コロナ禍を乗り越えた来年こそ「オフラインで祭りを楽しめるように」との思いで開催されたオンラインイベント「あなたの知らない祭りの世界」。その中から「よさこい」をテーマにして行われた、天空しなと屋ディレクター 井上昇氏、YOSAKOIチーム倭奏(わっか)代表 下畑浩二氏、オマツリジャパン共同代表取締役 山本陽平によるオンラインでのトークセッションをレポート。よさこいに魅せられた男たちの熱い言葉で語られる、よさこい祭りのはじまりやルール、魅力と参加する手がかりをお伝えします。
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よさこいに魅せられた二人の男
―― 今回のトークセッションにご参加いただいているお二方をご紹介いたします。まずお一方目は天空しなと屋ディレクター、井上昇さん、クリエーター集団で、年間約30作の新制作や祭りの企画制作アドバイスを行い、国外での活動も数々行っていらっしゃいます。
井上:よろしくおねがいします。よさこいが好きで、祭りが好きで、趣味が高じて25年よさこいをやらせていただいています。たまたま大学一年の時によさこいと出会って、そこからよさこいイズライフ、よさこいが好きだから出会う人も増えて、日本中どこに行ってもよさこいでつながっている友達がいるありがたい環境になりました。今日はよさこいの魅力をお伝えできたらと思います。
―― ありがとうございます。お二方目はよさこいチーム倭奏代表、YOSAKOIソーラン祭りの公式メンターでもある下畑浩二さんです。
下畑:よろしくお願いします。北海道出身で、今北海道に住んでおりまして、北海道札幌市で行われるYOSAKOIソーラン祭りに長くかかわっています。また、代表をつとめる倭奏は名古屋、関東にも支部があり、名古屋の日本どまんなか祭りなどにも参加させていただいています。僕も井上さんと同じようにYOSAKOIソーランが大好きなので、魅力を感じていただければと思っています。
よさこい祭りって? その始まりと地域の人たちの思い
―― まず最初に、よさこいとはなんぞや、ということをお聞きしたいのですが。
井上:よさこいは四国、高知県で昭和29年に生まれた祭りです。戦後、経済が落ち込む時期、地元を元気にしたいと思った方々が、400年の歴史をもつ阿波踊りで盛り上がる隣の徳島県にならい、高知でも市民のお祭りをつくろうと、商工会議所や商店街の皆さんが中心となって立ち上がりました。米どころ高知、ということでまずかたかたと鳴る音で雀を追い払う農耕の道具である鳴子を持って踊ることに決めました。もう一つ、高知の民謡よさこい節を必ず踊る曲に使うことに。二つのルールでよさこい祭りがはじまりました。
よさこいの二つのルール だからこその自由
井上:よさこいは二つしかルールがない。だからみんな自由にアレンジできました。最初は日本舞踊でしたが、サンバを取り入れたり、ギターなどのバンドの生演奏が登場するなど、まさに自由民権運動の土佐。どんどんアレンジを加えられながら、広がっていきました。
―― よさこいがなぜ外来のものを土着化していくことができたのか、そのあたり、どう見ていますか?
下畑:北海道の場合は、30年前に高知のよさこい祭りを見た北海道大学の学生たちがはじめました。ルールを守ればよさこいと認められるので、新規参入しやすい。地域に根付いていないと参加できない古来の祭りのシステムがなく、ほかの地域からきても参加できます。
井上:北海道のYOSAKOIソーラン祭りが全国に与えた影響はとても大きい。札幌の方が札幌なりのアレンジをしたこと、こぞって参加されたのが大きいのですが、お祭りが全国にあるので、全国のよさこいの差別化ができる、チームだけではなく祭り、さらに地域も差別化して魅力を発信していくことができました。
―― なるほど、ご当地ラーメンに近いのですね。
下畑:そうです。ラーメンと言うジャンルは同じですが、各地域で全く違うものになる。たとえば北海道ソーラン祭りは高知のよさこい節ではなく、地域のソーラン節を使うことがルールになっている。これにならって、地域の民謡を入れることがルールである祭りも多くあります。議論も活発で、鳴子を持つか持たないかも、議論されている。議論できるのは新しい祭りであることの強みでもあります。
若い担い手たちが活躍 地域を盛り上げる
―― もう一つ、よさこいは若い人が多い、学生が多いというイメージがあるのですが、そのあたりの背景を教えていただけますか?
