2023年8月26日・27日の日程で、愛知県西尾市で「三河一色大提灯まつり」が開催されます!
その名の通り、巨大な提灯が見どころのこのお祭り。この記事では、2022年の現地レポートとともに、2023年の開催情報をお届けします。
目次
「三河一色大提灯まつり」の幻想的世界
450年以上もの歴史を誇る「三河一色大提灯まつり」が8月27日、28日、三河一色諏訪神社にて3年ぶりに開催されました。
境内に揚げられる12張の大提灯は、最大でなんと高さ10メートル!村人に災難をもたらす海の魔物を鎮めるために焚かれた篝火(かがりび)に由来するというこの祭。古くから変わらない工程、そして夜空に浮かび上がる大提灯の幻想的なその様を、歴史が息づく成り立ちとともにレポートします。
“篝火”が、だんだん大きくなり江戸の頃には“大提灯”に
例年8月に三河一色諏訪神社(愛知県西尾市)で行われる「三河一色大提灯まつり(みかわいっしきおおぢょうちんまつり)」。2022年は、3年ぶりに8月27、28日の2日間にわたり開催されました。
この祭の見所は、地域ごとの氏子6組が掲げる全12張の大提灯が出揃う様もさることながら、これら巨大提灯を伝承の方法で氏子の男たちが力を合わせて吊り揚げるその勇姿!一番大きな提灯は高さ10メートル、直径5.6メートルにも及ぶというのだから、その作業が一筋縄では行かないことは想像に難くないでしょう。
そもそも、なぜこのような大提灯を掲げるようになったのでしょう。一色大提灯保存会によれば、夏から秋にかけて現れ、人畜農産物を荒らす“海魔(かいま)”を恐れた村人たちが行った祈祷が起源なのだそう。
450年程前、海魔の退散を願い長野県の諏訪大社より勧請した諏訪大明神を祀り、魔鎮剣(ましずめのつるぎ)供えて大篝火(おおかがりび)を焚いたところ、被害がなくなった—。以降毎年夏、神事として大篝火を焚くようになったと言います。
やがて大篝火が提灯に置き換わると段々と大きくなっていき、さらに経済的な余裕も生まれた江戸中期頃には提灯の上に屋根=覆(おおい)がかけられ、提灯に鮮やかな絵が描かれるなど、現在のような姿になったそうです。
ちなみに、この12張の大提灯並びに柱組一式は、昭和44年に愛知県の民俗資料(有形民俗)文化財に指定されています。
現在、柱立ての工程のみクレーンで行うそうですが、昭和49年(1974年)までは人力で立てられていました。なお、地中には柱を支える基礎となる「地輪」が埋設されており、ここに柱を立てていきます(かつては木製でしたが現在は鉄筋コンクリート製)。
ちなみに、元文(1736年~)、寛保(1741年~)時代に2本だった柱は、提灯の大型化や屋根型覆が付くようになったあたり、文化(1804年~)、文政(1818年~)の頃には重さに耐えられるよう3本の柱で支えるようになったそうです。
設計図も仕様書もなし!伝統の工程で大提灯を吊り上げる様は圧巻
祭当日の朝、氏子たちは神前でお祓いを受け、各組(全6組、ひと組30〜50名)に分かれ8時頃から作業を開始します。吊り揚げる提灯の数は6組12張(各2張)で、「柱立て」「覆仕込み」以降の当日の工程は「屋根形覆揚げ」→「大提灯運び出し」→「大提灯吊り揚げ」という流れ。大提灯が揚がるまでのこの壮大な様を、順を追って写真で紹介していきましょう。
・屋根形覆揚げ
準備された屋根形覆に10枚の障子をはめ込んだら、拍子木の合図とともに「カグラサン」(万力)を使って覆を柱の上に引き上げていきます。組全員でお互いの空気を読みながらバランスを調整して揚げていくのですが、覆の平行を保ちつつてっぺんまで上げるのが難しい!覆い揚げは、一色大提灯まつりの見所の1つとなっています。
・「大提灯運び出し」
境内にある各組の収蔵庫から、提灯2張を搬出。大きい物で直径5メートルを超える大提灯に「どの組でもいいから、手の空いている人は助けに入って!」と、それぞれの氏子たちが助け合うのが習わしだそう。これ、物理的なヘルプ要請の意味合いに加え、「仲良くやっていこうぜ、という町同士のアピールでもあるんだよ」と地元の人が教えてくれました。
・「大提灯吊り揚げ」
大提灯が引き上げられていくにつれ鮮やかな絵巻が現れ、見守る人々から「おぉ〜」と歓声が。覆の横木と両脇の大柱に付けた滑車に通した太い綱を、男達が力を合わせて引っ張りあげる様が壮観です。11時頃には12張の大提灯すべてが揚がり、一気に祭の雰囲気が高まります。
艶やかな巨大提灯で埋め尽くされた境内は、壮観!
