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郷土誌が好きすぎて本棚がパンク寸前の男が熱烈にプレゼン! 知られざる「郷土誌」のセカイ

更新日:2024/3/8 小野 和哉
郷土誌が好きすぎて本棚がパンク寸前の男が熱烈にプレゼン! 知られざる「郷土誌」のセカイ

地域の歴史や植生、民俗など、ありとあらゆる情報を集約した「村史」「町史」などの、いわゆる郷土誌をみなさんご存知でしょうか? おそらく普通に生きていたら一生目にすることのないであろう「郷土誌」の魅力を、お祭りライターの小野が(半ば一方的に)ご紹介します。

地域の情報をぎゅっと詰め込んだ本、それが郷土誌!

小野
郷土誌マニア小野:
郷土誌、最高ぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!!

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
いや、勢いで押し通そうとしても無理なのよ。

小野
郷土誌マニア小野:
(瞳孔をかっ開きながら)郷土誌、最高ぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!!

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
説明して、最初からイチから説明して。

小野
郷土誌マニア小野:
郷土誌-〘名〙 郷土の地理、歴史、社会、生活伝承・民間伝承の記録や研究を記した書物。(出典:精選版 日本国語大辞典)

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
いきなりbotみたいな回答しないで。

小野
郷土誌マニア小野:
いやね、冒頭にも書いたんだけど、普通に生活を送っている人なら「郷土誌」に出合うことって絶対ないと思うんだ。たぶん真っ当に説明しても振り向いてもらえないと思ったので、もう通り魔みたいな感じで紹介させてもらいました。

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
全然知らないんだけど、郷土誌ってどんな本なの?

小野
郷土誌マニア小野:
これだよ。

 

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
絶対、読みたくない!

小野
郷土誌マニア小野:
やっぱ、そういう反応になっちゃうよね。

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
なんなのこれ。鈍器? お祭りとなんの関係があるの?

小野
郷土誌マニア小野:
あのね、これは各自治体の教育委員会などから出版されている郷土誌というもので、その本が扱う地域の行政単位によって県史・市史・町史・村史と名前が変わってくるよ。これがね、その地域に関するありとあらゆる情報が詰まっていて、お祭りの歴史的背景とか民俗学的な側面を知るのにもってこいなんだ!

実は読み物としても楽しめるコンテンツが満載なのだ

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
どんな情報が載ってるのよ?

小野
郷土誌マニア小野:
本当に扱っている情報は多彩で、地質学的な特徴や、動植物のありさま、縄文時代から現代までの歴史、衣食住や年中行事に関わる民俗、産業などなど、その地域のすべてをギューっと凝縮した本なんだ。

岐阜県揖斐郡徳山村の郷土誌である『徳山村史』の目次

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
Wikipediaみたいなことかな?

小野
郷土誌マニア小野:
ん〜。まっ、ざっくりそんな感じ! ちなみに上で画像で紹介している『徳山村史』は全1冊だけど、自治体によっては「通史編」「民俗編」「資料編」みたいに、分冊されていることもあるよ。例えば、東京都八王子市の『新八王子史』は全14冊。

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
コンプリート、絶対無理でしょ。

小野
郷土誌マニア小野:
もちろん、全部読まなくてもいいよ。自分が気になる箇所だけチェックすればOK。例えばお祭りだったら「民俗」とか「習俗」の項目だよね。僕はお祭りの中でも「盆踊り」が好きなので、郷土芸能、民俗芸能、民謡とかのページをよく見てます。

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
なるほど。例えばある地域のお祭りについて調べたいと思ったら、その地域の郷土誌の中から民俗芸能の項目を開いてみるというわけね。

小野
郷土誌マニア小野:
そうそう。もちろん、地域のお祭りをすべて網羅してるわけでもないし、郷土誌に書いてあることでそのお祭りのことを100%理解することはできないわけだけど、ざっと大まかな概要を調べるだけなら、郷土誌はめちゃくちゃいい資料だと思うんだよね。

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
ほうほう。でも、今のところ全然読んでみたいと思わないんだけど。そもそも自分の住んでいるところであれ、別の場所であれ、地域の歴史とか全然興味ないし。

小野
郷土誌マニア小野:
OK! それでも大丈夫。実は郷土誌にはね、あまり小難しいことを考えずに純粋に読み物として楽しめるコンテンツもあるんだ。ここからは、郷土誌ビギナーの皆さんに、郷土誌を開いたらここが読んでおけ!というポイントを紹介するよ。

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
信じて大丈夫?

「郷土誌」とりあえずここを読んどけば間違いないランキング3

第3位 昔話・伝説

(画像;photoAC)

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
昔話って、「まんが日本昔ばなし」みたいなこと?

小野
郷土誌マニア小野:
そうだね! 強いて違いを言うなら、昔話って子どもっぽいとか、古くさいとか、お説教じみてるイメージがあるかもしれないけど、こういう本に記録されているガチの地域の昔話って、たまに意味がよくわからない理不尽な話があるから面白いよ!

