました。今回の盆踊りイベントは、開催の形式や時期も本来の地域のお祭りとは異なるものですが、制限のある中でも何かお祭りを!という意気込みのもとに開催されたそうです。
立ち並ぶ屋台が祭りの雰囲気を演出
会場に到着すると既に演奏が開始されていました。今回の盆踊りの囃子方を務めるのは、「萬町親和會」さんです。CDの音源などではなく、生演奏と生歌で踊ることができるのが「八日市場の盆踊り」の魅力かもしれません。主催者の方によると、地区ごとに演奏のスタイルや味わいは変わるそうです。コロナが収束して盆踊りが再開したら、いろいろな地区を巡って聴き比べをしたいものです。
この日は飲食やグッズの販売も行われ、個人的には久々にお祭りの雰囲気を堪能することができました。
鳴り響くお囃子と、久しぶりの盆踊りの光景
早速、輪の中に加わって踊ってみました。八日市場には「権左が西国」「東上総」「庄八」の3つの伝統的な盆踊り曲が伝わっています。これに加えて、地区によっては「大漁節」も演奏されることもあるそうです。
盆踊り唄の歌詞はいわゆる「口説き」と呼ばれるスタイル。物語調の歌詞を一定の節回しで繰り返していきます。歌詞の中には周辺地域の具体的な地名や、漁師言葉が濃密に織り込まれ、海とともに生きた人々の生活ぶりが、ありありと伝わってきます。
曲は3種類ありますが、踊りの型は1種類。鳥が羽ばたくかのように両腕を広げる動作が優雅でもあり、踊っていて楽しいです。加えてさまざまな楽器を織り交ぜて演奏される軽快なお囃子と、渋みのある音頭取りの唄声が一層に踊りを盛り上げてくれます。
休憩時間にはビンゴ大会や、DJ?が回すダンスナンバーのメドレーもあり、子どもも大人も大はしゃぎ!
踊りコーナーの最後には「大漁節」が演奏され、踊り子たちから「アンコール」が巻き起こるほど、大いに盛り上がりました。
盆踊りコーナーが終わると、最後には囃子方による祭り囃子の演奏が行われました。お囃子の盛んな地域であるだけに、その見事な演奏に聞き惚れてしまいます。
外部からの評価の声もイベントのきっかけに
盆踊りの後に、今回のイベントを企画したNPO法人 匝瑳市観光物産協会 匝りの里 企画部部長の鈴木 昌幸さんにお話を聞いてみました。
Q.今回、イベントを企画した狙いを教えてください
A.最近になって、外部のさまざまな人から地元(八日市場)の盆踊りを評価する声が上がったことが、きっかけの一つとなっています。例えば、「権左が西国」という曲は西日本口説き型の盆踊り唄として、太平洋側東限(北限)の貴重種なんだそうです。踊り好きの人たちは元より、むしろ地元民に自分たちがやってきた盆踊りは価値があり、カッコいいと褒めてもらえる素晴らしい文化なんだよ!と伝えたいと思い、イベントを企画しました。
また、コロナ禍により二年続けてお祭りや盆踊りが中止になってしまいました。そろそろ少しでも前を向いて前進していかないといろんな意味でダメになってしまうんじゃないかという危機感も、今回の企画を後押ししています。危機感はハンパなく感じています!
Q.イベントを実施する上で大変だったことは何ですか
A.コロナ禍により、お囃子稽古の再開をしている囃子連が少なく、演奏出演の選定が困りました。
Q.イベントを開催してみての感想はいかがでしょうか
A.お祭り・お囃子好きな囃子連と盆踊り大好き踊ラーさんとイベント好きな賑やかしの方たちがたくさん集まっていただいて、楽しい盆踊ラーふぇすになりました。 欲を言えば、地元の踊り手にもう少し足を運んでもらいたかったかな……。
Q.8月の祇園祭など、2022年のお祭りに関しての地元が取り組んでいることはありますか
3年ぶりに神輿渡御のある祇園祭を斎行するべく、渡御コースの変更・行事内容の見直しなど、コロナ禍に負けない祇園祭にしようと計画を練っている最中です。
Q.最後に八日市場のお祭りについてPRをお願いします!
八日市場の祇園祭の三大要素
・「あんりゃあどした」の大きな掛け声
・勇壮な祭り囃子
・神輿への派手な水掛け
コロナ禍では、
・掛け声は抑え目に
・囃子連は人数制限
・水掛け自粛
となってしまうかもしれません。 それでも、 神輿を担ぎ、 囃子を奏で、 祭りを愛する匝瑳人の心意気を忘れてはいません!
千葉が誇る盆踊り、初めて体感した時の衝撃
昭和52(1977)年に発行された『千葉県指定文化財 八日市場盆踊り 現代的意義とその歴史』(八日市場民謡保存会)という資料を読むと、この地域の盆踊りが昭和の初め頃までは各所で毎晩のように催され、若者たちが明け方まで踊ったという証言が残されています。この本が発刊した時点では、既に盆踊りは下火になっていたようですが、それでも2022年の現在まで、形は変われど絶えず盆踊りの文化が継承されていることは奇跡のようだと感じます。
私も千葉県の出身ではありますが(船橋市)、千葉にこのように歴史のある、しかも唄としても、曲としても、踊りとしても独自的で魅力のある盆踊りがあったとは知らず、初めて体験した際は、貫かれるような衝撃を受けたことを覚えています。そしてなぜか誇らしいような気持ちにもなりました。
祭り復活の機運が高まる2022年。八日市場のお祭り・盆踊りも制限を加えながらも、開催の検討がなされているようです。またこの地で権左が西国、庄八、東上総、そして大漁節が踊れるのか、今から楽しみな気持ちです。