岐阜県郡上市の夏を彩る「郡上おどり」。毎年7月中旬から9月上旬まで続き、お盆の4日間に行われる「徹夜おどり」には全国から十数万人もの人々が集まる盛大な盆踊りです。
その一方で、郡上おどりも人口減少や少子高齢化、担い手不足といった課題と向き合っています。郡上市では、郡上おどり保存会創立100周年を機に「郡上おどり保存活用計画」を策定しました。華やかな踊りの輪の向こう側で、次の100年へ向けてどのような挑戦が始まっているのか。郡上市役所産業観光部観光課の大脇さんにお話を伺いました。
<この記事のポイント>
・保存会100周年を機に、「次の100年」を見据えた保存活用計画を策定
・投げ銭やサポーター制度で、ファンや移住者も祭りの支え手に
・地域・行政・企業が連携し、持続可能な祭り運営の仕組みづくりを推進
目次
100年の先を見据えて──「郡上おどり保存活用計画」策定の背景

── まず初めに、「郡上おどり保存活用計画」の策定に至った背景や、当時の課題感について教えてください。
大脇さん: 大きなきっかけとなったのは、2022年にいまの「郡上おどり保存会」が創立100周年を迎えたことです。近代の郡上おどりが一つの節目を迎えたことを機に、関係者の間で「この先100年も同じように郡上おどりが続いていくためには、今、みんなで真剣に考えないといけない」という機運が高まりました。そこから約2年という歳月をかけ、行政だけでなく、保存会をはじめとする多様なステークホルダーが集まり、議論を重ねて作ったのがこの計画です。
そして、最大の課題として立ちはだかっていたのは、やはり少子高齢化に伴う「担い手不足」ですね。保存会の中でも会員の高齢化が進んでいて、後継者や技術の継承が急務となっていました。また、郡上おどりでは、街中を「屋形(※お囃子と音頭取りが乗り込む屋台)」を押して回るのですが、この準備や移動を担ってくれているのは各町内会(自治会組織)の皆さんです。しかし、若者が町を出ていってしまい地域活動の維持が困難になりつつあり、「このままでは屋形が曳けず、開催も危ぶまれるんじゃないか」という強い危機感を抱いていました。
さらに、行政の財政面を見ても、地方都市共通の課題として体力がどんどん低下しています。郡上おどりは当市にとって重要な観光資源ですが、この先、永遠に同じ額の公費を出し続けて支えることはできません。持続可能な運営体制を築くためには、しっかりと「マネタイズ」をしていくことが大事だということも、計画策定の重要な背景になっています。
郡上おどり保存活用計画概要版(https://www.city.gujo.gifu.jp/admin/info/docs/11ee233e6b0d0139cc7b2841747820741a873bf6.pdf)
郡上おどり保存活用計画概要版(https://www.city.gujo.gifu.jp/admin/info/docs/11ee233e6b0d0139cc7b2841747820741a873bf6.pdf)
── 計画書を拝見すると、保存会や行政だけでなく、地域の皆さんや「踊り愛好者(ファン)」といった多様な主体との連携が明記されているのが印象的でした。多様な立場の皆さんの考えをまとめるのはご苦労もあったのではないでしょうか。
大脇さん: そうですね、ファンも含んだ市外の方、市内の方、立場を問わずに一つのテーブルに並んで、「どうしていったら郡上おどりが残るんだろう」というテーマで、侃侃諤諤の議論を重ねました。皆さんそれぞれ地域や郡上おどりへの思いがある中で、すべての人が100%満足する方針を作れたとは思っていません。ですが、とにかく何かアクションを起こさないとダメだという共通の思いが根本にあったので、まずは動き出すための話し合いをして、2024年6月に発表することができました。「地元を考えるのに地元の人間が汗をかかないで、どうしていいものができるんだ」という思いで、外部のコンサルタントなどを入れず、行政の職員と地元の人たちだけで汗をかいて作り上げた計画です。
従来、郡上おどりの運営は基本的に地元の皆さんの力で支えられてきました。しかし、持続していくためには、地元の人たちだけでなく、実際に踊りに足を運んでくれるファンの皆さんの力も欠かせません。ファンの皆さんにも「自分たちが関わらないと、この大好きな踊りが続いていかないんだ」と当事者意識を持ってもらうことが重要だと考えています。少し強い言い方になってしまいますが、楽しんでいただきたいからこそ、祭りを守るための負担も理解してほしいーーいわゆる「受益者負担」の考え方も、これからの運営には必要だと捉えています。
── そういう考え方、花火や祭りの有料観覧も増えて、だんだん社会にも当然のこととして受け入れられるようになってきましたね。さて、計画には取り組みの主体として行政の役割もはっきり書かれていますが、「観光課」が文化財の継承まで視野に入れている点も珍しいケースだと感じました。
大脇さん:他の自治体さんからも視察などで驚かれることが多いんですけど、こうした柔軟な体制も郡上市ならではの特徴かもしれません。市長からも「郡上おどりは当市最大の観光資源でもある。観光振興に関わるものなのだから、行政の縦割りに捉われず、観光部局もしっかり守っていくように」と指示を受けています。郡上おどりは、国重要無形民俗文化財としての「文化」であると同時に、地域経済を引っ張る「観光資源」でもあります。マネタイズや自主財源の確保といった施策を進めていくにあたっては、私たち観光部局にもノウハウがあるので担える役割が大きいという側面もあります。
共感を生む、新しい祭りの支え方──「投げ銭」と「サポーター制度」

