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担い手同士が繋がる仕組みとは?愛知県・花祭会館が行う「芸能の見える化」に迫る

更新日:2022/3/24 稲村 行真
担い手同士が繋がる仕組みとは?愛知県・花祭会館が行う「芸能の見える化」に迫る

愛知県奥三河には「花祭」というお祭りがある。赤いお面をかぶった鬼が出てくるのが特徴で、祭り経験や年齢に関わらず参加できるような特徴もある冬のお祭りだ。今回は花祭会館というミュージアムを訪れ、花祭の継承に向けてどのような取り組みが行われているのか?に注目しながら展示を拝見してきた。その時の様子を振り返る。

春よ来い!花祭を行う理由とは?

それでは、花祭とは何か?についてここで改めて触れておこう。毎年11月から3月の冬の時期に開催され、春の訪れを願う意味が込められている。見所は赤い顔をした鬼が登場し舞いを披露したり、釜で湯立てられたお湯を放散したりする場面。700年以上続く伝統的な神事である。現在、愛知県奥三河では15地区で花祭が伝承されており、国の重要無形民俗文化財にも指定されている。花祭の様子は以下の読売新聞オンラインのYoutube動画などでご覧いただきたい。

花祭会館に行ってきた!

花祭会館は愛知県の山深い場所にあり、公共の交通機関でアクセスするにはJR飯田線の東栄駅から公共バスに乗る必要がある。電車・バス共に1-2時間に1本程度の運行なので、車でのアクセスが便利かもしれない。花祭会館の玄関前には、祭りの際に会場の中央に置かれる釜が置かれており、お湯を沸かす「湯立て」を再現しているようだ。

花祭会館の外観

花祭の裏側まで知れる花祭展(1階)

まずは入館料320円を払い中に入ると、「花祭展へようこそ」の文字。花祭会館の1階部分では、2021年11月13日から2022年1月9日まで期間で「花祭展」が開催されている。この展示を拝見して、各地区の花祭に対する理解が深まるような取り組みと感じたので、その一部をご紹介したい。

1階の花祭展の入口

展示①花祭を体感できるコーナー

花祭展ではまず、祭り道具がずらりと並ぶステージがあり、太鼓を実際に叩いてみる体験ができるようになっている。また、申し出れば、鬼のお面の下にかぶるクッションをつけさせてもらうこともできる。このように体験型の展示が魅力的だと感じた。

展示②花祭の裏側を知れるコーナー

またこちらのコーナーでは、花祭の準備や後片付けなどの風景を写した写真を、花祭会館の倉庫と障子などをうまく活用しながら展示していた。どういう写真なのか、吹き出しでコメントもつけられていた。普段は地域内の人しか知ることのない風景を紹介しているのが、とても面白い視点だ。

湯立ての釜に関する写真には「え〜知らなかったの?手作りだよ」という吹き出しがつけられていた。窯作りには田んぼの土を使う場合があり、祭りが終わると元の田んぼに返すそうだ。同じものを使い続けないらしい。これは田植えと稲刈りが一年サイクルで来るのと同様に、1年単位で完結させるという生活文化があることを意味している。この話を知って、道具作りまで1年サイクルで徹底することは、ただ祭りを伝承するだけでなく技術まで伝承させることにも繋がると感じた。このように花祭はハレの場だけでなく、ケとしての日常的な生活を含めて見ることで理解できることがある。

花祭展の実施背景とは?より地元目線で伝承する

今回、花祭展の開催背景をスタッフの方に伺うことができた。

「花祭が地元の人目線で、暮らしの中でどのように受け継がれてきたのか、より工夫して見てもらえたら」とのこと。祭り当日のみ手伝いを申し出てくれる外部の人もいるが、当日のみ参加してもできることは限られてくるらしい。どのような準備段階を経て、祭りに至っているのか含めて知ることも必要だろう。

また、今回の展示にはコロナ禍において花祭の実施ができない中、担い手同士を繋げる必要も感じて開催に至ったようだ。花祭展は2022年1月9日まで開催中である。花祭展についての詳細はこちらからご覧いただける。

花祭の道具がたくさん!常設展(2階)

花祭展を見た後、2階に上がるとこちらでは常設展が行われており、各地区の花祭の写真や祭り道具がとにかくたくさん展示されていた。花祭に登場する鬼は、榊鬼と山見鬼と朝鬼がいて、それぞれの地域でお面の表情や作り方が全く違うということを知ることができた。花祭とは?を知る上で、各地区の花祭の様子が伝わってくる素晴らしい展示と感じた。

また、鬼のお面などと合わせて、獅子舞の写真や獅子頭も展示されていた。花祭には多くの地域で祭りの最後に獅子舞が登場する。花祭における獅子舞の起源は定かではないが、比較的似たような風貌のようなものが多い。これは鬼の面が各地区異なるという事実と対照的であり、この点がとても興味深く感じられた。いわば、サブ的な芸能として、獅子舞が継承されているということだろう。地域によっては獅子舞の獅子が八岐大蛇であることもあり、理由は定かでないようだが、そのような点にも興味をかきたてられた。

各地区の芸能が見える化されている

そういえば、花祭会館の展示を拝見する中で、壁にある地図が掲示されていることに気づいた。花祭はどの地区で継承されているのかがわかる地図のようだ。各地区の花祭の担い手は、自分の地域と他の地域の花祭の内容の違いがわかっている人も多いと聞く。これは全地区を見える化していくような今回の展示や花祭会館の活動、そして、花祭のMAPを制作するような地道な取り組みがあってこそだろう。

日本全国を見れば、地域の人々が意識するレベルまでこの「芸能の見える化」が進んでいないのが現状である。お互いの地区から学び合い、自分の地区を誇りに思う。そういう動きが進んでいくのも大事なことだと感じた。

15地区の花祭を見える化した地図

■花祭会館
住所:愛知県北設楽郡東栄町大字本郷字大森一番地
入館料:320円(花祭映画及び花祭会館ビデオ視聴などは別途入館料を設定)
営業時間:9:00~16:30(休館日:月曜日、12月29日~1月3日)

花祭会館に関する詳細はこちら

この記事を書いた人
オマツリジャパン オフィシャルライター
日本全国500件以上の獅子舞を取材してきました。民俗芸能に関する執筆、研究、作品制作等を行っています。

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