熊本県天草市牛深町。全国に伝わった40もの民謡のルーツ《牛深ハイヤ節》の生まれた場所であり、毎年4月に開かれる【牛深ハイヤ祭り】の3日間は老若男女が踊り歩き、観客も飛び入り参加が可能で街中がハイヤ一色に染め上げられる。
コロナ禍で中止や規模縮小を余儀なくされたが、ついに今年は4年ぶりに完全復活!2023年4月14日(金)・15日(土)・16日(日)の3日間、開催される。
ここからは、そんな《牛深ハイヤ節》と【牛深ハイヤ祭り】のパーフェクトガイドと、2023年の開催情報をお届けする。読めば行きたくなること間違いなし、そして、行ったらより楽しめること請け合いだ。ぜひ参考にして欲しい。
目次
【牛深ハイヤ祭り】は踊り好きが最後にたどり着く聖地!
《牛深ハイヤ節》という民謡をご存知だろうか?その名を聞いたことがない方でも、『阿波おどり』や『佐渡おけさ』の名前は知っていることだろう。
日本を代表するこの2つの有名な踊りの唄は『ハイヤ系民謡』と呼ばれ、同様の民謡が北は北海道から南は鹿児島まで、日本各地に点在している。
この『ハイヤ系民謡』の源流こそ、熊本県天草市発祥の《牛深(うしぶか)ハイヤ節》であり、この魅力を存分に味わえるのが、毎年4月の第3金曜日から日曜日の三日間開催される【牛深ハイヤ祭り】なのだ。
かつて船乗りたちを魅了し、港から港へと伝わったハイヤ節、そして【牛深ハイヤ祭り】とはどんな祭りなのかを解説しよう。
日本各地に伝わる『ハイヤ系民謡』の原点、熊本・天草市の《牛深ハイヤ節》
熊本の天草といえば、すぐに『隠れキリシタン』という言葉が思い浮かぶように、陸路でのアプローチは決して容易とは言えないロケーションだ。
大小120もの島々で構成され、半島とも島とも判断のつかないような入り組んだ地形が多いものの、この自然こそ、昔から豊かな水産資源を保証している。
中でも牛深はカツオ漁をはじめとする海の幸に恵まれるほか、鹿児島と長崎、大阪を結ぶ海路の拠点として栄えてきた。
そしてこの町で江戸末期に誕生したといわれるのが《牛深ハイヤ節》だ。
『ハイヤ』とは、『南風』を意味する『ハエの風』が語源であり、当時帆船の船乗りにとって、北上するためにはこの『ハエの風』が必要だった。
また、三方を海に、残る一方を山に囲まれた牛深は時化(シケ)が多く、漁に出られない日や、風待ちの日も多い。
大漁の日には大漁祝い、時化の日には験直しの宴会が行われ、牛深に三味線の鳴らない日はなかったといわれている。
こうした宴席で欠かせないのが《牛深ハイヤ節》で、牛深の女性たちが船乗りたちを虜にしたといわれている。
『鍋釜売っても酒盛りゃしてこい』船乗りたちを魅了したハイヤの魅力
《牛深ハイヤ節》は、奄美地方の六調の影響を受けた早いテンポと、情熱的なリズム、そして『サッサヨイヨイ』『ヨイサー、ヨイサー』といった独特の掛け声や節回しによる唄が特徴で、これは江戸から昭和初期にかけ、当時の日本民謡ではまず見られないものだった。
歌詞は熊本を中心に歌われていた『二上がり甚句』という、七七七五調の甚句が基本だ。
『牛深三度行きゃ三度裸 鍋釜売っても酒盛りゃしてこい』
という歌詞にも見られるように、船乗りたちは牛深に立ち寄るとたちまちハイヤ節の魅力となり、港から港へと口承で伝えた。
