また行きたい!と思える地域はどんなところだろう?
今や多拠点居住やワーケーションなど、定住に限らない生活や働き方が注目されている。自分に帰るべきふるさとがあったとしても、居心地の良い地域が増え、通いたくなる素敵な場所との出会いはもちろん嬉しい。旅をすることは一時的な余暇だけではなくて、地域との関係性を新しく築く楽しみでもあるのだ。
今回、2022年10月22〜23日の日程で、クラブツーリズム主催のツアー『第2のふるさとづくりプロジェクト 秩父のお祭り文化にふれる2日間』に参加してきた。埼玉県秩父市でディープなお祭り文化に触れ、担い手の方々にお話を伺ったり、祭りの担い手体験もさせてもらった。その様子を参加者の目線で振り返りたい。
秩父はお祭りが多い地域
今回ツアーの対象地となった埼玉県秩父市は、埼玉県北西部にある人口6万人の市だ。池袋から西武池袋線で一本で行けるため都心から感覚的には近い。ただし都心と比較すれば、驚くほどに地域の祭り文化が根付いている。なんと年間約300日もお祭りが行われているというのだ!
盆地の地形に農業がしっかりと根付いているため、共同体での作業も多く、地域での助け合いや祈りが生じてきた。一方で養蚕業が盛んで街道があり、昔から物流と経済が発達したため、お金を持った商人も現れた。このように地域コミュニティの助け合いと、それを支える経済的な地盤がしっかりしていたことを背景に、祭りが増えていったという特徴がある。
こちらは秩父を代表する山の1つとも言える武甲山。昔からこの山は信仰の対象として崇められてきた。
獅子舞をテーマにした旅行
今回のツアーは2日間の日程で行われ、1日目は唐沢の獅子舞の道具見学、2日目が秩父市浦山の獅子舞見学と「獅子舞」がメインテーマだった。クラブツーリズムのツアーで獅子舞を扱うことは少なく、非常に貴重な機会だ。しかも今回の秩父の獅子舞に関しては、本当に魅力満載なのでぜひ前提知識としてここで語らせていただきたい。
秩父の獅子舞は「三匹獅子舞」という種類に分類される。一般的に多くの人が想像するであろう、お正月にショッピングモールなどに現れる獅子舞とは違い、頭を噛むということはない。獅子頭の顔は獣のようで、鳥の羽がつけられ角もある。一人で演じる一人立ちの獅子舞が3つということで、「三匹獅子舞」と名付けられている。この獅子舞、動きがとっても激しくて、ケモノ感が満載だ!
なぜ三匹の獅子舞なのかといえば、太陽、月、星という天体を表現しているからとも言われている。また、その獅子舞の周囲にいる四台の花笠は春・夏・秋・冬という四季、あるいは東西南北や四天王などを表しているとされる。獅子舞にはこのように万物を包括するような壮大な思想が詰め込まれているのだ。
浦山の獅子舞は歴史が相当古い。その成立は後嵯峨天皇の時代(1242~46年)に遡り、天皇の勅使として派遣された山崎角兵衛という人物が振り付けをしたものだ。800年以上前の演舞が今に伝えられているということで、これだけ古い三匹獅子舞は現在、ほとんど残されていない。
しかもその舞いは風のそよぐ音や川のせせらぎなど身の回りの自然がヒントになって作られており、暮らしとセットで見て回ることで理解がぐっと深まる。獅子舞の想像以上の奥深さに驚く参加者も多かったことだろう。こちらは川遊びができそうな浦山の川の様子だ。
今回のツアーでは、獅子舞のみならず神社や郷土資料館、鍾乳洞の見学など、地域を深く味わえる体験も盛り込まれていた。それら含めて、このツアーの様子を振り返る。
実際に秩父のお祭りツアーに参加してみた
こちらが今回のツアーの大まかな行程である。
<1日目 10月22日(土)>
西武池袋駅(10:00集合/10:30発)- 西武秩父駅 − 長瀞・宝登山神社(散策・参拝)− 長瀞町郷土資料館(「唐沢の獅子舞」有形文化財を見学)- 長瀞まちなか散策(ガイドの話を聞きながら街歩き)
宿泊:民宿 優月荘
<2日目 10月23日(日)>
秩父神社(参拝)- 浦山歴史民族資料館(ガイドよりダムに沈んだ集落の歴史・風土を知る)- 札所28番橋立堂の石灰岩体と橋立鍾乳洞(拝観)- そば処手打 土津園(昼食)- 浦山地域(大日堂、石雲山昌安寺を中心に行われる「浦山の獅子舞」参加体験)- 西武秩父駅 – 西武池袋(18:46着)
今回、参加者の人数は20名ほどだった。同行させてもらう参加者の方々にご挨拶してバスに乗り込んだ。それではツアーで巡った場所の中で、秩父ならではの文化と親和性の高い部分を中心に抜粋して紹介させていただこう。
長瀞・宝登山神社(散策・参拝)
このツアーでまず初めに訪れたのが、長瀞・宝登山神社(散策・参拝)だ。日本の神社といえば質素なイメージを持つ方が多いだろうが、この神社はどこかカラフルな色合いが目立っており派手である。これは、中国の陰陽五行の思想や日光東照宮などの影響を受けているという。そのほか、境内には忘れ物に対してご利益がある宝玉稲荷神社など、ユニークな場所もあった。
長瀞町郷土資料館(「唐沢の獅子舞」有形文化財を見学)
この資料館では、長瀞町の無形文化財に指定されている「唐沢の獅子舞」の獅子頭やひょっとこ面を見学した。唐沢の獅子舞は江戸時代の享保9年(1724年)に越後の宮大工が伝えたと言われており、わずか18軒の家で200年以上獅子舞を継承してきた。宝登山神社の例大祭などでも舞っていたようだ。後継者不足のため昭和59年から休止状態となっているが、ここではその貴重な歴史を学ぶことができる。
