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“来年もある”が当たり前になる日へ|HARUMI FLAG自治会が育てる、新しい街の盆踊り

yusuke.kojima
2026/8/17
2026/8/14
“来年もある”が当たり前になる日へ|HARUMI FLAG自治会が育てる、新しい街の盆踊り

東京湾を望む晴海ふ頭公園に、「東京音頭」の明るい音色と、力強い太鼓の音が響く。

夕暮れの空が少しずつ深い青に変わり、会場に張られた提灯に明かりがともる。櫓の向こうにはレインボーブリッジが見え、その手前では浴衣姿の踊り手や家族連れが、思い思いに輪の中へ加わっていく。高層住宅群の灯りと祭りの灯りが重なり合う風景は、昔ながらの町場の盆踊りとは少し違う、東京湾岸の新しい街らしい表情を見せていた。

2026年7月、東京2020オリンピック・パラリンピック選手村跡地に誕生した街・HARUMI FLAG(晴海フラッグ)で、「晴海ふ頭公園盆踊り大会2026」が開かれた。昨年に続く2回目の開催である。2026年は、7月11日・12日の土日2日間の開催で、およそ3万人が来場した。

会場には50余りのテントが立ち並ぶ。輪投げやヨーヨー釣り、焼きそばやかき氷を提供する店の周辺には、子どもたちの声が響き、櫓のまわりには幾重にも人の輪ができていた。東京湾の夜景を背に踊る盆踊りは、それだけでも十分に印象的だ。しかし、この盆踊りは、新しく生まれた街で、住民同士が顔を合わせ、新たな関係を結び、地域の担い手を少しずつ育てていく場でもある。

「新しい街、新しい伝統――」

そう語るのは、HARUMI FLAG自治会長の荒瀬勇太さん。

昔からの地縁や祭礼が存在する地域とは異なり、HARUMI FLAGは、ほぼ同じ時期に多くの住民が暮らし始めた新しい街である。だからこそ、住民同士が出会い、声を掛け合い、「この街をよくしていきたい」と思える場を、意識してつくっていく必要がある。盆踊り大会は、そのための試みの一つとして始まった。

(写真:児玉大輔)

 

5街区、約1.2万人。新しい街に生まれた一つの自治会

荒瀬さんは、まずこの街の構造を説明してくれた。

「全部で5つの街区があります。サンビレッジ、パークビレッジ、シービレッジ。この3つが分譲街区。ポートビレッジが賃貸街区。そして、商業施設の『ららテラス HARUMI FLAG』。この5街区が『晴海フラッグ』と定義されています」

管理組合や管理会社は街区ごとに異なる。所有者も運営主体も一様ではない。大規模再開発によって生まれた街ならではの、複層的な構造がある。

では、自治会はどうなっているのか。

「自治会は、1つしかない。この5街区全員でやっています。全部で24棟のマンション、大体5,600戸、約1万2000人で自治会を組織しています」

荒瀬さんは、入居後に自治会のメンバー募集を知り、そこに手を挙げた一人だった。

「2024年の1月に入居して、3月くらいに『自治会を作るんですけど有志はいますか?』という募集のチラシを見て応募しました。その時の20人余りが初期メンバーですね」

新しい街に、新しい自治会をつくる。言葉にすれば簡単だが、そこには難しさもある。荒瀬さんは、中央区の歴史ある地域と比べながら、HARUMI FLAGの立ち位置をこう語る。

「中央区って、銀座があって、日本橋があって、月島があって。歴史が深いところとか伝統あるところに、僕らは全く歴史なく登場しちゃった。じゃあ、新しい伝統をこの新しい街で作っていきたいなと」

歴史がないことは、これから住民の手でつくっていける余地でもある。盆踊り大会は、その余地に、住民が新しい営みをつくるようにして始まった。

 

「やらなければ」ではなく、「やりたい」から始まる自治会活動

写真:編集部

盆踊り大会を始めた理由は、一つではない。だが、その中心にあるのは、自治会を持続させていくためには「楽しいから関わりたくなる」場が必要だという考えだった。

「自治会活動というと、防災、清掃、防犯、見守りなど、地域にとって欠かせない役割がある。でも、『じゃあ清掃しようね』『防災しようね』とか、“To Do”というか、“Have to do”ばっかり並べると、やっぱりだんだん求心力もなくなっちゃうと思うんですよ」