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
どういうやつ?

小野
郷土誌マニア小野:
例えば、さっき紹介した『徳山村史』に載ってるやつだとね。

「まァよいかァ」
塚(筆者注:地名)の大石という所で、梅雨時に、ある親子が釣りをしていた。田んぼ仕事にきりをつけた夕方であった。その日はどうしたものか、ことの外よく釣れる。二人が、それで有頂天になって釣っているその時であった。突如、あたりの空気がわれるような大声で、
「まあ、よいかァッ!」
と呼ばわる者がおった。いわずと知れたその淵の主である。二人はおどろきあわてて、びくいっぱいの魚もそこに放り出したまま、村へ逃げ帰り、父親はそれがもとで病の床につき、あの世へ行ってしまった、という。

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
どういうこと?

小野
郷土誌マニア小野:
村の神聖な場所に立ち入らないようにという警告か、雨で増水している川には近づくなという警鐘か、そんなところかなと思うけど、「まあ、よいかァッ!」という叫び声がよくわからなくて面白いよね。確かにめっちゃビックリしそうだけど(笑)

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
しかもイエローカードとかじゃなくて、一発で「死」というペナルティの厳しさ。

小野
郷土誌マニア小野:
「塚の大石」という実際の地名が登場するのも生々しくていいでしょ? 自分にとって馴染みのある地名が出てくる昔話だったら、余計に面白いと思うんだよね。

第2位 方言

(画像;photoAC)

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
方言って、関西弁とか東北弁とかそういうやつ?

小野
郷土誌マニア小野:
そうそう。郷土誌には必ず「方言」に関するページがあって、国語辞典みたいにこと細かに標準語との対応表が載ってるよ。中には方言の会話文がまるまる掲載されている本もあってこれが面白い! ここで問題。次の会話はどこの方言かわかるかな?

女一 あのニャ、この夏白山へ参らンコ。越中で立山、加賀では白山、駿河の富士ッテ、ユーチョルケット、ヤッパ、白山、一番よいニャ。汗流シても、そンだけのこター、アッチャロニャ。
女二 ナーモ、シャーなこター、オイた。コッゾも行かなンダケット、シャーなノクトイこター、ダラクソて。ほかに、シェンならンこター、デカイコト、あっサカイニャ。
女一 コナイダ中、雨バッカ降っチョッて、 シャンナッチャロッて、○○○のイネさまも、くどいてどざったケット。シャにか、持ちなおシテ、この秋もよいニナッチャロニャ。
女二 ホンノに雨パッカ続いて嫌になったニャ。作りもクスリやコヤシだけで は、シャーにも、キャーにも、ならンッテ、家のジーサマも、ユーてどざ ったケット。
女一  いままで、ヨサリ、ヨガメに、クワレてコワかったケット、クスリのおかげ で、ヨガメどころか、ビャーメやノンメまでも、オランヨになったニャ。
女二 クスリチュモンナテンポなモンで、ナンかも、シガシて シモ。何でも、よいことに、ワーリコタ、つきモンシャサカイ、片一方ァがまんセンナランニャ。

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
語尾の「ニャ」がかわいいニャ。でも意味はさっぱりわからないニャ。

小野
郷土誌マニア小野:
これは『白峰村史 下巻』という本に載ってる石川県能美郡白峰村(現・白山市)の女性同士の会話だよ。名峰・白山の話から、天気の話題に移って、農薬や殺虫剤のおかげで害虫はいなくなったけど、良いことなのか悪いことなのかねー、みたいなことを話してる。

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
「シャーにも、キャーにも」とか、普通に日常で使いたく言い回しだな。

小野
郷土誌マニア小野:
そうそう。そういう面白いフレーズを探してみるのも楽しいし、意外な発見もあるし。例えば、東京といえど標準語一辺倒ではなくて、多摩の方にいくと今の若者言葉に通じる方言も多いんだよ。「うざい(うざったい)」とか。

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
うざいってそうなんだ。

小野
郷土誌マニア小野:
「ゾクゾクする」みたいなニュアンスで使われる「うざうざ」という言葉があって(『東京方言録』)、それが転じたものという説がある。よかったら東京の郷土誌
も読んでみて!

第一位 まじない

(画像;photoAC)

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
呪(まじな)い? こええよ。

小野
郷土誌マニア小野:
大丈夫! まじないって、子どもの頃に怪我した時に、お母さんが「痛いの痛いの飛んでいけー」ってやってくれるやつとか、手のひらに「人」とかいて飲むとか、そういういいものもあるから。

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
ああ、ああいうやつのことね。どんなまじないがあるの?

