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10の山車が勇壮な「のの字廻し」を披露! 佐原の大祭夏祭りレポート

更新日:2022/9/30 小沼 理
10の山車が勇壮な「のの字廻し」を披露! 佐原の大祭夏祭りレポート

2022年7月15日から17日の3日間、千葉県香取市佐原で「佐原の大祭」夏祭りが3年ぶりに開催されました。国の重要無形民俗文化財やユネスコ無形文化遺産にも登録されているこのお祭りは、300年受け継がれてきた佐原の大切な伝統文化。「江戸優り」と謳われた歴史風情ある町並みを舞台に、高さ数メートルもの山車を曳き廻しました。ここでは、感染症対策なども講じながら行われた2日目の様子をレポートします。

関東三大山車祭りの一つに数えられる佐原の大祭は、7月に行われる八坂神社祇園祭を「夏祭り」、10月に行われる諏訪神社大祭を「秋祭り」としています。佐原は市街地を流れる小野川の東側を本宿、西側を新宿と呼び、今回の夏祭りには本宿の住民が参加。各町自慢の山車10台が乱曳き(ルートを決めて各々の山車が曳き廻しを行うこと)を行いました。

夏祭りは疫病を防ぐための神事で、例年は神の御霊を移した神輿が町内を巡行します。もともと山車はこの神輿に付き従う存在でしたが、時代とともに山車だけで独立するようになっていきました。この歴史から、町のある人は「神輿あっての山車祭り。神輿こそが町の精神的な支柱です」と強調します。今年は感染症対策から神輿の町内巡行は見送られましたが、八坂神社の本殿には金色に光る神輿が飾られていました。

伊弉那岐尊(いざなぎのみこと)の大人形

江戸の面影が残る小野川沿いを歩いていると、前方に巨大な山車が見えてきました。飾り物に伊弉那岐尊(いざなぎのみこと)の大人形を乗せた、田宿の山車です。今は次の運行に向けて休憩中とのことで、お揃いの衣装にねじり鉢巻、お揃いのマスクをつけた人たちが楽しそうに談笑していました。

等間隔に巻かれた赤テープ

時間になると、それぞれが自分の持ち場につきます。「下座」と呼ばれる佐原囃子の演奏者は山車に乗り、その周りを曳き廻しを受け持つ「若衆」の男たちが囲みます。前方で綱を引くのは、子どもと女性たち。白い綱には、赤いテープが等間隔に巻かれていました。これは社会的距離を保つための田宿独自の感染症対策。いつもと違う状況下での祭りを無事に成功させるため、参加者もさまざまな工夫を行っています。

山車の方向転換

下座が「松飾り」の音色を奏でると、山車が動き出しました。川沿いを行く姿は華やかで、観光客も川の向こうからカメラを構えます。掛け声とともにゆっくり進んだ山車は、そのまま細い路地へ。重厚な山車の方向転換は大変な作業で、男たちが力を振り絞る姿は圧巻です。無事に曲がり切ると、見守っていた観客から拍手が起こりました。

荒久の山車/ご祝儀を渡した料理店の人も

続いて、同じ道を進んできたのは荒久の山車。2018年に新造した新しい山車に、1920年造と伝わる経津主命(ふつぬしのみこと)の飾り物を乗せています。賑やかに進んでいたその時、拍子木の音が鳴り響くと山車が止まり、お囃子にあわせて踊り始めました。これはご祝儀をいただいた時にその家の前や、見物客が多い時に披露されるもの。大人から子どもまでが揃い、手の動きを中心に魅せる軽快な手踊りです。ご祝儀を渡した料理店の人も軒先に出て、笑顔で一緒に手を動かしていました。

寺宿の山車(坂田金時と山姥)

川沿いから場所を移すと、聞き覚えのあるメロディが遠くから響いてきます。音のほうへ歩いてみると、寺宿の山車が勝徳寺へ向かうところでした。寺宿の飾り物は、坂田の金時と山姥。熊にまたがり斧をかざす金時の姿を見て、お囃子が「金太郎」の童謡だと気づきました。このように、佐原囃子では童謡や歌謡曲をアレンジして演奏することもあるそうです。

