すっかり秋めいてきた今日このごろ。気付けば11月、酉の市の季節です。
酉の市と言えば、熊手。大きな神社ではたくさんのお店が並び、法被姿の威勢の良い売り手と、買い慣れたお客さんの粋なやり取りが見られますが・・・。
「いっぱいありすぎて、どれを買ったらいいか分からない」
これがたくさんの方の悩みではないでしょうか。かく言う私も、昨年の酉の市ではあまりの熊手の数に圧倒され、小さな熊手を小さな声で買ってきた一人。そんな熊手ビギナーの私が、埼玉県さいたま市の熊手職人「西藤」さんの工房にお邪魔してきました。
目次
1.年末の風物詩。熊手とは?
そもそも熊手とは、落ち葉をかき集める掃除道具。「運をかき込む」「金銀をかき集める」として、次第に縁起物へと変わっていきました。ベースとなる熊手に、七福神や大判小判、松竹梅など華やかな装飾がなされています。
日本全国で年の瀬に開かれる酉の市では、翌年の商売繁盛を願ってたくさんの熊手が販売されます。
2.創業明治四年!埼玉県さいたま市の老舗熊手職人「西藤」さん
お話しを伺ったのは、さいたま市の熊手職人「西藤」さん、三代目当主である西野豊さん。
さいたま市内に熊手屋さんは4件あり、その苗字はみな西野さん。西藤さんの「藤」は、創業者「藤三郎」さんの名前を取ったものです。
藤三郎さんはもともとは農家。農閑期に神社の依頼でお守りの「かっこめ熊手」を作り始めました。それが次第に縁起熊手も作るようになり、現在は熊手のみを製作しています。
製造と販売を別々の業者さんが行うことが多い熊手業界。そんな中、西藤さんの特徴は、製造~卸~販売までを一貫して手掛けていることです。酉の市でアルバイトの売り子さんを雇う以外は、豊さんを中心に一家で運営しています。
3.色とバランスが命。進化を続ける熊手
様々なパーツが華やかに飾られた熊手。実は、お店ごとに工夫を凝らし、個性の溢れるものなのです。
西藤さんのこだわりは、「色とバランス」。明るい色を効果的に入れ、元気いっぱいに福を呼び寄せるようなにぎやかさがあります。
デザインのアイデアは着物のカタログから得ることが多いそう。熊手は伝統的なものですが、景気を反映し、常に変化を続けています。パーツも人形職人から買ったり、見本市で探したり、街を歩いていても、どんな素材やデザインが使えるか、常にアンテナを張ってるそうです。
刺し色に使われるパーツを見てみると、絵具や胡粉、和紙や布で華やかに仕上げます。
パーツもよく見ると小さなイノベーションの結晶。小判のオーナメントにしても、棒が刺さっている角度が微妙に違ったり、何枚も連なっていたり、針金で向きが変えられたり。こんな工夫で、美しい熊手が出来上がっているのですね!
4.お客様の商売繁盛を!熊手づくりに込めた思い
熊手づくりは何と1月から始まります。1月から5月はパーツづくり。特に五月人形のパーツを使うことが多いので、5月の節句後、人形屋さんが落ち着いたころ、熊手屋さんはパーツ集めで忙しくなるとのこと。
とはいえ、材料になる竹はあまり早く切ってしまうと色が抜けてしまうので、ギリギリまで切ることができません。
パーツが揃い始めたらデザインの開始。設計図はありませんが、大きさと形で幾つもパターンを考え、パーツを刺す位置を決めます。パターンが決まったら、それをいくつも作るという作業に入ります。
熊手職人の願いは、お客様の商売がうまくいき、幸せになること。手作りなので気持ちのブレが出来上がりを左右します。私もちょっとだけ飾りを刺す作業をさせていただきましたが、これが難しい。全然角度が決まらない。うまく刺せない。
ですから、集中力はとても大切。気持ちがめげているとダメで、体も鍛えているそうです。面白いのは、夏作るとどうも涼し気な間の空いた熊手ができてしまうとのこと。でもお客様が買うのは冬なので、温かみのある熊手をいつでも作れるように、鍛錬を重ねているそうなのです。
そんな西藤さんの楽しみややはり、酉の市。年に1回、お客様と会える機会です。お客様の商売がうまくいっているか、元気でいるか、いつも気にかかっているそうです。何年も通ってくれるお客様は、自分の熊手が役に立っているのかな、と嬉しくなるといいます。こんな暖かい気持ちで作られた熊手、絶対ご利益ありそう!
5.必読!熊手選びのポイント ①大きさと形
さて、そんな思いのこもった熊手。せっかくだから、納得したものを買いたいもの。
そこで、熊手選びに使える基本のポイントを伺いました。
まずは、大きさ。爪の長さで、3寸(約9cm)から3尺(90cm)に分かれます。大きさで当然お値段が・・・。と言っても、そもそも30センチを超える大物は普通の家には置けないので、お店や企業の方が買われます。
そして、大まかいって熊手は「青」、「宝船」、「小判山型」の3種類の基本形に分かれると覚えておくと選びやすい(地域などによる違いはあります)。
もっとも一般的な「青」。名前は上についた松の葉の色に由来。西藤さんの「青」は大きな鯛がつくので、とっても色鮮やか。下方付いた1本のしめ縄は、「一本締め」を意味するんですって。
次は「宝船」。帆の色で印象がずいぶん変わります。赤い帆は力強く、
ピンクの帆は優しい印象。ネイルサロンやアパレルのお店に合いそう、なんて勝手な妄想。
そして、「小判山型」は下から3本のしめ縄ががっちり組まれたもの。これは宝船の舳先を意味します。そういわれると、小判も波のように見えてきた。すごい躍動感!
6.必読!熊手選びのポイント ②センターの飾り
大きさと形が決まったら、中心に来るメインのパーツに着目。見た目はもとより、込められた意味があるので、どんな年にしたいのかイメージしながら選ぶといいですね。例えば、
升(「ますます」繁盛を願って)
今年の目玉!ネズミちゃん!干支は大切なテーマです。
大きなパーツが印象を決めるので、来年の運をかけて、縁を感じるような飾りを選びたいですね!
7.酉の市へGO!
熊手は神社の縁起物なので、基本的に神社で買うもの。酉の市での買い物のポイントはこちらを参照。
全国の酉の市で買うことができ、西藤さんに会えるのは浅草酉の市。
前項のポイントを押さえていくと、かなりスムーズに選ぶことができますが、困ったらぜひお店の人に話しかけてOK!
新しい年の幸せを願って飾る熊手。今年は納得するものを選んで、がっちり福を呼び寄せましょう!