現在の東京と埼玉、川崎市と横浜市の大半はかつて「武蔵国(むさしのくに)」でした。江戸時代以降、徳川将軍家のお膝元となり政治や文化の中心として栄えてきましたが、「北武蔵」と呼ばれた埼玉には老中など幕閣の重臣が配置。江戸の食を支える重要な穀倉地帯としても開発が進みました。
祭りも数多く行われ、大いに発展し現代に受け継がれています。中でも
◎秩父夜祭(秩父市)
◎川越まつり(川越市)
◎熊谷うちわ祭(熊谷市)
この3つのお祭りは「埼玉三大祭り」と称されています。
3者とも豪華な山車(だし)が登場し、複数台が出合うと競り合うなどの共通点がある反面、それぞれ独自の特徴やルーツを持っています。今回はこの3つの祭りがどんなお祭りなのか、開催予定なども詳しくご紹介します。
(この記事は2022年に公開されたものを再編集しています。2023年10月11日 編集部更新)
秩父夜祭(秩父市)
秩父夜祭は毎年12月2日・3日に行われる秩父神社の例大祭です。飾り物を据えて町の中を曳き回す山車を「曳山(ひきやま)」とも呼びますが、秩父夜祭は曳山の豪華さなどから「日本三大曳山祭り」にも数えられています。
祭りが現代のように盛大になったのは江戸時代中期から明治・大正時代にかけてのことです。秩父の経済が絹織物で発展すると、秩父神社周辺に立っていた「絹大市」も規模を拡大。元々は神社の神事に付随する「付けまつり」として催されていた民間行事が、華々しく盛んに行われるようになりました。
◎秩父夜祭の見どころは?
秩父夜祭の特徴にして第一の見どころは、やはり曳山。「屋台」と呼ばれる曳山が4台、「笠鉾」と呼ばれる曳山が2台、合計6台が勇壮に練り歩きます。
笠鉾は、本来は屋根の上から下の方まで、たくさんの花飾りが枝垂れ桜のように放射状に垂れる独特の形をしていますが、明治・大正期に電話線や電線が架設されて本来の姿での曳行ができなくなり、夜祭当日には屋台と似たような姿で巡行します。
屋台には釘が1本も使われず、縄や部材の組み込みだけ。匠の技で組み上げられています。細部まで丁寧に施された極彩色の繊細な彫刻や金糸の刺繍は、息をのむほどの美しさです。
屋台に乗った紅白の襦袢姿の男衆は、「囃し手」という祭りの花形。昼間は扇子、夜は提灯を手に持ち「ホーリャーイ、ホーリャーイ」と掛け声をかけます。
屋台の後ろ半分は幕で覆われていて、お囃子の演奏者はこの中から軽快なお囃子を響かせます。前半分が踊りや芝居を行う舞台。曳き回しの途中で屋台を止め、少女たちが日本舞踊を披露する「曳き踊り」などが行われます。
また、その年の当番になっている屋台が芝居を行い、1年間準備してきた歌舞伎の演目を披露します。屋台は左右に張出舞台を付けて間口を広げ、大きな舞台に早変わり。屋台を芸座に組み立て直して上演するのは全国的にも珍しい様式ですが、これも秩父夜祭の特徴の一つです。
そして、例年12月2日の宵宮では19時頃から20時頃まで、3日の大祭では19時30分頃から22時頃まで奉納花火が打ち上げられます。この「屋台と花火のコラボレーション」が楽しめるところが他にはない秩父夜祭の特徴であり、最大の見どころです。
特に3日の花火は大規模で、お神輿が渡御してくる御旅所の近くには花火観覧エリアも設けられ、冬の夜空を明るく染める美しい花火を堪能できます。
秩父夜祭には、神様にまつわる面白い言い伝えもあります。
秩父神社に祀られた、北極星や北斗七星を神格化した妙見菩薩と、秩父神社の神体山である武甲山の龍神は相思相愛の仲。しかし、龍神の正妻が近隣の諏訪神社に鎮まる神様のため、せめて一年に一度だけはお諏訪さまの許しを得て、御旅所で出逢うというものです。
◎お祭り1日目「宵宮」ならではのメリットも!
秩父夜祭は、夜の光景が特に美しいため「夜祭」という名前になっていますが、お祭りはもちろん昼間から開催されています。例年は12月2日の午後から屋台の曳き回しが行われ、夕方は「宵宮」といういわば前夜祭で花火も上がります。
3日の大祭と比べれば人出も少な目で、屋台の近くでゆっくり観覧でき、往時の雰囲気を感じられるというメリットも。さらに、宵宮でしか見られない一本道での「屋台同士のすれ違い」も見逃せません。すき間がわずか数㎝という緊迫の場面では、曳き手たちの掛け声もヒートアップ。無事にすれ違ったとき、周辺には安堵の声と歓声があふれます。
初日の宵宮だけでもたくさんの見どころがある秩父夜祭。詳しい様子がわかる過去の現地レポートはコチラ!
◎お祭り2日目「大祭」で秩父夜祭を堪能しよう!
12月3日の大祭では、6台の屋台と笠鉾がそろい踏み。早朝から深夜まで秩父屋台囃子のリズムに合わせ、秩父神社を中心に市内を曳き回され、一帯はお祭りの熱気に包まれます。たくさんの露店が立ち並び、お祭りグルメも充実です!
交差点などでは、最大20トンにもなる屋台をテコの原理で傾かせ、回転台を差し入れて方向転換させる「ギリ廻し」と呼ばれる迫力満点の技も見られます。
ちなみに、秩父夜祭の笠鉾・屋台は国の重要有形民俗文化財に、屋台行事と神楽は重要無形民俗文化財に指定されています。そして、2016年にはユネスコの無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」33件の一つとして登録されました。
日もすっかり暮れる17時30分頃から、秩父神社で始まるのが御神幸祭です。お神輿が御旅所へ向けて出発し、提灯に彩られた屋台がお供していきます。
そして、春に芝桜がじゅうたんのように咲き誇ることで有名な羊山から大きな花火が打ち上がるなか、いよいよ祭りもクライマックスへ。屋台を団子坂という急坂を曳き上げるため、お囃子と掛け声がより強く響き、曳き子たちが目一杯の力を振り絞ります。
花火が終わり、無事に御旅所での神事を終えたお神輿が秩父神社へ還御するとお祭りも終盤です。深夜から未明にかけて屋台と傘鉾もそれぞれの収蔵庫へと帰り、熱狂に包まれた2日間の祭りは静かに幕を下ろします。
オマツリジャパンでは、12月3日の大祭の賑わいも現地から詳しくレポート!ぜひこちらもご覧ください。
◎2023年の開催は?
2022年、3年ぶりに例年に近い形で実施された秩父夜祭。2023年も12月2日(土)に宵宮が、3日(日)に本祭が行われます。ただし、秩父流鏑馬奉納は行われないことになりました。
祭りの概要や笠鉾・屋台の巡行予定は「秩父観光なび」の案内ページなど、詳細はQ&Aのページなどでご確認ください。3日の本祭では有料の屋台観覧席(桟敷席)が設けられます。販売方法などは決まりしだい秩父観光協会の案内ページなどで告知される予定です。