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「ねぶた祭を発展、存続させるために」青森のねぶた師、竹浪比呂央氏の挑戦

2018/9/5
2024/5/7
「ねぶた祭を発展、存続させるために」青森のねぶた師、竹浪比呂央氏の挑戦

お祭りと聞けば「血沸き肉躍る」ように、脈々と続いてきた日本人のDNAを自分の中に感じる…そんなことはありませんか?しかし今、長い歴史に幕を下ろすお祭りが少なくありません。

少子高齢化に加えて、原因の一つになっているのが財政難。

「阿波おどり」で有名な徳島市では観光協会が破産した影響により荒れ模様を呈している一方で、大阪の「天神祭」のようにクラウドファンディングで見事300万円の資金を集めることに成功した例もあり、お祭りを取り巻く環境が大きく変わってきています。

そういった環境の中で、今回は「お祭り」という枠組みを飛び越え、ねぶたの魅力を国内外に発信し続ける青森のねぶた師、竹浪比呂央(たけなみ ひろお)さんにお話を伺いました。

ねぶた師を長く続ける環境は整っていない

竹浪比呂央さん

「青森ねぶた祭」と言えば国の重要無形民俗文化財に指定され、例年約270万人の観光客を迎えるほど。その目玉ともいえる、巨大な灯篭であるねぶたに命を吹き込むのが「ねぶた師」です。

しかし、華やかな活躍の影には経済的な厳しさがあります。昔は第一線で活躍するねぶた師でも、冬の間は出稼ぎに出る人もいたそうです。竹浪さんもねぶた制作の傍ら、薬剤師として勤務されていた経歴の持ち主。そんな厳しい現状を改善するべく、ご自身でねぶたの制作にあたるだけでなく2010年に竹浪比呂央ねぶた研究所を設立し、若手の育成・環境の整備に力を注いでいます。

「これからねぶた師をやりたいという若い人が仮に出てきたとして、経済的な面や社会的なステータスなど長く続けていけるような環境の整備が整っていないですね。ただこれは、実は宿命的なもので、専門的知識や経験がない人でも祭りの楽しみとしてねぶたを作ってきたという長い歴史があります。」

ねぶた師の評価が上がらなかった理由の1つとして、ねぶたそのものに対する世間の受け止め方もありました。

「虎を作ったけど猫にしか見えないとか、龍を作ったのに、ワニに見えるとか。ねぶたは終わったら壊すものだから、逆にクオリティが低い方がよい、という考えもあったんです。今はそういう考えも変わってきたし、変えてきたという自負がありますが、当初は青森の美術関連の専門家、画家、アーティストはねぶたに見向きもしなかったんですよ。」

「ねぶた祭存続の危機感」に突き動かされて

厳しいねぶた師の世界に生業を提供するプロジェクトとして行われているのが「ネブタ・スタイル」 。

竹浪さんはネブタ・スタイル有限責任事業組合の代表の1人であり、「ねぶた」の持つ美しさと生命力をベースに、照明器具、インテリア雑貨、生活雑貨、アパレルなどの多彩なデザインプロダクツを生み出し、「ねぶた」の新しい可能性を切り開いています。

「このままだと祭の規模が縮小したり、後継者がいなくなったりと、存続の危機を感じています。ねぶた祭を未来永劫残していくためには時代に合った戦略的なやり方を模索していく必要があるでしょう。

例えば国宝級の仏像も、保存の為には最新技術を駆使してCTスキャンすることもありますよね。昔は仏様にそんなことをするなんて罰があたるという考え方もありましたが、最新技術を使って解析するからこそ次に残す手立てがあるわけで、そういった発想の転換をねぶたでもやっていく必要があると考えています。」

この逆転の発想で竹浪さんによって創作されたのがKAKERAです。

写真はネブタ・スタイルより照明器具のKAKERA“舞”

一般的に、ねぶたはお祭が終われば保存されることなく解体されますが、KAKERAは実際に運行されたねぶたから切り取った色彩和紙によって創られた照明器具で、同じものが二つとない貴重なもの。

こうした製品を国内外に向けて販売していくことにより、ねぶた師の生活基盤を安定させ、ひいては祭の存続につなげるという取り組みがすすめられています。

海外からの高い評価、地元では?

近年、竹浪さんの作品は、海外からも高い評価を受けている一方、そういった評価を地元の方が知らないというギャップもあるそうです。

「レストランのオーナーシェフではなく、屋台のラーメン屋のおやじでいてほしいといった、ねぶたはいつまでも庶民的なものであってほしいという地元の方の願いがあるからこそ生じるギャップかもしれません。

それでも、祭りを取り巻く環境が変化している現状を理解して欲しい。そういう意味でも発信していきたいです。」

国内外へ向けて発信を続ける竹浪さんに対して、お祭りを変えてしまうのではないかという周囲からの逆風も強かったそうです。しかし、竹浪さんが望むものはねぶた祭の変革ではなく、「発展」と「存続」でした。

「ねぶた祭そのものは基本的には変わらないでほしいという思いがあります。経済優先型で人寄せのためのお祭りになってほしくないという思いもありますね。」

周囲の逆風に折れることなく挑戦を続けてきた竹浪さんは今後のビジョンをこう語ります。

「お囃子の音色の美しさや、ハネトのラテン的とも言えるような躍動感あふれる魅力、こういったねぶた祭全体を構成するものから「ねぶた」を切り出して作品としての魅力を伝えていきたいです。

美術館・博物館に展示したとき、これだけの大きな作品を現地で見たいという思いでねぶた祭に訪れる人が増えていったら、祭を残していくということにつながるのではないでしょうか。」

「ねぶた」が日本中、世界中でどのように広がって行くのか、竹浪さんの活動に今後も目が離せません。

アートとしてのねぶたが見られるイベントも

目黒雅叙園ホームページより

ねぶた祭は例年8月2日~8月7日に開催され、2018年は竹浪さんが制作にあたった「岩木川 龍王と武田定清」が最高賞である「最優秀制作者賞」、運行した団体も総合第1位の「ねぶた大賞」を受賞し、盛況のうちに終了しました。

目黒雅叙園では9月2日まで、「和のあかり×百段階段2018」~日本の色彩、日本のかたち~が開催されていました。「竹取物語」をテーマに異なる3流派が一つの作品を作るという珍しくも豪華な共作。

3人のねぶた師のうちの一人、手塚茂樹さんは今回お話を伺った竹浪さんのお弟子さんにあたります。

アートとしてのねぶたを楽しむ機会も広がりを見せています。今年のねぶた祭に参加された方も、来年こそは行きたいと考えている方も、竹浪さんの作品を鑑賞し、ねぶたに思いを馳せてはいかがでしょうか。

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竹浪 比呂央(たけなみ ひろお)

1959年、青森県西津軽郡木造町(現つがる市)生まれ。1989年に初の大型ねぶたを制作して以来、ねぶた大賞、第30回NHK東北放送文化賞はじめ受賞多数。東京ドームをはじめブダペスト、ロサンゼルスなど国内外で出陣ねぶたを制作。竹浪比呂央ねぶた研究所主宰。青森ねぶたの創作と研究を主としながら、「紙と灯りの造形」 としてのねぶたの新たな可能性を追求し続けている。

(「竹浪比呂央ねぶた研究所 公式ホームページ」より)

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