だからこそ、“Want to do”が必要だった。

「“Want to do”。やったら楽しいよね、というものの軸として、やっぱり盆踊り大会的なものが必要だなっていうのが、最初にありました」

なぜ盆踊りだったか。それは、荒瀬さんが目にした町内会の持続性をテーマとした研究論文だった。それによると、活発に活動する町会と活動が縮小していく町会の違いを示した要素の一つが、「お祭りを開催しているかどうか」なのだそう。

「年に一回、大人たちが必死に祭りの準備をして汗を流し、子供たちがその楽しそうな背中を見て育つ。そして成長した子供が神輿の担ぎ手となり歴史を繋ぐ。ハレの場があることで、地域の地縁は世代を超えて『縦の歴史』として受け継がれるんです」

楽しい、自分も関わってみたい。そう思える活動があって初めて、自治会は住民にとって身近なものになる。そして、「盆踊り」なら、この街に暮らす子どもも、大人も、高齢者も、外国にルーツを持つ住民も、同じ場に居合わせることができる。

写真:編集部

「顔を合わせる機会が少ない、みたいな話を住民の皆さんから聞いていたんです。2024年にこの街ができて、これから防災などの観点でも、顔の見える関係は必要だよねっていうのはあったと思います。実は、2024年7月に自治会が発足して、その10月にまずハロウィンパレードを行いました。それが予想以上に盛り上がった。立ち上げてから2〜3カ月でパパッとできて、よかったなと。じゃあそこから『これくらいの人が集まるんだ』というのが分かってきたので、じゃあ来年の夏はお祭り的なものをやろう、と」

実は、中央区では盆踊り開催への助成制度がある。周辺地域に盆踊り文化が根付いていることも、新しい街がこの行事に取り組むうえで後押しになった。

写真:編集部

 

1年目の手探りを、2年目の仕組みに変える

新しい街に、初めての盆踊りをつくる。

言葉にすると華やかだが、実際の現場は手探りの連続だった。盆踊り大会を開催するには、会場、電源、音響、出店、保健所への確認、テント、重り、撤収、安全管理など、無数の実務がある。長年続く地域の祭りであれば、過去の経験や地域内の役割分担に支えられていることも多い。しかし、HARUMI FLAGには、まだその蓄積がなかった。

荒瀬さんは、1年目を振り返りながら笑う。

「初めてやる盆踊り大会だったし、僕も『電源ってどこから引けるんだっけ?』『食品って出せるんだっけ?』とか、もう手探りの連続だったんです」

写真:編集部

出店についても、最初から広く募集できたわけではない。電源や食品提供の条件が分からないまま、「出店できます」と公募することはできなかった。そこで荒瀬さんたちは、知人や関係者に一人ひとり声をかけて回った。

「住民でテニスサークルをやっている友達とかに、『できるかどうかわかんないけど、焼きトウモロコシを焼く台とかを用意して、出てくれ!』みたいに、一人ひとりお願いしていって、なんとかお店を用意しました」

まさに手弁当の立ち上げである。

やってみて初めて分かったことも多かった。どの程度の電力が必要なのか。発電機でどこまで賄えるのか……。

「テントは管理組合が持っていたので、借りて張ってみたら、風で飛ばないようにするには1個20キロの重りをいくつも置かなきゃいけない。終わってからも、『次の日は月曜日で住民の方に手伝い頼めないから、今から全部自分たちで片付けなきゃ……』って。夜中12時くらいまで、みんなで重りを運びました」

この話は、祭りの現実をよく表している。地域の催しは、当たり前に開かれるわけではない。誰かが重りを運び、電源を確認し、片付けをする。その積み重ねの上に、来場者が楽しむ風景が生まれる。

 