── では、具体的な取り組みについて伺います。昨今、メディアでも大変話題になった「投げ銭」について教えてください。
大脇さん: この施策は、郡上おどりに訪れた来場者やファンが、祭りの会場で直接、祭りの保存・運営資金を寄付できる仕組みです。受付等に置かれた樽に現金を入れたり、QRコードからデジタル決済をしたりすることで、誰もが気軽に祭りの支援者(スポンサー)になれる制度となっています。報道などでも大きく取り上げていただいて、初年度の動きとしては大成功だったと考えています。
── 初年度から約150万円が集まったとのことですが、成功の秘訣はどこにあったと考えていますか?
大脇さん: 一番の成功要因は、何よりも「郡上おどりを未来へ保存・継承していこう」という私たちの考え方に、踊りファンの皆さんが深く共感してくれたことですね。
工夫した点としては、「投げ銭」というネーミングにしたことが挙げられます。行政がやる場合、どうしても「ご寄付」や「ご浄財」といった堅苦しい名前になりがちですが、それでは若い世代の人たちには敬遠されてしまう懸念がありました。YouTubeのスパチャ(Super Chat)などで「投げ銭」という言葉が定着していることもあり、あえてユニークで分かりやすい名前にしたことが、寄付参加へのハードルを大きく下げたのだと思います。
また、現地での運用でも気づきがありました。当初はQRコード決済などを街中に貼って、気軽に参加してもらうことも想定していましたが、実際には受付に置いた「樽(現金)」での寄付が圧倒的に多かったんです。現地で踊りの熱気を浴びて、気持ちが高揚したその場に「樽」があることで、「応援しよう」という気持ちが直接的な寄付につながったんだと感じています。

── それは興味深い発見ですね。現金での管理は大変な面もあったかと思いますが、地域からのサポートなどはあったのでしょうか?
大脇さん: その通りで、現金の管理や人の配置は運営上の課題でもありました。でも、ここでも地域の皆さんの温かい支援に助けられました。例えば、集まった投げ銭は当然小銭が多くなるんですが、今は金融機関で大量の硬貨を計算・入金するには手数料がかかりますよね。そこを地元の金融機関さんが趣旨に賛同してくれて、手数料を減免してくれたんです。地元の事業者の皆さんにも、祭りを支える仕組みに協力してもらっています。
── なるほど、資金面だけでなく、運用面でも地域の協力が支えになっているのですね。では、こちらも話題になりましたが、新たに導入された「サポーターズクラブ」の仕組みと現状についても教えてください。

大脇さん: サポーターズクラブは、郡上おどりの熱心なファンが、人手不足が課題となっている祭りの裏方をサポートする仕組みです。こちらはすでに市役所の仕事からは完全に離れて、踊りのステークホルダーの皆さんが自主的に運営してくれている組織です。中心となって立ち上げてくれたのは、数年前に「郡上八幡の水の流れる音」に惚れ込んで移住してきた市民の方です。この方がスキルを活かして募集サイトを立ち上げ、人員のとりまとめなどを担ってくれています。
現在は、一番の課題であった「屋形の引き手(移動サポート)」を中心にお手伝いしてもらっていて、シーズンを通して約80名が登録し、継続的に活動してくれているのは約45名という状況です。驚くことに、その約9割が市外に住んでいる方たちなんです。
── ファンの多い郡上おどりですから、その力が運営側に活かされるのは心強いですね。市民の皆さんが自らアクションを起こし、仕組みが回り始めているのも大きな成果です。
大脇さん: サポーターズクラブの運営面で素晴らしいなと思うのは、中心メンバーの方が「この活動を『業務(仕事)』にしないようにしよう」と言っている点です。義務感や仕事として捉えてしまうと、どうしてもモチベーションが下がってきてしまいます。「大好きな郡上おどりに関わり、地元の人たちとの交流を楽しむ場なんだ」という位置づけにすることで、皆さんがやりがいを持って参加してくれています。市役所の立場から見ても、これほど心強い「関係人口」の形はないと、本当に感謝しています。
伝統をつなぐ基盤づくりと、子どもたちへのアプローチ