寺宿の山車(坂田金時と山姥)ののじ廻し

勝徳寺に到着した寺宿は、拍子木を打ち鳴らすとその場で山車を回転させました。これこそ、佐原の大祭の目玉「のの字廻し」。重さ3〜4トン、高さ7メートルにもなる山車を、左前の車輪を軸としながら「の」の字を描くように回転させるものです。ゴリゴリゴリ、と地響きのような音とともに回転する姿は迫力満点。回る山車の上で、大人形の金時と山姥はまるで命が宿ったかのようでした。

同じ頃、八坂神社の前には下仲町や浜宿などいくつかの山車が集まってきていました。下仲町の奏でるお囃子は、ここまでに聞いたものと比べるとゆったりとした曲調です。これは「段物」と呼ばれ、佐原囃子の真髄とされるもっとも格調高いお囃子。能や歌舞伎の影響を受けた佐原独特のものであり、山車が神社の前など特別な場所を通る時に演奏されます。

下仲町の山車(菅原道真)

下仲町の山車は1822年造で、古文書によれば佐原現存最古。飾り物は菅原道真で、山車が進むと手にした桜が静かに揺れます。幽玄な雰囲気とは対照的に、若衆は血気盛ん。首にかけた手拭いで汗をぬぐい、山車を曳く腕に力を込めます。

浜宿の山車(武甕槌命(たけみかづちのみこと)

浜宿も負けてはいません。「わっしょい!わっしょい!」と威勢のいい掛け声とともに八坂神社へと山車を曳きます。神社の前に着くと、大迫力の「のの字廻し」を披露。飾り物の武甕槌命(たけみかづちのみこと)の胸元に飾られた大きな鏡が、回転とともにきらりと光ります。大地を削るような車輪の響き、風雅なお囃子の音色、全身全霊で曳き廻す若衆の太い掛け声。3回転させると、観客から大きな拍手が起こりました。

山村会館前の交差点。

のの字廻しは町内のいくつかの場所で行われますが、メインスポットと言えるのが山村会館前の交差点。出店が立ち並び、休憩広場があるため観客が多く、山車の担い手にとっても気合が入る場所でしょう。ここでは、暖かい声援や拍手だけでなく「びしっとやれー!」と怒声が飛ぶことも。厳しい声はそれだけ観客も真剣な証。固唾を飲んで見守ってしまう緊張感があるからこそ、思わず声を荒げてしまうのかもしれません。

神武天皇の飾り物を乗せた船戸。(ののじ廻し)

見事なのの字廻しを披露したのは、神武天皇の飾り物を乗せた船戸。若い男性が軸の位置を決めると、巨大な山車がゆっくりと回転しはじめます。間近で見ると、担い手の男たちは誰もが真剣な表情です。若衆は歯を食いしばり、下座は真剣な表情で演奏に集中する。山車の上に乗った青年は緊張した面持ちで下の様子を見守り、女性と子どもたちは扇子を仰いで応援する–。「お祭りを通して町内の一体感が育まれる」という、佐原の人の言葉の意味を実感する光景でした。

ののじ廻し後のアスファルト


のの字廻しのあとにアスファルトを見てみると、そこには痕跡がくっきり残っていました。軸の位置はくぼみ、木製の車輪が削れた跡が円を描いています。この円が正円に近いほど、のの字廻しが上手だったと言えるのだそう。見事なまるいものからちょっと歪んだものまで、痕跡を一つ、また一つと刻みながら祭りは続きます。

八日市場の山車(鯉/街中)

町の中心地だけでなく、民家が立ち並ぶ路地も山車の曳き廻しの舞台。細い路地の向こうから姿を現したのは、八日市場の山車です。飾り物は、麦わらを使い町内全員が協力して作る鯉。巨体を揺らし、口をぱくぱく動かしながらこちらへと向かってきます。

鯉の飾り物は他の山車に比べて尾が長いため、角を曲がるのは特に大変です。難しいカーブは、梃子棒役の腕の見せどころ。梃子棒とは長さ4メートル、重さ20キロほどもある2本の丸太のことで、これを車輪の間に差し込んで舵をとったり、速度を調整したりします。「てこ取り10年」とも言われ、自在に動かすには修練が必要不可欠。曳き廻しの花形となっています。

八日市場の山車(梃子棒役)

「もっと左!」と声が飛ぶ中、梃子棒役がダイナミックに、しかし繊細な技術で舵をとります。数分かけてどうにか曲がり切ると、男たちの表情が緩み、お揃いのマスクの上からでもわかるほど笑顔になりました。ここから先は、しばらくまっすぐで平坦な道。難所を切り抜けた安心感から、「わっしょい! わっしょい!」の掛け声も明るく響きます。