一方で、1年目の苦労は、2年目の改善点にもなった。

2026年大会で荒瀬さんたちが掲げた挑戦の一つは、1年目の経験をもとに、運営を仕組みに変えていくことだった。テントの設営や電気まわりなど、負担が大きく専門性の必要な部分は業者に任せる。保健所とのやりとりも整理し、どのような食品提供が可能か、どこに注意すべきかを把握する。そのうえで、住民出店を公募できるようにした。

「今回はテントを全部業者さんに立ててもらおう、と。また、保健所とのやり取りも経験し、『これは売っていい』『これはダメだ』っていうのが分かったので、公募しました」

さらに特徴的なのは、住民の出店料を0円としていることだ。そこには、単に来場者として楽しむだけではなく、自分たちも店を出し、手を動かし、場をつくる側に回ってほしいという考えがある。

業者に任せる部分と、住民が関わる部分を切り分ける。1年目の手探りで見えた課題を、次の年の運営設計に反映する。そこに、2年目の盆踊りらしい前進があった。

 

音、ゴミ、暑さ。続けるために向き合う現実

祭り・イベントには、にぎわいと同時に必ず課題も生まれる。

1年目の盆踊り大会には、数え方によって1万5000人から2万人ほどが訪れたという。新しい催しとしては大きな反響だった。しかし、これだけの来場者があれば、音響、ゴミ、暑さ、安全管理など、運営上の課題も目立つようになる。

荒瀬さんがまず挙げたのは、音響の問題だった。

「1年目の一番の課題が音響だったんです。『集まってくださーい』って言っても、何も聞こえなくて」

広い公園に人が集まるなかで、案内の声が届かない。盆踊りの進行にも、誘導にも、音響は不可欠だ。そこで秋のハロウィンパレードでは、スピーカーを強化した。

「スピーカーをバリバリ入れたんです。すると、やっぱり『うるさい』という声は相当きました」

試行錯誤――。祭りの運営は、にぎわいをつくることと、周辺への配慮との間で常にバランスを取る営みでもある。「盛り上がればいい」だけでは済まない。

ゴミ対策にも工夫がある。1年目、各所に設けたゴミ捨て場に「人の目」が届いていなかったため、来場者がゴミを分別せず適当に投げ捨ててしまうような状況が生じていた。

「今年のゴミ作戦は、『一か所しか作らない』。ゴミステーションを本部前にして、そこに運営スタッフが陣取っておく。みんな適当に捨てないで、ちゃんと分けてね、と。ゴミステーションに人の目が届くようにしたんです」

また、出店者にもルールを設けた。各店舗で出たゴミは、共用のゴミステーションに持ち込むのではなく、それぞれで処理する。大きなイベントを地域で続けていくためには、こうした細かな取り決めが欠かせない。

熱中症対策も重要だ。日中の暑さを避けるため、開始時刻は16時からとし、日が暮れてから本格的に人が集まる設計にしている。出店者には、冷房や扇風機などを各自で用意してもらうよう伝えているという。

華やかな盆踊りの裏側には、こうした現実的な判断が積み重なっている。

音をどう届けるか。ゴミをどう集めるか。暑さにどう備えるか。駐輪場はどうするか。運営スタッフの負担をどう減らすか。どれも、この盆踊りを「来年もあるもの」にしていくための土台である。

写真:編集部

 

祭りは、自治会の活動を住民に見せる場になる

写真:編集部

盆踊り大会は、地域の交流の場であると同時に、自治会そのものを住民に見せる場にもなった。

荒瀬さんは、昨年の開催後に見えた変化として、自治会役員への関心が高まったことを挙げる。

「盆踊りで『あ、自治会ってこんな活動してるんだね』というのが住民に可視化されたんです。盆踊りの後、11月くらいに役員を募集をしたら、多くの人が「役員をやりたいです」と手を挙げてくれました」

自治会は、日常の中では何をしているのか分かりにくいことがある。防災、防犯、清掃、行政との調整、住民からの相談。必要な活動であっても、表には出にくい。しかし祭りでは、受付をする人、案内する人、出店を調整する人、音響を確認する人、ゴミを管理する人、会場を見回る人が見える。