小野
郷土誌マニア小野:
例えば岐阜県郡上市白鳥町のまじないにはこんなのがあるよ(『白鳥町史 通史編 下巻』)。
・酒に酔った時、箒を枕にするとさめる
・お産の時、猿の百ひろ(腸)で腹をなでるとお産が軽い
・お宮のたまり水をイボにつけるとなおる
・箒を立てると来客が早く帰る
・子どもの夜泣きは善光寺様のぞうりをこさせるとなおる

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
根拠はよくわからないのに、妙に説得力があるのはなんでだろう。

小野
郷土誌マニア小野:
同じ岐阜県の岐阜県武儀郡板取村(現・関市)の郷土誌もまじないが豊富に掲載されていて面白い!(『板取村史』)
・虫歯の痛み止めのまじないは、「あまの川の柳の虫も芽はくうとも葉はくうな。」と三度となえて、三度吹く。これは昔内が谷からヨリ針をする高橋銀次郎がきて伝えたまじない。
・目のかすみをとるまじないは、「中日向生き目の八幡大菩薩、照らす生き目の水鏡、後の世まで曇らずにして去る。」ととなえる。これは高賀のヘボ芳の伝えたまじない。
・ぬか蜂の巣をとるには「八でも九でもかまわまい」と三度となえ、巣よりも大きな丸をかき、二、三日後にとると刺されない。

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
「誰々が伝えた」とまで記録されているのは面白いね。

小野
郷土誌マニア小野:
そうそう。あと「まじない」言葉は、ダジャレになっているのも面白いんだよね。例えばさっき紹介したのだと「葉(歯)はくうな」とか、「八(蜂)でも九でも」とか。

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
おお、言われてみると確かに。

小野
郷土誌マニア小野:
民俗学者・野本寛一氏の『言霊の民俗』という本によると、言葉の中に掛け言葉や比喩によって、直接的な意味を隠すタイプの呪歌(まじない)を「秘匿型」と呼んでいる。これによって呪力を倍増させてるみたいだよ。例えば本の中で「火事近所にある時の呪い」として、次のようなまじない言葉が紹介されているんだけど…….

焼亡(しやうまう)は柿の本まできたれどもあか人なればそこで人丸

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
どういう意味?

小野
郷土誌マニア小野:
この呪歌の中には「柿本人麻呂(人丸)」という人名が詠み込まれているんだけど、「柿本=垣の本」、「人丸=火止まる」、「あか人なれば=赤火となれば」が掛け言葉になっていてるんだ。実際に、柿本人麻呂が防火の神様として崇められている地域もあるらしいよ。

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
うわー、めっちゃ面白い!

小野
郷土誌マニア小野:
ちなみに『言霊の民俗』には他にもいろいろなまじない歌が載っていて、さっき板取村の虫歯の痛み止めのまじないを紹介したけど、静岡県磐田郡水窪町大野の虫歯の痛み止めのまじないがこの本で紹介されていたので比較までに載せてみるね。

虫歯とて九に九を重ねて悩みけり 八(は)のねも十(と)けていたむことなし

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
これは「八」と「歯」をかけてるのか。郷土誌を通じていろいろな地域のまじないを見比べてみるのも面白いかもな。

小野
郷土誌マニア小野:
まさにその通りで、遠く離れた地域になぜか同じようなニュアンスのまじない言葉が伝わっていることもあって、それがミステリアスで面白かったりするんだ!

小野
郷土誌について知りたくもない猫:
なんか、郷土史の楽しみ方がわかってきたかも……

図書館にゴー! いますぐ郷土誌を手に取ろう!

小野
郷土誌について少し興味が出てきた猫:
正直、最初は疑っていたけど、普通に面白いかもしれん、郷土史。

小野
郷土誌マニア小野:
ぜひ読んでみて。ちなみに村史などの郷土誌は、みんなが住んでいる地域の図書館に必ず所蔵されているから、まずは図書館に行ってみるといいよ。だいたい、図書館の奥の方の「地域資料」コーナーとかにあるから。

小野
郷土誌について少し興味が出てきた猫:
ああ、あの薄暗くて近寄り難いコーナーか(※個人の意見です)

小野
郷土誌マニア小野:
そう言われるとそうだね(笑)。でもせっかく面白くて貴重な資料がタダで読める環境があるんだから、利用しない手はないよ。郷土誌を通じて、まずは自分の住んでいる地域の歴史とか民俗を知ってみよう!

小野
郷土誌について少し興味が出てきた猫:
OK、わかった!

実は意外な歴史が潜んでいるかも!?

地元の人ほど、自分の住んでいる地域の魅力について気づかないもの。でも調べてみると、あなたの住んでいる町にも実はすごい歴史が埋もれているかもしれません。図書館にある郷土誌は、あなたの町の歴史に触れるのに、一番身近なアプローチ方法。図書館に寄ったついでなどに、ぜひ触れてみてください!

この記事を書いた人
オマツリジャパン オフィシャルライター
東京在住のライター/編集者。千葉県船橋市出身。2012年に佃島の盆踊りに参加して衝撃を受け、盆踊りにハマる。盆踊りをはじめ、祭り、郷土芸能、民謡、民俗学、地域などに興味があります。共著に『今日も盆踊り』(タバブックス)。
連絡先:[email protected]
Twitter:koi_dou
https://note.com/kazuono

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