── 地域外へ開かれた取り組みが進む一方で、保存会の活性化や運営体制など、内部の基盤強化はどのように進めているのでしょうか?
大脇さん: 計画策定に合わせて、保存会の中にも「保存活用のプロジェクトチーム」が立ち上がりました。組織内の連絡体制をより機能的なものに改善したり、他地域へ出張公演に行く人たちへの手当を増額したりと、安定した活動を支えるための具体的な取り組みが進められています。
また、課題となっている後継者育成の面では、小中学生が所属する「郡上おどり保存会ジュニアクラブ」との連携強化が大きく前進しました。保存会とジュニアクラブは別の組織なのですが、これまでは協力しつつも、互いの運営状況があまり理解し合えていない時期もあったそうです。でも昨年度からは、意識的に連携を強化して、保存会から例年の数倍の規模でジュニアクラブに踊りやお囃子の講師を派遣してもらい、連絡窓口となる担当者も置くなど、指導を通じた両者の絆が目に見えて深まっています。もちろん担い手育成は一朝一夕には叶いませんが、子どもから大人まで、育成の道筋が一本化されつつあると感じています。
── 連携強化でさまざまな成果があがっているのですね。計画では「地元のおどり離れを防ぐ」と掲げられていますが、地域の子どもや若者へのアプローチについて、他にも具体的な施策があればぜひ教えてください。
大脇さん: 地元の子どもたちの「おどり離れ」を防ぐために、学校とも連携しながらさまざまな施策を展開しています。 まず、幼稚園児から中学3年生まで全員に、「おどりカード(スタンプカード)」を学校を通じて配りました。ラジオ体操のカードのように、踊りに参加してスタンプを集めると、3回で手ぬぐい、5回で抽選で「踊り下駄」が当たるという仕組みです。これが好評で、2025年度の延べ参加人数は2,770人にのぼりました。3回以上参加した子が794人、5回以上参加した子も194人いて、幼少期から踊りの楽しさに触れる良いきっかけになっています。
また、中学1年生を対象に、下駄職人が――この方も移住者なのですが、学校へ出張してもらって、「マイ下駄づくり」の授業を行っています。これには市内7校から計291人の生徒が参加してくれました。 さらに、市の予算をつけて、学校からの要請で全児童が年に1回はお囃子や踊りの指導を受けられる「体験・派遣事業」も始めました。こちらは、同じく市内の国指定重要無形民俗文化財である「白鳥おどり」の指導も含めて、延べ1,178人が参加しています。自分で作った下駄を履いて、学校で学んだ踊りを実際に縁日で踊りに行くという、良い流れが生まれてきていますね。
ここまでの成果と、未来へ向けたさらなる取り組み

── 数々の取り組み、大変参考になりました。保存活用計画は5ヵ年の取り組みとなっていますが、これまで2年余りの進捗を、現時点ではどのように評価されていますか?
大脇さん: たいていの計画って、作って終わってしまうことが多い中で、「投げ銭」や「サポーターズクラブ」など、世間で話題になるような具体的なアクションをすぐに起こせたことは本当に嬉しいですね。そして何より、行政がただ絵を描いたのではなく、移住者の方を含む多様なステークホルダーの皆さんが、自分たちでムーブメントを起こしてくれているというのが最大の成果だと思っています。
また、市外のサポーターの人たちが熱心に汗を流してくれる姿を見て、地元住民の皆さんの間にも「これだけやってくれるんだから、地元の自分たちもやらないわけにはいかないよね」という新しい意識が芽生え始めています。これまで「人が足りなくて運営が苦しい」という声ばかりで辛い部分もあったんですが、こうした前向きな変化が生まれていることは、非常に大きな評価ポイントだと捉えています。
── 地域の皆さんの心にも、確かな変化が起きているんですね。祭りの当事者だけで抱え込むのではなく、ファンや移住者、企業までも巻き込みながら「みんなで支え、育てる祭り」へとアップデートを図る取り組みは、全国の地域にとってヒントになると感じました。2026年も7月11日の「おどり発祥祭」を皮切りに、郡上おどりが幕を開けます。今年新たに取り組もうと構想されていることはありますか?
大脇さん: 郡上おどりは「誰もが自由に参加できる」ことが最大の魅力であり価値なのですが、一方で誰でも参加できるがゆえに、「入場料」や「有料観覧席」のような分かりやすいキャッシュポイントがないという構造的な課題を抱えています。マネタイズという面では、まだまだ工夫する余地があると考えています。
そこで今後力を入れていきたいのが、「民間企業の皆さんからのご協賛」の拡充です。例えば、数十万人の人出がある「徹夜踊り」の期間中にプロモーションブースを出展してもらったり、踊り客に配るうちわや、会場の提灯に企業名を入れたりといった、新しい協賛メニューの提供を始めています。
郡上おどりは国の重要無形民俗文化財ですし、ユネスコ無形文化遺産にも登録されています。企業の皆さんには、こうした世界的な価値を持つ伝統文化の保護・継承を支援する取り組みを、ぜひ今のCSR(企業の社会的責任)活動として活用していただきたいと考えています。 「私たちが郡上おどりを支えています」と大いにアピールしてもらって、企業価値の向上に役立ててもらえれば嬉しいですね。こうした企業との新しい関係づくりが、次の100年へ向けた持続可能な祭りの形につながっていくと確信しています。
――本日はありがとうございました。(了)