お寺や神社の多い古都京都。その恒例行事といえば夏のお祭りですが、中でも一番の盛り上がりを見せるのが「祇園祭」。祇園祭は日本三大祭りにも数えられ、京都の夏の風物詩となっています。
祇園祭は7月1日から31日にかけて京都の八坂神社で行われます。1ヶ月にわたり様々な行事が行われますが、中でも有名なのが、17日(前祭)と24日(後祭)の「山鉾巡行(やまほこじゅんぎょう)」と「宵山(よいやま)」です。これらを一目みようと毎年多くの人が訪れ、京都の街は熱気に包まれます。
今回はそんな祇園祭の見所と楽しみ方についてご紹介します。
(この記事は2019年に公開されたものを再編集しています。2022年2月18日 編集部)
知っていましたか?祇園祭の歴史と由来
「祇園祭」の名前を聞いたことがない人はそう多くないと思いますが、その由来や歴史はなかなか知らないもの。実は、祇園祭は千年以上続くとても歴史の長いお祭りなんです。
古くは祇園御霊会(ぎおんごりょうえ)と呼ばれ、平安時代前期の869年に、京都各地ではびこる疫病を鎮めるべく行われたのがその始まりとされています。当時は、平安京の庭園である神泉苑に3つの神輿と66本の鉾を立てて祇園の神々を祀ったとのこと。今の祇園祭の姿とは全く違ったようです。
祭りの規模が大きくなっていったのは平安時代の中頃から。神輿渡御(みこしとぎょ)、田楽(でんがく)、猿楽(さるがく)などが加わり、町衆のお祭りとしての色が濃くなっていきました。その後、室町時代に入るにつれて祭りはどんどん豪華になります。職業の多様化や経済発展が進むにつれて町衆たちが裕福になり、自分が所属する町の山鉾の装飾を華やかにして競うようになったのです。疫病を鎮めることが目的だった祇園祭は、山鉾の派手さや大きさを通して自分たちの経済力を示す場となりました。
応仁の乱により一時は中断されたものの、1500年には町衆によって復活しました。その後、中国・インド・ペルシャなどから持ち込まれたタペストリーや装飾品をそれぞれの山鉾に飾るようになり、その見た目の豪華さゆえ、山鉾は「動く美術館」と呼ばれるようになりました。江戸時代にも再び火災に見舞われましたが、町衆の力によって祭りの伝統は守られ、今日に至っています。
現存する33基の山鉾のうち29基が国の重要有形民俗文化財に、また17日に行われる山鉾巡行は重要無形民俗文化財に指定されています。さらに、2009年にはユネスコより祇園祭の山鉾行事そのものが無形文化遺産に登録され、今や京都の祇園祭は、京都のみならず日本が世界に誇るお祭りとなっています。
これだけは外せない!祇園祭の見所と楽しみ方
祇園祭の最大の見所は、なんといっても「前祭(さきまつり)」と「後祭(あとまつり)」です。祇園祭のハイライトとも言える「山鉾巡高行」と「宵山」が行われるため、この期間中に最も多くの人が訪れます。
日本の祭りには、神霊をお迎えする神迎えと、祀った後にお送りする神送りの儀礼があります。祇園祭では、7月17日に神迎えにあたる「神幸祭」、7月24日に神送りにあたる「還幸祭」が行われます。なお、1966年以降は17日のみ山鉾巡行を行っていましたが、2度に分けて行う本来の姿に戻そうという動きが強まり、2014年以降は再び17日のと24日とに分けて行われています。
祇園祭最大の行事「山鉾巡行」
日程:前祭7月17日・後祭7月24日
祇園祭に欠かすことができない山鉾巡行。祇園祭と言えば山鉾巡行と言っても過言ではありません。
元々山鉾巡行は、町の邪気や穢れを清め、祇園祭の主たる神様である八坂神社の神様が通る道を作るための行事です。神輿は17日は四条鳥丸から、24日は烏丸御池から出発し、それぞれの町に伝わる山鉾を引っ張る町民がこれに続く形で市内を練り歩きます。
以下では、山鉾巡行の二つの見所である、山鉾そのものと「辻回し」について解説します。
山鉾
山鉾には豪華な美術品や装飾が施されており、「動く美術館」と言われています。
例えば、毎年山鉾巡行の先頭に立つ「長刀鉾(なぎなたほこ)」は、その名前の由来である、14世紀頃の絨毯で作られた長刀鉾が横に飾られています。豪華な金箔の鯱鉾(しゃちほこ)と水引が正面の屋根に、後ろには伊藤若沖が作成した鳳凰が描かれています。
後祭で最後尾を担う「大船鉾」は、日本書紀の神功皇后の神羅出船に由来しています。この大船鉾は、戦を終えて戻る「凱旋」の場面を表しています。何度も火災を逃れた神面は、江戸時代以前に作られたといわれる貴重なものです。
