ゴールデンウィークやお正月に並ぶ、長期休暇のお盆。
故郷に帰省したり、お墓参りをしたりと日本の慣例行事になっています。
しかしながら、お盆の風習が根付いていても、どのような行事なのか、どのように過ごすものなのか深く理解している方は少ないでしょう。
今回はお盆の文化について、歴史などを交えながら詳しく解説します。
お盆とは
ご両親と離れて暮らしているご家庭では、お盆に合わせて家族で実家に帰省する方も多いはずです。
そのため、お子さんはお盆のことを「おじいちゃん・おばあちゃんの家に行ける日」と思っているかもしれません。
しかし、お盆本来の意味はそうではなく、仏教と日本の文化が融合した由緒ある行事なのです。
お盆は、故人の魂があの世から現世に舞い戻ってくる期間だとされています。
そのため、この期間になると亡くなったご先祖様を迎え入れて、最後にはまたあの世に送り出せるよう、心を込めて供養の行事を行うのです。
元々は仏教にあった教えが原型とされていますが、日本に伝来して浸透していく中で、日本の祖先信仰と結びついて、お盆の文化が育まれました。
では、まずお盆の成り立ちについて歴史や由来から紐解いてみましょう。
お盆とは地獄の蓋が開く「ご先祖さまが帰ってくる一週間」!お坊さんに聴いてみた
お盆の歴史や由来
お盆は、魂を迎え入れて供養する行事、あるいはその行事を行う期間のことです。
正式名称は「盂蘭盆会(うらぼんえ)」と言います。
盂蘭盆の由来は諸説あり、古代のインド語であるサンスクリット語の「ウラバンナ(逆さ吊り)」や、ペルシャ語の「ウラヴァン(霊魂)」に由来すると言われていますが、正確なところは定かではありません。
この盂蘭盆会と関係のある文献の中に「盂蘭盆経(うらぼんきょう)」という仏教経典があり、その内容には餓鬼道に堕ちた母を救う内容が記されています。
神通力に長けたお釈迦様の弟子である目連は、亡くなった母親が地獄で逆さ吊りの刑を受けていることを知りました。
目連は飢えと渇きで苦しむ母を助けたいと願い、食事や飲み物を餓鬼道に送りますが、その行いがよりいっそう母親を苦しめます。
そこで目連はお釈迦様に教えを乞いました。
お釈迦様は「自分の力を母親だけに使うのではなく、飢えに苦しむ人々のために使いなさい。そうすれば母親は三途の苦しみから解かれるだろう」と教えを説きます。
目連は教えに従い供養を行いました。
結果的にその功徳は母の元へ届き、母親は無事往生することができました。
このように、盂蘭盆経にはお釈迦様の教えを説いた内容が残っています。
やがてこのお経が朝廷時代に日本に伝わり、お盆の行事が主に上流階級で催されるようになります。
その後、江戸時代に一般庶民に広まったことで、先祖の恩に感謝してお墓参りや迎え火などをするお盆の行事が普及したそうです。
初盆・新盆について
一般的な名称で知られるお盆には、「初盆(はつぼん)」と「新盆(にいぼん)」の2つの呼び名があります。
誰かが亡くなってから四十九日を過ぎた後に初めてやってくるお盆のことを指します。
故人が無くなってから初めて迎えるお盆ということもあり、家族や親戚、友人などを呼んで念入りに供養するのが特徴的です。
初めてのお盆はどう過ごす?新盆のやり方を覚えて念入りに供養しよう
これら2つの呼び名の違いは地域による使い分けによって生まれたもので、意味や内容は同じです。
西日本では「初盆」、東日本では「新盆」と呼ばれるケースが多いようです。
また、初盆を「ういぼん」、新盆を「あらぼん」「しんぼん」などと読む地域もあります。
お盆はどうやって迎える?
お盆の迎え方は、単にお墓参りをするだけではありません。
仏教宗派によって変わりますが、一般的にはお盆月の朔日(ついたち)から、ご先祖様を迎える準備を始めます。
・お盆当月
お寺への依頼・お墓の掃除・お盆堤灯の組み立てなどを行います。
また、お盆用の盆棚・仏具・ローソク・精霊馬などの用意をします。
この投稿をInstagramで見る
・お盆前
お供え物の準備や盆棚の飾り付けを行います。
・迎え盆
御位牌を仏壇から盆棚へ移動し、家族でお墓参りに行き、玄関先に火を灯したお盆堤灯を置いてご先祖様を迎えます。
お盆中は灯明を絶やさないよう注意が必要です。
・盆中日
家族でお墓参りをして、僧侶に読経してもらいましょう。
その後、親族や故人、生前親しかった友人を招いて会食を行います。
・送り盆
辺りが暗くなったら心を込めて送り火を焚き、ご先祖様を送りましょう。
「お盆の最終日/長崎に代々伝わる精霊流し」レポート記事はこちら
これらに加えて、宗派毎に飾るものや過ごし方も変わります。
・真言宗
「水の子」と呼ばれる、お米や野菜などを多めに用意したものを備えます。
また、「閼伽水(あかみず)」と呼ばれる、穢れを祓うための綺麗なお水も併せてお供えします。
精霊棚にはホオズキを飾ることが多く、ご先祖様が迷わないよう提灯の役割を果たすとされています。
・曹洞宗
曹洞宗では「菰(こも)」と呼ばれるイネ科の植物で編んだ敷物の上にお飾りを並べ置きます。
お香や灯り、水・食べ物・花など曹洞宗は供えるお飾りが多いため、仏壇の周りも広めのスペースが必要です。
お盆の期間中は盆提灯を両脇に灯すのも特徴的です。
・浄土宗
浄土宗ではお飾りにガマの穂・枝豆・ホオズキなどが使われます。
盆棚に逆さに吊るすように飾り付けるのが特徴です。
・浄土真宗
仏壇に特別な飾りをしたり迎え火を焚いたりせず、仏壇やお墓にお参りをするのみのシンプルな迎え方が一般的です。
・日蓮宗
一般的な迎え方をします。日蓮宗の場合は、お焼香が一回なので気を付けましょう。
お盆のユニークな風習・行事5選!その土地ならではのお盆を体験しよう!