ビニールをかけた山車

そうしていると、ぽつぽつと雨が降り出しました。大切な山車と飾り物を保護するため、素早くビニールがかけられます。飾り物の大人形は表情こそ見えなくなったものの、半透明のヴェールに覆われた姿はどこか神秘的。山車を保護したら、人々は雨に濡れながら曳き廻しを続けます。

上仲町、八日市場、船戸(合同手踊り)

次第に雨が強まる中、通りに上仲町、八日市場、船戸、3町の山車が並びました。すれ違うための交渉が難航しているのか? 様子をうかがっていると、はじまったのは3町合同での手踊りです。町ごとに異なる衣装、町ごとに個性のある踊りで、一つの空間を彩っていきます。何層にも重なったお囃子の音色と、雨など気にせず踊る姿は、この日のハイライトのひとつでした。

合同の踊りが終わり、雨はますます激しさを増していきます。このまま夜まで降り続けるのだろうか……多くの人がそう思ったでしょうが、しばらくすると雨が弱まり、青空が見えてきました。それぞれの山車は今のうちにと、ビニールを外し夜の支度をはじめます。暗闇で山車を彩る、提灯と行燈の準備です。

山車(提灯と行燈)(仁井宿の鷹)

雨が降った時にさっと保護できるよう、日中は飾り物を半分しまった状態で運行していることもありました。雨雲が去った今は、どの山車も飾り物をしっかりと上げています。仁井宿の鷹の飾り物も堂々と胸を上げ、その姿を夕暮れの小野川に映していました。鷹の飾り物は、稲わらを使って町内全員が協力して制作したもの。わら造りの飾り物は八日市場の鯉と仁井宿の鷹のみで、夏祭りでしか見られません。

上仲町(太田道灌)

紫色の夕暮れに包まれ、山村会館前の「のの字廻し」スポットもこれまでと違う雰囲気に。ここでは、上仲町と本川岸がのの字廻しを続けて披露しました。最初が、精悍な太田道灌の飾り物を乗せた上仲町。提灯と行燈に照らされて廻る姿が夕空に映えます。祭りも終わりに近づいていますが、山車の動きには依然としてキレがあり、若衆の疲れをまったく感じさせません。軸のぶれない素晴らしい回転を終えると、大きな拍手が上がりました。アスファルトにはきっと見事な円が描かれているはずです。

本川岸。天鈿女命(あめのうずめのみこと)

続いて入ってきたのが本河岸。天鈿女命(あめのうずめのみこと)、通称おかめさんの飾り物を掲げた山車です。この飾り物は、佐原の山車では現存最古。そして寺宿の山姥を除けば唯一の女神像です。のの字廻しの姿は、神楽殿で舞を舞っているかのような優美さ。金色の髪飾りや鈴が揺れ、しゃらしゃらと鳴る音が頭上から降り注ぎます。天鈿女命が舞を終えると、一筋の風が吹き抜けました。その涼しさに、夜が近づいていることを感じます。

山車が集まり行列をなす光景

日が暮れると、10の山車は自然と小野川沿いへ。町じゅうに散っていた山車が集まり行列をなす光景を、大勢の観光客が思い思いに眺めていました。あちこちで奏でられるお囃子はそれぞれ別の曲のはずですが、混ざり合い一つの大きな音楽のよう。賑わいの中、行燈を灯した山車はゆっくりと進み、その後ろ、そのまた後ろにも山車が続いていきます。連なる山車が川面に反射した光景は、夢のように幻想的でした。

感染症対策など平時と異なる取り組みが求められる中、2日目は無事にクライマックスを迎えました。300年の伝統のバトンが、3日目、そして秋祭りへと渡されます。

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祭り開催情報

名称 佐原の大祭夏祭り(本宿祇園祭)
開催場所 千葉県香取市佐原イ
八坂神社周辺(佐原本宿地区)
開催日 2022年7月15日(金)、2022年7月16日(土)、2022年7月17日(日)
10:00~22:00 ※7月10日以降の金曜・土曜・日曜日の3日間
アクセス JR成田線佐原駅から徒歩15分(八坂神社)
関連サイト http://www.city.katori.lg.jp/sightsee...
https://www.mapple.net/spot/12010251/
この記事を書いた人
オマツリジャパン オフィシャルライター
1992年富山県出身、東京都在住。ライター。本の著者への執筆などを中心に行う。

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