山鉾は、形・装飾品・ご利益・お囃子の拍子がそれぞれの町内で異なるので、お気に入りの山鉾を見つけるのも楽しいかもしれません。
辻回し
「辻回し」は、山鉾の方向を変えることを言い、山鉾巡行の中では最大の見どころです。
大きなものでは12トンある山鉾の向きを人力だけで変えるため、青竹を道路に敷き、その上に水をかけて滑りやすくしてから、大勢の曳子(ひきこ)が観衆の大きな掛け声と一緒になって方向転換させます。その様子は圧巻で、無事方向が変わると拍手喝采が起きるほど。曳子だけでなく、鉾に乗って合図を出す、音頭取りの掛け声も辻回しの見所の一つです。
辻回しを見たい場合は、2~3時間前までに場所の確保が必要になります。後祭の「有料観覧席」を購入するのも一つの手でしょう。
夜の風情を楽しめる「宵山」
日程:前祭7月14日~16日、後祭7月21日~23日
宵山は、山鉾巡行・神輿渡御(神幸祭・還幸祭)の「前夜祭」にあたり、それぞれ前祭・後祭の前3日間、14~16日と21~23日に行われます。
15日と16日は夕方から道に多くの露店が出て、町中が賑やかなお祭りムードに包まれます。この時期は山や鉾に上がることができる場所もあります。後祭の宵山では歩行者天国や露店の出店はありませんが、お祭り本来の幻想的な雰囲気を味わうことができます。
そんな宵山ならではの見所と楽しみ方のポイントを4つに絞ってご紹介します。
粽(ちまき)
祇園祭のちまき(粽)は食い物ではない pic.twitter.com/lM9vgmp15s
— 囧(masarap) (@masarapmap) 2019年5月10日
この粽は、みなさんの想像する食べるちまきではありません。祇園祭名物の食べられないちまきです。なぜ粽が祇園祭の名物になったのでしょうか。
八坂神社の祭神であるスサノオノミコトが蘇民将来という人の家で一晩の宿を求めた際、蘇民将来は貧しいにも関わらずスサノオノミコトを温かくもてなしました。それに感動したスサノオノミコトはお礼に蘇民将来に「子孫を疫病から守る」と約束し、目印として茅の輪を腰に着けさせました。その「茅巻(ちまき)」が転じて「粽」となったと語り継がれています。
それ以来、粽を玄関先に飾ることはご利益があると言われ、伝統になっています。粽は各山鉾町によって手作りされており、宵山期間中に八坂神社と各町内にある山鉾の町会所で購入することができます。
屏風祭
屏風祭は、前祭の宵山期間中に、山鉾町にある老舗や旧家が所蔵している美術調度品を一般公開する祭りです。昔から屏風が多く展示されたので屏風祭と呼ばれており、「動く美術館」と呼ばれる山鉾巡行と対称的に、「静の美術館」とも言われています。
今日では屏風祭を行う家は少なくなりましたが、続けている家では表の格子を外し、秘蔵している屏風や美術品、調度品などを飾り、祭りの見物に来た人々にも、通りから鑑賞してもらえるようにしています。代々受け継がれている重要無形文化財級の美術工芸品も展示されているので、祇園祭と伝統文化とを支え続けてきた人々の暮らしぶりに触れることができます。
提灯落とし
前祭の宵山では、提灯の灯りが灯された豪華な山鉾の光景が広がります。中でも、「宵山の函谷鉾(かんこぼこ)」と呼ばれる鉾の「提灯落とし」はぜひ見ていただきたい見所です。函谷鉾の提灯落としは、祇園囃子の演奏が速くなり、周りの雰囲気が最高潮に達すると終わるのですが、それと同時に鉾に吊るしてある駒形提灯の灯りが一気に落とされ、美しく幻想的な光景を楽しむことができます。
御朱印
近年、ひそかに「御朱印集め」が若い女性の間で流行していますが、祇園祭では、前祭・後祭それぞれの宵山期間中にのみ、各山鉾町で御朱印を押してもらうことができます。各山鉾の御朱印にはさまざまな御利益があります。
例えば、前祭の芦刈山の御利益は「縁結び・夫婦和合」です。御朱印のデザインの由来は、妻と別れて、やがて再会するという謡曲「芦刈」が題材となっています。胴懸は尾形光琳下絵の「燕子花(かきつばた)図」です。
後祭の浄妙山の御利益は「勝運」です。御朱印のデザインは『平家物語』の宇治橋合戦が題材となっており、一来法師が筒井浄妙の頭を飛び越え、先陣をとる瞬間を表現しています。
このように、由来を理解しながら自分の願いに応じた御朱印を探したり、個性的なデザインの中からお気に入りを見つけたりするのもおすすめです。専用の御朱印帳も販売されているので、ぜひこの御朱印長を片手に山鉾を巡ってみてはいかがでしょうか。
祇園祭の通な楽しみ方はこれ!