すべての大提灯が境内を彩ると見物客も増え、一層賑やかになってきます。実はこの大提灯、江戸時代中期には氏子達の“大きさ合戦”がヒートアップし、遂には西尾藩から質素倹約を旨とし寸法制限令が出される事態に。
このあたりから“だいたい現在のサイズに落ち着いた”ということですが、江戸後期にはこの制限に不満を持った氏子達が規則を破った大提灯を掲げ、牢に入れられる騒ぎがあったそう。うーん!祭にかける男の意地、心意気は昔も今も熱い!
これら大提灯は長い歴史の中、約20年ごとに遷座祭などの機会に修繕を重ねてきたそうですが、近年の傷みはひどく大きな修復を余儀なくされました。平成6年から13年にかけてようやくすべての提灯の修復を終え、揃って献灯できるようになったそうです。
艶やかな大提灯の下で、「修復できる職人も京都にわずかしかおらず、また染料や和紙など同じ材料を手に入れるのも難しくなってきていて今後が心配ですよね」と、出揃った大提灯を前に、歴史ある神事を継承していく難しさを語っていました。
御神火の灯りだけ。漆黒の夜空に“ぼんやり浮かぶ大提灯”は神秘的
夜の帳が下りる午後7時から、祭のクライマックスである宵宮の献灯祭「火入れ式」が始まります。拝殿では各組の代表が神職のお祓い、祝詞奏上ののち、組名の入った提灯に御神火を受けます。
各大提灯の下まで運ばれた御神火は大蝋燭にうつされ、大提灯の中程まで吊り上げ、献灯。大提灯の底部を開き、最大で80㎏もある巨大蝋燭を若者たちが一気に引き上げる荒々しくも生命感みなぎる姿は、迫力満点です。
御神火が大提灯に灯ると、薄暗い境内にぼんやりと大提灯が浮かび上がり、一種独特の雰囲気に包まれます。電飾や電球を使わない、蝋燭だけの灯りが導く幻想的な世界は必見。当時と同じ情景の中にいる—まるでタイムスリップしたかのようなこの不思議な感覚を味わえることが、この祭の醍醐味ではないでしょうか。
ちなみに現在、大提灯の蝋燭は夜11時頃には消灯(火を灯すのは1日目のみ)。2日目の午後5時、大提灯は最後の神楽を合図に降ろされ、祭は終わります。
コロナ禍により3年ぶりとなった三河一色大提灯まつり。「伝統をつなぐことが町同士をつないでいるからね、開催することが大事なことなんだよね」と語ってくれた保存会の方の言葉が印象に残りました。
参考資料:三河一色諏訪神社−参拝のしおり−(発行:諏訪神社社務所)
行ってよかった!祭の前に訪れたい「西尾市立一色学びの館」
初めてこの祭を訪れた筆者。祭についていろいろお話を伺っていると、地元の方が“ぜひ行くといいよ!”と教えてくれたのが「西尾市立一色学びの館」。西尾に暮らしてきた人々のアイデンティティや祭礼、芸能、習俗が工夫を凝らして紹介されています。
祭の日の諏訪神社のジオラマや大提灯の原寸大レプリカの展示のほか、ビデオによる解説など、祭の前に知っておくとより楽しめる情報がもりだくさん。諏訪神社から徒歩10分ほどの距離にあり、無料で入館できるので、ぜひ訪れてみてください!
2023年の開催情報!
日程:
2023年8月26日(土)・27日(日)
場所:
三河一色諏訪神社(西尾市一色町一色宮添129)
主なスケジュール:
8月26日
【大提灯吊り上げ】8:00~
【大提灯献燈祭】19:00~
8月27日
【奉納弓道】9:30~
【例祭】10:30~
【大提灯降納】17:00~