牛深から長崎、瀬戸内海経由で大阪、日本海へ出て新潟、そして北海道や太平洋側…と、北前船の寄港地に伝わったハイヤ節は、さらにテンポがアップした《鹿児島ハンヤ節》や《阿波おどり》、ゆっくりとなって哀感を漂わせる《佐渡おけさ》など、その土地ごとに様々な特徴やアレンジが生まれた。
ハイヤ節、ハンヤ節、アイヤ節、おけさ節などの名がつくものは皆『ハイヤ系民謡』と呼ばれ、今ではその数40以上に及ぶ。
牛深の港町がハイヤ一色に染まる【牛深ハイヤ祭り】
《牛深ハイヤ節》は踊りも特徴的で、重心を低くとった中腰での姿勢に、網投げ・櫓漕ぎ・帆上げなど、海や船での所作を加え、牛深では伝統芸能として発展していった。
【牛深ハイヤ祭り】はこのハイヤの魅力を存分に楽しめる祭りとして、昭和23年(1948年)に誕生した【みなと祭り】を母体に、昭和47年(1972年)に誕生。毎年3,000人以上もの参加者が町中を踊りながら練り歩く『ハイヤ総踊り』は、ハイヤのダイナミックな踊りを存分に堪能することができる。
毎年祭り初日の金曜日行われる、各団体による舞台披露『輝けハイヤの競演』や、日曜日の朝行われる『漁船団パレード』といったイベントも見逃せない。
【牛深ハイヤ祭り】は、各地の盆踊りや踊りイベントに先駆けて行われるものの、4月でありながら初夏の日差しが眩しく、ひと足早い夏気分も味わうことができるのだ。
誰もがハイヤの魅力を楽しめる『飛び入り丸』で祭りに参加しよう!
『ハイヤ総踊り』では基本的に連での参加となるものの、一般参加も可能な枠として『飛び入り丸』という連が用意されている。
土曜日の夕方と日曜日の昼に30分ほどの『ハイヤ踊り講習会』が行われ、受講後手ぬぐいが配布され、『飛び入り丸』への参加が認められる。
踊りは『道中踊り』という最も基本的なハイヤの踊りではあるが、低い姿勢に加え動きが大きく、かなり踊り甲斐がある。
また、途中審査員席の前を通り、これは!という踊りの方には『ハイヤ名人賞』という賞が授与される。
【牛深ハイヤ祭り】に来たならば、迷うことなくこの『飛び入り丸』に参加すべし!
現地でしか味わえない昔ながらのハイヤ『座ハイヤ』
ボクが個人的に【牛深ハイヤ祭り】で最も心惹かれるのは、土曜日の総踊り後に行われる『座ハイヤ』というイベントだ。
路上にゴザを敷き、鏡開きをした日本酒の振る舞いを受けながら参加する『座ハイヤ』は、《牛深ハイヤ節》誕生の頃を思わせる、昔ながらのハイヤ節を楽しむことができる。
牛深ハイヤ保存会のメンバーを中心とした数人の方が場を盛り上げ、踊りながら観客の首に手ぬぐいをかける。手ぬぐいをかけられた者は踊らなければいけないというルールで、ここでの振り付けに決まりはなく、皆思い思いに踊ることになる。
『座ハイヤ』での《牛深磯節》。2018年4月21日撮影
この場での羞恥心は無用。即興で踊れないと楽しめない訳だが、やがて皆が踊る、大宴会状態となる。
これこそハイヤの原点である『元ハイヤ』なのだ。
『座ハイヤ』での《牛深ハイヤ節》。2018年4月21日撮影
牛深の人たちが誇りに思う《牛深ハイヤ節》の歌い終わりには、
『ハイヤハンヤはどこでもやるが 牛深ハイヤは元ハイヤ』
という一節がある。
まさに牛深という土地が生んだ、ハイヤへの熱い思いが感じられる。
【牛深ハイヤ祭り】だけでしか味わえないこの『座ハイヤ』で、悠久の時を感じつつ、存分にハイヤの魅力を堪能されたし!