山鉾巡行と宵山が二大行事として有名ですが、祇園祭にはまだまだ魅力的な神事や歳事がたくさんあるのです。もっとディープに祇園祭を楽しみたいというあなたに、通な祇園祭の楽しみ方をご紹介!
山鉾建て
「山鉾建て」とは、山鉾巡行で使用する山鉾を組み立てる作業のことです。前祭の山鉾は10日から、後祭の山鉾は18日から組み立てが始まります。山鉾は伝統的な「縄がらみ」という方法が用いられており、釘を一切使わず木と縄だけで組み立てられていきます。
山鉾が完成すると、建てたばかりの山鉾がちゃんと動くかどうかのテストとして、一部の山鉾では曳き初め(ひきぞめ)・舁き初め(かきぞめ)が行われます。
誰でも自由に参加することができるので、ぜひ曳き手になって山鉾を体感してみてください。
神輿洗式
神輿の巡行に先立って10日の19時半から四条大橋で行われる、神輿洗式(みこしあらいしき)も見応え抜群です。八坂神社にある3基の神輿を代表して、スサノオノミコトを祀る中御座神輿のみに神輿洗式が行われます。式で使われる御神水はこの日の早朝に鴨川から汲まれるのですが、この水しぶきにかかった者は無病息災のご利益を授かると言われており、このご利益を求めて多くの人で賑わいます。
神輿渡御(みこしとぎょ)
祇園祭の中で本来最も重要な行事とされるのが、神輿にのった神様が市中を清めて回る「神輿渡御」です。
三基の神輿にのる神様は、八坂神社の主祭神である素戔嗚尊(スサノヲノミコト)と、櫛稲田姫命(クシナダヒメノミコト)、八柱御子神(ヤハシラノミコガミ)。7月10日に行われる神輿洗式の後、三基の神輿は7月17日の山鉾巡行の後の夕刻まで南楼門前の舞殿に安置されます。
3基の神輿の巡行ルートは別々ですが、出発前に同じ場所で「三者揃い踏み」を行います。この時に行われる「差し上げ」(神輿を担ぎあげること)と「差し回し」(神輿を回転させること)は見所の一つです。差し上げの際に、担ぎ手の掛け声のもと高々と神輿が揺さぶられ担ぎ上げられる様子はダイナミックで、とても見ごたえがあります。
おすすめの見学場所は西楼門の石段の上ですが、とても混雑するので、遅くても1時間前には場所を確保しておくと良いでしょう。
お祭りに欠かせない食べ歩き
7月14日~16日に行われる前祭りの宵山行事の期間中15・16日は歩行者天国となり露天が立ち並びます。この期間しか食べられないものもあれば、一日限定なんていう大変貴重なものまで!16日にしか販売されない柏屋光貞さんの「行者餅」は予約を受けず、当日並んで買うようなので口にするのはなかなか難しそうですが、一度は食べてみたいですね。
ちなみに、21日~23日に行われる後祭りの宵山行事では歩行者天国、露店ともに設定はないのでご注意ください。それこそ「あとのまつり」ですが、露店がない様子もまた一層の風情があると楽しむ声もあるそうですよ。
個人的には鉾ごとに違ったご朱印もとても気になり…知れば知るほどディープで多彩な楽しみ方があるのが祇園祭。参加する、食べる、見る、一年の厄を祓い次の一年に思いを馳せるなどあなたなりの楽しみ方を見つけてみてください!
祇園祭りに行く前にチェックしておきたい注意点
町中にお祭りムードが漂う賑やかな祇園祭。悔いなく楽しむために、特に注意すべき点をシチュエーションごとにいくつかご紹介します。
前祭の宵山は特に混雑します
前祭の宵山は、露店が立ち並び歩行者天国になるため、大変混雑します。場所によっては身動きが取れなくなるほど。四条通りの鳥丸通りから八坂仁者までの区間は、特に道幅が狭いので注意が必要です。
交通手段は電車がおすすめ
祇園祭の期間中、市バスやタクシーは渋滞に巻き込まれ、車両が何時間も動かなくなる可能性があります。祭りが開催されている間は、できるだけ地下鉄など電車で移動するようにしましょう。例年7月14日~16日は、地下鉄烏丸線・東西線ともに増発して運行するそうです。
宿泊場所は早めに確保しよう
祇園祭開催中は、周辺のホテルや旅館は予約で一杯になります。もしも祇園周辺で宿泊する予定があれば、できるだけ早く予約することをおすすめします。京都の町は見所がたくさんあるので、祇園から少し離れた場所での宿泊も検討してみてください。
京都の夏の風物詩を存分に楽しもう!
いかがでしたでしょうか?祇園祭は、長い歴史の間、人々から愛されてきたお祭りです。そして、京都の伝統と暮らしに触れることができる素晴らしい機会でもあります。1ヶ月間心ゆくまで味わうのもよし、まずは前祭・後祭から楽しむのもよし。今年の夏は祇園祭に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?