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阿波おどり対談:徳島娯茶平とプロ踊り集団寶船は、コロナ禍をどう生きているのか?

2021/9/16
2024/3/7
阿波おどり対談:徳島娯茶平とプロ踊り集団寶船は、コロナ禍をどう生きているのか?

2年間続けて大型イベントや練習が中止となった祭り業界。徳島発祥、今では全国で踊られる阿波おどりも例外ではない。

2021年8月オマツリジャパン主催で行われたオンライン配信「あなたの知らない祭りの世界」に向け、阿波おどりに関わる二人の重要人物によるオンライン対談が行われた。徳島阿波おどり有名連の娯茶平 岡秀昭連長と、東京をベースに活躍するプロ阿波おどり集団 寶船のリーダー 米澤渉氏である。ファシリテーターのオマツリジャパン共同代表 山本陽平氏のもと、それぞれの阿波おどり人生と、コロナ禍における阿波おどりのあり方について、熱い意見が交わされた。

1.「一生を捧げ悔いなし阿波おどり」二人の踊り人生

阿波おどりのチームは「連」と呼ばれ、少ない連は数人、大きい連は百人を超える人数で構成される。

娯茶平と岡連長

岡連長率いる娯茶平は、1946年創立。阿波おどり三大流派の一つにも数えられる、押しも押されもせぬ徳島の有名連である。60代、70代で連長になるのが当たり前であった約40年前、38歳の若さで連長に就任。40歳で出世の道を捨て、阿波おどりを芸術にまで高めた功労者であり、まさに「一生を捧げ悔いなし阿波おどり」の精神を体現してきた人物である。

寶船と米澤氏

一方、米澤氏がリーダーを務める寶船は、阿波おどりを職業とする、いわば伝統芸能のダンスカンパニー。一般的に阿波踊りに関わる人たちは、通常何かの職業につきながら、趣味や生活の一部として踊りや鳴り物(お囃子)に精を出している。しかし、寶船は、パフォーマンス活動から収入を得るという、退路を断った形で阿波おどりに本気でぶつかっている、気骨のある青年たちである。パンク精神あふれ、「阿波おどり界の異端児」と呼ばれながらも、熱狂的なファンからの支持を広げている。

全く違ったスタイルを貫く二人の出会い。それはとても穏やかで、米澤氏は「祖父が徳島出身で、子どものころから、娯茶平さんの踊りを遠くから見てきました。憧れの岡連長とお話しができて、本当に光栄です」と喜び、岡連長も「寶船さんは、よく存じていますよ。米澤さんのご両親ともお話しさせていただいていますね」などと、会話が弾んだ。

2.「ため、情、間」の娯茶平と、「爆発的エネルギー」の寶船

2つの連の違いを、パフォーマンスの面からもう少し見てみよう。

「ため、情、間」の娯茶平

阿波おどりで目が行きがちなのは、踊りである。しかし、娯茶平が何より大切にするのは、鳴り物、特に三味線である。三味線は打楽器の音でかき消されがちで、三味線を持たない連も多く存在するが、娯茶平が目指す「ため、情、間」を実現する最も重要なパートである。通常の踊り連は高張提灯を先頭に子ども・女踊り・男踊り、そして最後に鳴り物が続く。しかし、娯茶平は最初に50名を超す三味線舞台がずらーっと並び、続いて篠笛がゆったりと入り、後ろに打楽器、最後にやっと踊り手が登場する。鳴り物だけで150名が並ぶ、その景色は圧巻である。

娯茶平の鳴り物。中央でひときわ目を引くのは、会談中「子供のころから三味線を習わせた」という安藤正会さん。岡連長の言葉の端々に、安藤さんと鳴り物への絶対的な信頼が感じられる。

「爆発的エネルギー」の寶船

対して、構成をそぎ落とし、爆発力で見せるのが寶船だ。鳴り物は鉦、締め太鼓、大太鼓といたってシンプル。プロメンバー5人を中心に、セミプロ、一般メンバーがいるが、少ない時は5人ほどで踊りと鳴り物をこなす。その少ない人数で、時にマイクパフォーマンスも入れながら、圧倒的熱量で観客を煽る。その汗と鬼気迫る表情は、若者や外国人の心に突き刺さり、海外遠征も多くこなしている。

タイムズスクエアで踊る寶船ニューヨーク タイムズスクエアで踊る寶船。少人数のフットワークを活かし、世界中を躍らせている。

3.コロナ禍、祭りのない日々をどう生きているか?

伝統ある大所帯娯茶平と、東京のプロ集団寶船。コロナ禍で活動が制限されたなかで直面した現状はそれぞれ違う。

休止を決めた娯茶平

娯茶平は1年半、練習も出演も実質休止。その理由は製薬会社のお膝元という土地柄、多くの連員が活動に参加できなくなったこと。また娯茶平に惚れ込み、関東・関西島の遠方から通っていた連員も来られなくなっている。そんな中、連の目指してきた表現ができないなら、メンバーが揃わない中では活動をしないと決めた。岡連長は、「活動ができない間も毎日2時間ジムに通っている。連員にも、とにかく足腰を鍛えておくように、と伝えているし、みな実際に走ったりしているようだ。だから安心している」と語る。

発信し続ける寶船

寶船は、練習ができない、練習場所を借りることもできない中、ネット配信に注力。「こんな中でも阿波おどりを忘れないでほしいと思って発信を続けている」という言葉に、岡連長も「それは有り難い」と喜ばれた。

4.「築いてきた文化は簡単には死なない」。これからの阿波おどり

ファシリテーター山本氏の「アフターコロナには、阿波おどりのあり方は何か変わりますか?」の問いに、岡連長は「それぞれに作ってきたものは、そんな簡単には変わらない」と力強く語る。米澤氏は「文化の価値を再確認するチャンスとなった。配信などの手法が増えた」と、ポジティブだ。

守りと攻め。方法は違えど、人生を掛けて踊ってきた二人の言葉は、祭りの火を灯し続けようと奮闘するすべての祭り団体に勇気を与えてくれるものである。

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