京都の市比賣(いちひめ)神社は、一風変わったひな祭りで知られています。なんと「ひと雛」、つまり、平安装束をまとった人間のお雛様一行が参拝者を出迎えるのです。
2022年の「ひいなまつり」は、新型コロナウイルスの感染状況に鑑み、残念ながら中止になりました。2023年は社会が平安を取り戻していることを願いつつ、市比賣神社のひいなまつりの魅力を紹介します。
市比賣神社のひいなまつりとは?
市比賣神社で例年3月3日の桃の節句に行われているひいなまつり。最大の見どころは、本物の人間が艶やかな平安装束に身を包んだ雛人形、ひと雛として登場することです。
この投稿をInstagramで見る
ひと雛の三人官女による舞の披露や、五人囃子(ごにんばやし)によるお囃子(はやし)の演奏など、他では見られない珍しい光景が広がります。
この投稿をInstagramで見る
さらに十二単の着付けや、平安貴族が実際に行っていたといわれる遊戯の投扇興(とうせんきょう)や貝合わせも体験できます。
この投稿をInstagramで見る
平安時代にタイムスリップして当時を体験しているような感覚を味わえるのが、市比賣神社のひいなまつりの魅力です。
市比賣神社自体はとてもこぢんまりした神社です。ひと雛の雛壇や平安時代の体験コーナーは例年、市比賣神社からほど近いひと・まち交流館で行われています。
男雛と女雛の位置が逆!?
市比賣神社のひいなまつりで、人間のお雛様が雛壇に並んでいる様子に、違和感を覚える方も少なくないでしょう。「お雛様の並び順が間違っているのでは?」と。
それもそのはず。関東では向かって左側に男雛、右側に女雛を配置するのが一般的です。
しかし京都や関西の一部地域では、向かって右手に男雛、左手に女雛を配置します。
この投稿をInstagramで見る
これは日本の伝統的な礼法である左上右下(さじょううげ)、つまり向かって右手の方が左手より位が高い、という考え方に由来します。
現代では西洋式のルールが広く採用されているため、原則的に右上位、つまり向かって左側のほうが上位です。雛飾りも、女雛を向かって右側に置き、その左側に男雛を配置する地域が増えています。しかし市比賣神社のひいなまつりでは平安期を再現しているため、ひと雛の配列は、日本古来の伝統に則った左上位の並びです。
こういった時代や地域によって異なる習慣を垣間見られるのも、市比賣神社のひいなまつりの楽しみの一つでしょう。
女性の願いを叶える市比賣神社
2022年の3月3日は、ひいなまつりは中止でしたが、咲き誇る桃の芳しい香りに包まれた市比賣神社には、多くの参拝者が訪れていました。
市比賣神社は、ご祭神の5柱がすべて女神という珍しい神社です。全国でも類をみない女人厄除けの神社として、歴代皇后のご崇敬が篤いことでも知られています。女性を守り、女性のさまざまな願いを叶えるとも言われています。
境内の奥まった箇所には、天之真名井(あめのまない)というご神水が湧いています。天之真名井は、京都七名水の一つに数えられる清らかな水です。古来より、天皇の産湯としても使われているそう。絵馬をかけ、ご神水を飲んで手を合わせると、願い事がひとつだけ叶うという言い伝えもあります。
天之真名井の上でにっこり微笑むのは、姫みくじです。姫みくじは、社務所でいただけます。
この投稿をInstagramで見る
願いを書いて天之真名井に奉納するもよし、大事に持ち帰ってお守りにするもよし。姫みくじの柔和なお顔と華やかな姿に、心も晴れやかになりそうですね。
日常を忘れて平安の雅を満喫しよう
市比賣神社のひいなまつりは、忙しい日常の中に置き忘れてしまいそうな優雅さを取り戻せるお祭りです。ひいなまつりの頃には、本殿前の桃の花が満開になり、境内中が甘く柔らかな香りに包まれます。
平安の雅に身も心も染まる市比賣神社のひいなまつり。ゆったりと満喫できる日が、早く戻ってくるのが待ち遠しいですね。