(イラスト:大東忍)
普段は現代美術家として活動しており、日本人性や盆踊り等の祭りのような民俗、またそれらに起因する、人の持つ原風景について関心を持ち作品を発表、一方で盆踊り愛好家でもある筆者の視点から、日本全国の盆踊りやお祭りの様子を報告・考察していきます。
今回は、コロナ禍にオンラインで開催された盆踊りを実際に体験してみて感じたことをお届けします。
目次
実はオンラインで各地の盆踊りが開催されていた
あらゆる祭り、盆踊りは2020、21年とコロナの影響により中止された。毎日通勤で通う道や、たまに見かける公園、町外れの海や家々を見下ろす山など、そこらじゅうが2年前の景色から更新されず、”祭りの跡”となってしまっている。そんな場所を通ったり、日に焼けた祭りのポスターを見かけたりする度に、今年こそは再開するかな、とささやかに思う。
しかし、実は祭りは、何もかも無くなった訳ではなかった。ただし実際に祭りを見た、参加したという人は多くはないだろう。それもそのはず、祭りはインターネットを通じて、オンラインで開催されていた。YouTube等の媒体を利用し配信された多くの祭りは、誰でも見れる(=誰でも参加できる)、開かれた祭りだ。
オンライン開催された祭りには、集客はせずにひっそり執り行ったものを記録映像として配信したものもあれば、リアルタイムの配信イベントとして、ゲストやプログラム、演出まで企画されたもの、またオンラインならではの「人と人の繋がり方」を工夫したものなど形式は様々だ。
今回はその中でもオンライン開催においてわたしが興味深く感じている盆踊りを取り上げる。なお、これから挙げるオンライン盆踊りは今でもYouTube上で視聴することができる。ぜひ気軽に盆踊りに参加するような気持ちで視聴してみて欲しい。
2年目も見応えあり、オンライン郡上おどり
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岐阜県郡上市で開催される「郡上おどり」の特徴といえば、連日にわたって行われる徹夜おどりだ。残念ながらコロナ禍以降は現地での盆踊り大会が中止になっているが、コロナ1年目の2020年の夏から盆踊りのオンライン配信を開始している。元々YouTube上には郡上おどりの公式チャンネルや、郡上の情報発信をしているチャンネルがあり、郡上おどりの記録映像や踊り方の解説動画などがアップされている。今回は公式チャンネルで配信された。
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実際の郡上おどりは一カ月にわたり毎日のように開催されていたが、オンラインでは全9日間、各日1時間程度配信された(2021年)。会場である室内に郡上おどりのシンボルである切子灯篭が吊るされ、5名程の踊り手と10名程の演奏者が並ぶ。配信はリアルタイムでの生配信だ。これまでの現地での雑踏の中で囃子と下駄の音が混じり合う高揚した一体感は味わえないが、同時刻に画面の向こうの郡上でおどりが行われているという事実が感慨深かった。また、次に挙げる「西馬音内盆踊り」にも言えるが、囃子や演奏を鑑賞するのには配信の整理された環境はもってこいだ。
2020年には、野外で関係者のみで踊っている映像が配信されていた。人気のない郡上の街の一角でぽつんと踊っている姿は、画面のこちら側で今以上に緊張感があり外出も自粛して強張っていた当時のわたしに勇気をくれた。残念ながらその映像は今はなくなっていたが、記憶に残る配信だった。
▼オンライン配信のアーカイブはこちら(YouTubeのサイトに飛びます)
https://www.youtube.com/watch?v=1axqmoTMjjA
映像的な美しさまで、西馬音内盆踊り
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西馬音内盆踊りは郡上おどりと阿波おどりに並ぶ日本三大盆踊りに数えられる秋田県の盆踊りで、亡霊に扮して頭巾や編み笠で顔を隠した、優美な所作の踊り子が見どころだ。力強い男声の「キタカサッサー!」という心地よい合いの手や、踊り子のすり足の音が相まって美しい。多くの盆踊りと異なり、西馬音内は見る盆踊りだ。現地には観覧席も用意される。