「あの人たちが、この街のために動いているのだ」と分かる。それが、次の参加のきっかけになる。

写真:編集部

荒瀬さんたちは、そうした関わりを一過性にしないための仕組みづくりにも取り組んでいる。

たとえば、準備や運営のノウハウは、LINE WORKS上に記録している。ポスターをいつ外注したか、申請はいつまでに出す必要があるか、どのように作業を分解すればよいか。そうした情報を残し、次の担い手が読めば動ける状態にしていく。

「これまでのナレッジを共有しているんです。僕がいつポスターを外注したか、いつまでに締め切らないと間に合わないか。全部、WBS(Work Breakdown Structure=作業分解構成図)に落とし込んでいる。『荒瀬がいなくても回る』ように、今、仕込んでいます」

この言葉には、自治会長としての強い自覚がある。

写真:編集部

特定の人の熱意に依存した祭りは、その人が離れた時に続かなくなる。だからこそ、経験を記録し、手順に落とし込み、次の人が引き継げるようにする。祭りを続けるとは、思いを受け継ぐことだけではなく、作業を引き継げる状態にしておくことでもある。

HARUMI FLAG自治会では、会長の再選にも上限がある。1期2年を2回まで。最長4年で交代する仕組みだという。

「特定の人がずっとやると、絶対良くない。だから、僕がいなくなっても回るようにしています」

祭りを「新しい伝統」にしていくためには、個人の熱量を超えた仕組みが必要になる。荒瀬さんの言葉は、そのことを端的に示していた。

 

関わりやすい入口が、次の担い手を育てる

祭りの担い手をどう増やすか。

全国の祭りや地域行事が抱えるこの問いに対し、HARUMI FLAGの盆踊り大会が示しているのは、強いコミットメントを最初から求めすぎないことの大切さかもしれない。

地域の行事には、もちろん責任が伴う。準備も、当日の運営も、片付けもある。安全管理や来場者対応も必要だ。しかし、初めて関わる人にいきなり大きな役割を求めれば、参加のハードルは高くなる。

HARUMI FLAG自治会では、住民ボランティアが無理なく参加できる仕組みを意識している。当日のボランティアは、ネット上のシフト表から参加できる時間を選んで申し込む。朝から晩まで関わる必要はない。自分の都合に合わせて、できる時間に、できる役割で加わることができる。

会場で目を引いたのが、緑色のHARUMI FLAGのポロシャツを着たボランティアの姿だった。前年はTシャツだったが、今年はポロシャツを用意したという。用意した数は140枚で、参加したボランティアに配られるという。

会場で出会った親子は昨年に続き、揃いのポロシャツ姿で会場設営のボランティアに参加していた。

「子どもが、ボランティアをやってみたいと言ったんです」

そう話す母親の言葉には、無理に地域活動へ参加しているという気負いはなかった。新しく始まったイベントだからこそ、昔からの人間関係に入り込むような緊張感が少なく、親子で関わりやすかったという。

「去年参加して、顔なじみもできました。今年もまた参加できてよかったです」

写真:編集部

別の男性ボランティアは、HARUMI FLAGに2024年から入居。茨城県出身で、かつて暮らしたつくばも新しい住民の多い街だったという。そこで、祭りや地域行事を通じて人のつながりが生まれていく感覚を知っていた。

「つくばも『研究都市』として開発され、新しく住み始めた人が多い街でした。祭りのような場を通じて、少しずつ交流が深まっていったように思います」

HARUMI FLAGで暮らし始めてからは、自治会のポータルサイトでボランティア募集を知った。普段から清掃ボランティアなどにも参加しており、街の催しに、父親として少しでも協力したいという思いがあった。

「自分の子どもが暮らしていく街でもありますし、街の催しにはできる範囲で関わりたいと思っていました。シフトで参加できるので、ハードルが低くて、とても参加しやすいですね」

地域活動を担うのは、最初から強い覚悟を持った人だけである必要はないむしろ、「少しなら手伝える」「子どもと一緒なら参加できる」「知っている人がいるからまた来たい」と思える入口を、どれだけ用意できるかが大切なのだろう。