お盆は7月と8月のどっち?
一般的に8月の行事というイメージが強いお盆ですが、中には7月にお盆を行う地域もあるようです。
なぜお盆の期間が異なるのでしょうか?詳しく見てみましょう。
「旧暦」から「新暦」への移り変わり
お盆が庶民の行事として広まった江戸時代には、旧暦の7月14日~7月15日にお盆が行われていました。
この旧暦とは、天保暦(てんぽうれき)・陰暦・太陰暦のことです。
その後、明治時代に行われた改暦によって、新暦である西暦が用いられるようになりました。
この改暦よって、旧暦と西暦の間にズレが生じたのです。
旧暦の7月14日~7月15日は、現在の新暦で8月14日~8月15日の時期に重なり、ちょうど一月分の差が開いています。
現代では7月13日~7月16日の盆を新盆(新のお盆)、8月13日~8月16日の盆を旧盆(旧のお盆)と呼んでいます。
地域によって時期が異なる
全国的には、8月に行う旧盆が主流です。
しかし、一部の地域を除く東京や金沢の旧市街地などの都市部では、お盆の行事を7月に行う新盆が採用されています。
盆踊りや花火大会など、お盆に関わるお祭りは8月に行われるケースが多く、その時期に会社や学校が休みになることも多いです。一方、沖縄や奄美諸島では旧盆をベースにして、少しずつ日にちがズレるようです。
夏の風物詩「花火」はお盆が由来?家族一緒に手持ち花火で先祖を偲ぼう
なんでお盆に会社や学校が休みになるの?
宗教を問わず、お盆休みは会社や学校が休みになる日として定着しています。
「お盆休みは祝日だから休みになる」と思っている方も意外と多いかもしれません。
しかし、お盆は祝日として定められているのでしょうか。
ここからは、お盆休みができた経緯や祝日の真相について解説します。
「薮入り」や「閻魔の賽日」といった日本文化が慣習化した
お盆休みの起源には「薮入り(やぶいり)」という風習があるそうです。
藪入りとは、かつて商家などに住み込みで奉仕をしていた奉仕人や嫁いだ嫁が実家に帰ることのできた休日のことです。
また、仏教では藪入りの時期には地獄でも休暇があるとして、その日を「閻魔の賽日(えんまのさいじつ)」や「地獄の賽日」と呼んでいます。
この薮入の風習が習慣化して、現在のお盆休みになったとされています。
金融機関や行政機関は、通常通りの営業をしていますが、一般企業や一部の病院、学校などはお盆休みになるケースが多いようです。
薮入り…おはよう
薮入り(やぶいり)は、奉公人の休日。
商家などに住み込んで奉公していた丁稚や女中などの奉公人が、主家から休暇をもらい実家へ帰る事のできた日。
お盆の休暇7月16日は「後(のち)の薮入り」という。
奉公人達は毎年1月16日と7月16日の2日しか休みがないのが一般的だったとか。 pic.twitter.com/h2dmCUkPKd— spkf (@spkf1) January 15, 2020
国民的な休暇としての側面がある
お盆の時期に会社や学校などが休みになることは一般的に周知されており、今や国民の休暇という側面もあります。そのため、お盆=祝日という認識を持つ方も多いかもしれません。
祝日は「祝日法」という法律で定められたものですが、お盆休みは祝日法として定められていません。
そのため、お盆休みは祝日ではありません。
お盆の時期は新盆を採用する地域と旧盆を採用する地域で異なることもあり、地域によっては不公平が生じる恐れがあるため、正式に制定されていない側面もあるようです。
さらに、お盆は仏教に関わる行事であることから、祝日にすることで「政教分離」という憲法の規定に反する可能性もあります。そのため、国民的な休暇であっても祝日として定められない事情があるようです。
まとめ
お盆休みはご先祖様を迎え入れる大切な儀式です。
亡くなった後に地獄で苦しむ母を、供養して助ける言い伝えもあるように、お盆にしっかりと供養を行えばご先祖様は安らかに往生できるはずです。
故人を忍んで、ご先祖様を迎える準備から送るまで感謝の気持ちを込めて行いましょう。