他の祭りや盆踊りと違わず、西馬音内盆踊りもコロナ禍の2年は配信での開催となったが、有料の観覧席と負けず劣らずのいいアングルから盆踊りを鑑賞できるというメリットも、オンライン配信には。実際、西馬音内盆踊りの配信は「特等席」とでも言いたいくらい、映像自体に見応えがあった。あらゆる角度から撮影された映像で、踊り子の寄りも引きも楽しめる。櫓(やぐら)の中の囃子の仕草までもよく見ることができ、無料なのが申し訳ないくらいだ。これは配信映像ならではの特権だろう。薄暗い空間を照らす暖色の灯りが世界観を更に引き立てる。魅せ方の妙を心得ている西馬音内盆踊りは配信でもその力を発揮していた。
▼オンライン配信のアーカイブはこちら
現代音頭作曲家、山中カメラ氏の開催するオンライン盆踊り
これまでに挙げた盆踊りは、元々開催されている伝統的な盆踊りのオンラインバージョンだったが、山中カメラ氏が開催したのは新しい、オンライン配信のための盆踊り「〈WITHOUT-CORONA-ONDO アバター紙人形 大ボンダンス大会 2021〉」だ。
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山中カメラ氏は現代音頭作曲家として活動しており、「作詞、作曲、編曲、演奏、振り付け、提灯、会場作りなどの全てを地域の人々と共に創り上げ、さまざまな人々を巻き込んだオリジナルの盆踊り大会を開催する活動を精力的に行っている」(ホームページより抜粋)。そんな彼が作詞作曲した生演奏される音頭に合わせて、事前に一般の人から募集した”アバター紙人形”を画面の中で踊らせるという試みだ。アバター紙人形は、ハガキに印刷された”トントン相撲”の人形を模した絵型の中を参加者が自由に彩色したもの。配信画面の中では、密集した紙人形が台座を叩かれて、踊るというよりもカタカタと”震えて”いるように見える。自身の化身であるアバターが他者(隣り合うアバター)とせめぎ合いながら震える。ときに固まり、倒れる。まるで踊らずには居られない人間の性、そしてこの現状に震えながらもあがく様を見ているかのようだった。
そして音頭は「WITHOUT-CORONA-ONDO」(作曲:山中カメラ)。コロナの影響や身近な世界の変化が歌詞で語られる。重々しくなく、メロウな曲調(コロナ抜き音階<567=ソラシ>というコンセプトの元、作曲されている)で、永遠と聴いていたくなる。何十回も繰り返されるサビの「コロナの無い世界で、コロナが有る世界で」という印象的な歌詞からは、コロナによってただ行動を制限するのではなく、現実を見つめながら受け入れ、踊って歌って、行動することや考えることを続けていくといった眼差しを感じる。
山中カメラ氏は前年の2020年にもオンライン盆踊りを開催している。こちらも必見だ。
▼2021年配信のアーカイブはこちら
▼2020年配信のアーカイブはこちら
中止の決断、再開の壁
これからの発展への期待もあるオンライン盆踊りだが、何年も祭りが中止になることで懸念される点は多い。日本の多くの市町村は過疎の一途を辿っている。1896団体の自治体の内、人口が増えたのはわずか297団体だ(「住宅基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(2021円1月1日現在)(総務省)」より)。それにより、祭りの継承者は年々減少している。実際に祭りを目にすることで、体感することで継承されてきた祭りが、その機会を1年、また2年と失うのはどういうことか。また、年ごとに責任者が立てられて翌年には新しい責任者に祭りの知恵を引き継ぐ方法をとっている地域もある。時間が立つ程責任者の負担は大きくなるだろう。
この先も中止が続いた場合、継承の壁が高くなることは勿論、使われてこそ生きる道具や衣装の手入れもおろそかになり、老朽化することだって考えられる。祭りの再開は一刻を争う。
オンライン盆踊りの可能性
伝統的な盆踊りが新しい展開を見せたという意味では、この2年は貴重だった。映像化することによって、世界観を演出できたり、技術的な部分を繰り返し見ることができたりと、現地で参加するのとは一味違う楽しみ方ができる。何より、主催者側が形は違えど祭りを実行していること、それが記録に残ることで継承の支えにもなるだろう。
また、現地に行けないときですらも気軽に参加できるという面は、誰でもウェルカムな輪を持つ盆踊りらしい展開にも思える。盆踊りが無事開催されても、オンライン配信が行われたら嬉しい。
今回紹介した以外にも配信された盆踊りは多数ある。春の気配はまだ見えないが、オンライン盆踊りは次の夏までの空白の時間を少し埋めてくれるかもしれない。今後のオンライン盆踊りの発展と、いつも通りの盆踊りの再開を待ち望む。