「なんで自治会活動をこんなに一生懸命やるのかって?もちろん、『資産価値の向上』のためだよ」と笑うのは自治会副会長の平尾さん。冗談めかした口調だが、自治会の加入率低下や担い手不足が各地で課題となるなか、地域活動を「自分ごと」にする視点として考えさせられる言葉でもある。「ここじゃなくてもさ、たくさんの人が暮らしているわけだから、やっぱり何か課題があって当然なんだと思うよ。だからこそ、地域を少しでもよくするために何ができるか。自治会の会合も、みんなが参加しやすいようにオンラインでやったり、LINEを活用したり、そういう取り組みがすぐにできるのはこの街らしさかもしれない。そういう柔軟さもあって、自治会に入りたいっていう若い人がいるんだろうね」

会場には、自治会の一員として運営に携わる若い世代の姿もあった。その一人は大学生だ。

「最初は、報道されているような民泊問題など、地域の課題を知ったことがきっかけでした。でも、自分はとてもいい街だと思っているんです。そんな時、自治会のオープンチャットで行われているやりとりを見ているうちに、自分の住む街をよくするために、自分も何か関わってみたいと思うようになりました」

自治会では、主にLINEオープンチャットを通じて連絡を取り合っている。会員の年齢層はある程度幅があるが、LINEであれば多くの人が使い慣れているサービスで、利用のハードルが低い。情報の流れが見えることも、若い人の自治会活動への理解を促進しているようだ。

担い手は、突然「担い手」として現れるわけではない。まず、関わっている人の姿が見えること。短い時間でも参加できること。参加したあとに、また来たいと思えること。その積み重ねの中で、少しずつ次の担い手が育っていくのかもしれない。

写真:編集部

 

「来年も当然ある」と思われたとき、伝統になる

 

20時過ぎ。盆踊りは最高潮だ。盆踊りの定番である「東京音頭」「炭坑節」といった楽曲から「きよしのズンドコ節」「ダンシング・ヒーロー」まで。「Let’s ONDO Again」では細川たかしの明るい歌声が会場をアゲる。締め太鼓のあと、まだまだ踊り足りない、といった表情の来場者のために流されたのが、荒瀬さんが大好きだという「ジャンボリミッキー!」だ。大人も子どもも、再び火がついたように踊る。

「これは去年からの『お開き曲』なんですよ。20時半には皆さんに会場を出てもらわなければいけないんですけど、去年は終わりですよ、と言ってもなかなか櫓の前から動いてくれなかった。仕方ないから最後にこの曲かけたら、満足してスーッと帰っていったの(笑)」と荒瀬さん。その言葉通り、踊りの後、汗だくの笑顔で人々は帰路に。2回目にして大会の「定番」も生まれているようだ。

少し夜風を感じられるようになった会場を歩いていると、HARUMI FLAGの盆踊り大会が、単に「見に来る」だけのイベントではないことが伝わってくる。

出店する人がいる。受付で案内する人がいる。踊りの輪に入る人がいる。子どもを見守る人がいる。ゴミステーションで声をかける人がいる。昨年は来場者として楽しんでいた人が、今年はボランティアとして関わっているかもしれない。それぞれの関わり方が重なって、祭りは少しずつ地域のものになっていく。

 

荒瀬さんは、この盆踊り大会を「新しい伝統」にしたいと語る。では「伝統」とは何か、と尋ねると、返ってきた答えは明快だった。

「例えば甲子園とか紅白歌合戦って、『来年ありますか?』って誰も聞かないじゃないですか。それは『あるのが当たり前』だから。もし住民の皆さんが『来年も絶対やるよね』って思ってくれたら、それはもう伝統だと思うんです」

もちろん、年月は大切だ。世代を超えて受け継がれてきた祭りには、その土地の記憶や信仰、暮らしが刻まれている。だが、どんな祭りにも始まりがあって、それを続けるかどうかを選んだ人たちがいた。子どもたちが、夏になると晴海ふ頭公園の盆踊りを思い出すようになっていたら。緑のポロシャツを着て手伝う人たちの経験が、次の世代へ受け渡されていたら――。その先にある10年後の姿を、荒瀬さんは描いている。

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