下畑:よさこいは、全国各地の若い世代に広まりました。大学生はサークルで活動しやすく、組織も気軽に作れるからです。そして学生たちが一生懸命取り組むので、商店街などまわりの大人も応援し、会場運営に携わるなどといった協力が広がります。また、祭りを持たない商店街が祭りを始めるきっかけにもなりました。大人は学生を応援することで自分たちも楽しめる環境を作れる、また若者も大学時代だけで終わらせず社会人になっても関わる、こうした良い流れは後継者不足に悩む各地の祭りの課題解決のヒントにもなっています。
よさこいを始めるには?踊り子募集はどんな風に
―― これからよさこいを始めたいと思った人がチームを選ぶ時、どんな基準で選ぶのか、どういう風に入るのか、教えていただけますか?
下畑:高知では、商店街の掲示板などに踊り子募集の掲示を出し、そこに衣装や振付、価格などを提示しています。他の地域では、各チームのSNSや祭りの公式ホームページなどに祭りの半年前あたりに、踊り子募集の掲示を出し、説明会などを開きます。応募する方の多くは前の年の祭りで見たチームを参考に「こんな踊りを踊りたい」などの思いをもって応募されます。
―― 半年であれだけ高いレベルの踊りを踊るには、とてもハードな練習が必要だと思う人もいると思うのですが。
井上:いろいろなチームの形があります。本番に作品として仕上げるために練習量の多いチームもあれば、練習が一回もなく本番ではじめて合わせるチーム、常にビールを飲みながら踊るチームもあります。自分に合うチームを探すことが大切です。歴史が短く、地域の地縁、血縁に縛られないことがよさこいの強みでもあるので、気軽に参加してみることをおすすめします。
衣裳はどうやってデザインするの?
―― 衣装は誰がどのように決めているのですか?いろいろ幅があるように感じますが。
下畑:衣裳デザインは千差万別ですが、最初にチームの代表が「お祭りでこんな表現をしたい」と思い描いた絵から、色のイメージなどを伝えて、スタッフが工夫して作る形が多いです。
井上:私のチームは生地ありき、絶対に他にない生地を選ぶことから始めます。なぜなら他のチームとかぶってしまうことも多いからです。海外の生地が日本に溶け込みながらもオリエンタルな感じで面白かったりもします。衣装はチームの顔、衣装でチームを選ぶ人も多いので、クリエイティブな創造活動の度量が各チームに求められています。
まず生地ありきで選ぶ天空しなと屋しん(原宿表参道元気祭スーパーよさこい公式ホームページ 「実績」ページより)
アフターコロナのよさこい像 変わっていくこと、変わらず大切にしていくこと
―― コロナウイルス感染と言う事態によって、二年連続よさこい祭りが中止のところが非常に多いと思います。一年後、二年後、アフターコロナのよさこいはどんな風に変わっていくのか、目指したいよさこい像などを教えていただけますか?
井上:大きな祭りを野外でできない状況が丸二年続き、大人数で、大きなエネルギーを分かち合うことは、非常に厳しい状況です。一方で、オンラインに特化した祭りが生まれたり、小さなイベントで少人数で踊ることを繰り返したり、動画を配信する場を作ることで、踊り子の気持ちを繋ぎ大きな場を取り戻す努力を続けています。逆に小さな出演を得意とするチームが出るなど、新しい芽も生まれてきています。
下畑:よさこいは情勢に合わせて形を変えてく自由があります。オンラインとオフラインを併用することで、同日に開催される他地域の祭りに参加することができるなど、新しい可能性も生まれます。そうした形で活動の場を広げることもできるのです。
井上:動画編集の技術もどんどん上がり、5年後、10年後にはみんながプロジェクションマッピングを使えるようになるかもしれない。でも、その日その場所に行かないと出会えない地域の人の笑顔もあります。今年もここで踊らせてもらうね、来年もまた来るね、という戻る場所を守ることもとても大事なことだと思います。
下畑:祭りができない状況の中、どうやって祭りのノウハウを継続していくか、トライアンドエラーでやっていって、開催可能なお祭りの形を探していきたい。チームは感染対策をしながら、一般の方に肯定していただく努力をしていく。会場で踊り手を待っていただくのは、決して当たり前のことではないので、地元の方のご努力に踊りで恩返しをしていきたいと思います。
井上:よさこいは支えあいと感謝で成り立っています。よさこいの来年を夢見て、決して悲観せずに、感謝をもって進んでいきたいと思っています。
お二人のお話から、様々なエネルギーを取り込み、よりパワーアップしていく自由で柔軟な力、そしてよさこいの場を守っていく強い決意を感じました。
次回は個性あふれる各チームの魅力に迫りたいと思います。お楽しみに!