絶品魚料理も極上の柑橘類も、そして『潜伏キリシタン関連遺産』も!旅する魅力いっぱいの秘境、熊本・天草
海の幸に恵まれた牛深では、どこで食べてもとにかく魚が新鮮で絶品だ。
魚の種類も多く、まずは刺身で楽しみたいが、ボクが個人的にはオススメなのはきんなご(キビナゴ)で、ぜひ現地で堪能して欲しい。
また、気候に恵まれた天草一体は、ポンカンやデコポンをはじめとする柑橘類の栽培も盛んで、4月には季節最後の柑橘を意味する『晩柑(バンカン)』が美味しい季節となる。
牛深を含む天草地方へのアクセスは様々な方法があり、福岡・熊本・大阪の各空港から天草エアラインの飛行機で天草空港入りする手段、熊本や鹿児島から車を利用する方法などがある。
個人的には毎回鹿児島空港からレンタカーを利用するのだが、途中蔵之元港から牛深港までは30分ほどのフェリーに乗船する必要がある。
このルートは風光明媚で穏やか道路でドライブを楽しみ、最後は潮風を浴びながらの船旅という、まさに旅行気分を存分に味わうことができる。
2018年7月には、『天草の﨑津集落』が『長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産』として、長崎県と熊本県に渡る12の構成資産からなる、ユネスコの世界文化遺産に登録された。
【牛深ハイヤ祭り】を堪能する際にはぜひ足を延ばし、近隣の歴史的遺産にも触れてみよう。
ただしアクセスには時間に余裕を持つことと、できれば車を利用することが望ましい。
その暁には、まさに秘境というべき楽園で繰り広げられる踊りも、絶品のグルメも、そして歴史的文化に触れられることも約束しよう。
いざ、踊りの聖地へ!
盆ボヤージュ!
2023年【牛深ハイヤ祭り】開催情報
■日程:2023年4月14日(金)・15日(土)・16日(日)
■場所:熊本県天草市 牛深ハイヤ大橋横芝生広場、牛深町商店街、牛深総合センター ほか
■行事の内容、時間/会場
【4月14日 金曜日】
・牛深ハイヤ大橋総踊り:15:00~16:00/牛深ハイヤ大橋
・輝けハイヤの競演:18:30〜21:00/牛深総合センター大ホール※入場料 全指定席 1,000円
【4月15日 土曜日】
・大漁・海上安全祈願祭:10:00~10:45/後浜北地区荷捌所
・牛深名産ハイヤ市:11:00~17:00/お祭り広場特設会場
・ハイヤ記念式典:11:00〜11:30/お祭り広場ステージ
・マーチングパレード:13:00~14:00/ハイヤ通り 岡一二商店街通り
・お祭り野外ライブ:11:40~13:00、14:00~18:00/お祭り広場ステージ
・ハイヤ踊り講習会:18:00~18:30/お祭り広場ステージ前
・ハイヤ総踊り:19:00~20:30/ハイヤ通り 岡一二商店街通り
・座ハイヤ:総踊り終了後/総踊りコース内
【4月16日 日曜日】
・牛深名産ハイヤ市:9:00〜16:00/お祭り広場特設会場
・漁船団海上パレード:10:00〜/牛深港
・お祭り野外ライブ:10:15〜12:00/お祭り広場ステージ
・水産フェア2023:11:00〜12:00/ハイヤ大橋下特設会場※入場料500円
・ハイヤ踊り講習会:12:00〜12:30/お祭り広場ステージ前
・ハイヤ総踊り:13:00〜14:30/ハイヤ通り 岡一二商店街通り
・総踊り・花車コンテスト 審査発表及び表彰式:14:45〜15:15/お祭り広場ステージ
※3日間を通じて「ハイヤ祭り写真コンテスト」が牛深一円で行われます
※より詳細な情報は牛深ハイヤ祭り公式サイトなどでご確認ください
下記は2022年の祭りの様子です。ぜひご参考に!