山形県天童市は将棋駒の生産量日本一を誇る、将棋の町です。毎年4月下旬の2日間にわたって開催される天童桜まつりにおける「人間将棋」では、大きな将棋盤で人間が駒となって動き、対局者同士のユーモアな言葉のやり取りを行います。
2023年は4月15日・16日に開催され、訪れた15日は「こんなに楽しみ方があったの?」と思うほどに、新しい将棋の魅力を知った1日になりました。大きな盛り上がりを見せた、当日の様子を振り返ります。
人が駒になる!?人間将棋とは
将棋のルーツは、5世紀ごろの北インドで遊ばれていた「チャトランガ」というさいころ将棋といわれています。山形県天童市では、江戸時代後期に天童織田藩が生活に困窮する藩士を助けるため、将棋駒の製作を奨励し、それが将棋駒産業振興のきっかけになったのだそうです。
そのような中、山形県天童市の「人間将棋」は、昭和31年から行われている伝統行事です。約2,000本の桜が咲く舞鶴山を舞台に、甲冑や着物姿に身を包んだ武者や腰元たちが、将棋の駒となり対局が行われます。
過去、2022年の第67回天童人間将棋では、藤井聡太さんが対局者として出演。観覧者600人の応募枠に1万人超の応募が殺到したこともありました。
桜が彩る舞台で続々と繰り広げられる催し
人間将棋の会場は舞鶴山。山を登るように会場に向かいます。
桜の花が彩る景観や、遠くまで見渡せる眺めがとても美しいです。
当日はこのようなスケジュールで行われました。
10:00~10:20 将棋供養祭
10:20~10:40 開会式、実行委員長あいさつ、市長あいさつ、将棋の女王(こまのじょおう/キャンペーンガール)紹介
10:40~10:50 ニャー将棋音頭(天童幼稚園と天童こま八)
10:50~11:05 維新軍楽隊(天童南部小学校)
11:10~12:00 デンソーFA 山形「電王手桜将」×天童代表
12:30~14:30 人間将棋
まず、会場に着いてみると、お坊さんと対局者による将棋駒の供養祭が行われていました。これは「将棋駒を制作する際に失敗した駒や制作の練習に使った駒などを供養する」という意味合いがあるようです。
今回のメインイベント(人間将棋)の対局者である、加藤桃子さんも祈りを捧げています。
開会式が始まりました。
その後、天童幼稚園と天童こま八による、「ニャー将棋音頭」が行われました。
「ニャー将棋♫」という歌に合わせて、お姉さんと子どもたちが元気に踊る姿が印象的でした。
その後は堂々とした太鼓や華麗な笛が鳴り響く、天童南部小学校による、維新軍楽隊の演奏も行われました。明治維新時の戦いで演奏された楽隊の様子を再現したものです。
先ほどとは対照的に、堂々と大人びた子どもたちの姿が印象的でした。
地元の将棋キッズが、AIの棋士に挑む
さあ、いよいよ対局です。
メインイベントの人間将棋の前に、天童代表がAIの棋士に挑みます!
将棋代指しロボット「電王手桜将(おうしょう)」と、日本将棋連盟天童支部の高橋遥輝(はるき)さんと高橋陽向(ひなた)さんが対局。
サポート役を、脇田菜々子女流初段が務めました。高橋兄弟は1分以内で3回、脇田さんからアドバイスの機会を得られるというルールのようです。
高橋さん兄弟と電王手桜将の対局が進んでいきます。
8段の糸谷哲郎さんと中村太地さんがその盤面の解説をされていました。
次の一手は…?と予想して先回りして駒を動かすなど、その頭の回転の速さが伺えました。
この戦いの末、勝ったのは高橋兄弟!
兄の高橋遥輝さんは「小学校3年生の時に、電王手桜将と戦ったが、負けてしまいました。今回、弟とともにリベンジが果たせてよかったです」とお話されていました。
戦国武将の決闘!人間将棋の開幕!
12時半から、いよいよ人間将棋の時間になりました!対局の前に、戦国武将が登場して盛り上げます。
天童高等学校と創学館高等学校の生徒が、駒武者となって姿を現しました。
「勝敗を90分で決すべし」「全ての駒を動かすべきこと」など、人間将棋のルールも発表されました。
いよいよ、メイン対局の開始!
戦国武将の決闘が終わると、いよいよ対局の開始です。今年の4月15日は以下のような配役で行われました。
対局:加藤桃子 女流三段 × 野原未蘭 女流初段
解説:糸谷哲郎 八段、中村太地 八段
聞き手:脇田菜々子 女流初段
人間将棋の見所としては、棋士のユーモア溢れる掛け合いにも注目です。例えば意気込み発表では、殿様言葉でこんな会話が行われました。
加藤さん「昨年お声がけいただいた際は、流行り病を患い来れず無念じゃったが、今年はこうしてここに立てていることを嬉しく思う。後輩の中でも特に親交の深い、野原の未蘭殿との対決、非常に楽しみにしておる。皆のもの、いざ戦おうぞ!いざ出陣じゃ!」
野原さん「雨女の実力発揮と思っておったが、晴れ女の加藤の桃子殿のおかげで、舞鶴山山頂で人間将棋を行えて、嬉しゅうござる。天気は桃子殿の勝利でよいので、将棋は勝ちたいでござる。いざ、尋常に勝負!」
途中から激しい雨が降ってきました。戦局が全く読めない混沌とした対戦です。結果的には、99手(約1時間)で野原未蘭女流初段が勝利!!「雨女」の野原さんが、天候にも味方されて勝ち「えいえいおー!」と勝どきが上がりました。
解説や聞き手の方々は「人間将棋でこんなに全ての駒が動いて、不動駒が解消されるのは本当に珍しいことです。感動しました!」と対局を振り返っていました。
最後に対局者を中心にして、記念撮影が行われました。
終了後、「ニコニコ生放送」の対談も行われていました!オンラインでも、ファンを沸かせるのはさすがですね。
15時前には、人間将棋の初日が終了!
桜が舞い散る中で人間が駒となり動くシュールな様子があり、ユーモア溢れる会話もあり、見どころ満載の人間将棋でした。同時に、新しい将棋の楽しみ方も知ることができた1日になりました。来年以降も舞鶴山を舞台に、どのような戦いが繰り広げられるのか、楽しみですね。