実際に、獅子頭の着用もさせていただくことができた。頭についているのはシャモの羽らしく、なかなか手に入るものではない。意外と軽くて、前方も見やすいという声も挙がっていた。獅子頭が公開されるという今回のような機会は珍しいらしい。ガイドさんの話を伺いながら、ぜひもっとたくさんの方にこの貴重な文化財を見ていただきたいと感じた。地域の宝物である獅子舞の道具を見学して着用させていただくことは貴重であり、今回のようなツアーだからこそできることだろう。
秩父市・民宿 優月荘
今回のツアーは1泊2日で、民宿「優月荘」に泊まった。秩父の雄大な自然の中にひっそりと佇むお宿で、広々とした畳の個室に泊まらせていただくことができた。宿の親父さんと秩父の話で盛り上がったり、朝食会場から鹿を見かけたりしたのは良い思い出だ。
秩父神社の参拝
2日目の秩父神社の参拝では、鳥居の前にいた狛犬がとても力強い造形で凛々しく感じられた。この秩父神社はなんと2100年の歴史があるらしい。秩父の歴史がとても古いことを改めて実感した。
神社の社殿は宝登山神社同様に、とってもカラフルな色彩に圧倒された。「見ざる聞かざる言わざる」で有名な三猿の逆バージョン「逆三猿」が見られた。つまり、「よく見て、よく聞いて、よく話せ」ということらしい。
浦山歴史民俗資料館の見学
続いて、浦山歴史民俗資料館を訪問!ガイドさんの解説の元、地域の暮らしについて詳しく知ることができた。浦山という地域はダムの建設により、最盛期の頃に1200人台だった人口が、70人ほどに減少。その中で伝承されてきた生活文化が薄れてしまうという実感から、この資料館が作られた。
普段はここで浦山の獅子舞の実物の展示が見られるのだが、この日はお祭りの当日だったので、獅子舞が出張中になっていた。ただ、豊富な写真資料とともに、これから見る浦山の獅子舞への期待感が高まっていった。それにしてもダム建設や人口減少などによる急激な担い手不足の中でもなお継続されている浦山の獅子舞は本当にすごい。今や集落の人は少なくなり、地元の影森中学校では獅子舞を踊る機会が設けられているという。
そば処手打 土津園(昼食)
このツアーでは食事も充実していた。例えば2日目のお昼は、蕎麦屋さんで昼食をとった。蕎麦はちぢれ麵のような感じで、さっぱりしていて食べやすかった。薬味はわさびやネギに加えて、刻んだくるみが出されるのがとても珍しい。前菜の御膳には味噌付きのコンニャクもあり、その土地の郷土料理を味わうことができた。
浦山の獅子舞の見学
ツアーの最後に、秩父市浦山の大日堂境内にて、いよいよクライマックスである浦山の獅子舞を見学した。
浦山の獅子舞の見所は獣のような動きにあると思う。まるで、イノシシが山で踊っているようにも見える。土地から湧き上がるように生まれたその芸能が脈々と受け継がれていることに感動した。
ただ単に見学するだけでなく、今回ツアーの参加者は獅子舞と一緒に大日堂をぐるぐると回ったり、獅子舞の円の中心に入って厄除けを祈願してもらったりした。激しい獅子舞にビクビクしながらも、その演舞を間近に体感できたのだ。
演舞の後に、記念撮影タイムがあった。また、獅子頭を被らせてもらったり、大きな太鼓を持たせてもらったり、演舞の際に使用する刀を触らせてもらったりと、貴重な体験をさせていただいた。
その後は獅子舞とともに、悪魔祓いが登場!集落の家を一軒一軒回って歩いていたので付いて歩いた。原始的な信仰を思わせる衣装にはギョッとした。顔中に化粧をしてカラフルな装束を身にまとっているのだ。獅子舞のみならず、秩父にはその奥深い歴史の一端を垣間見れる祭りがまだまだたくさん息づいていることを実感できた。
獅子舞と悪魔払いがそれぞれ家を一軒ずつ回って、部屋の中で頭を下げる人々の周囲をぐるぐると回り厄払いを行った。ツアー参加者も地域の家に上がらせてもらって、お祓いを体験できた。個人的に頼むのはなかなか難しい、貴重な体験だった。
ディープな旅行ツアーの良さ
今回、秩父のお祭りをテーマとしたツアーに参加してみて、とにかくディープだったのが良かった。個人で旅行する場合は、自分のペースで行きたいところに滞在できるのがメリットだ。ただし、個人で地域に入っていく場合は、できることが限られることも少なくない。
今回は獅子舞見学の時に、担い手さんとの交流や、家の中にお邪魔して門付け体験までさせてもらえた。また、民宿での宿泊体験や参加者同士の交流も団体旅行ならではで、例えば「神社のこの装飾はこういう意味があるんだよ」などと教えてもらい、自分にはない視点を得られた。
また、現地ガイドの方が同伴することで、地域に眠っている宝物である獅子頭を見せてもらったり、解説いただいたりという機会にも恵まれた。自分とは違う知識を持った人の視点に触れることで、一気に知識の幅が広がった気がする。
誰でもすぐに訪れられる有名な観光地でのツアーだけではなく、今回のように地域を深く理解し貴重でディープな体験を求めてツアーに参加するのも選択肢の1つだと感じた。
また行きたくなった秩父の魅力
このツアーに参加したことで、本当にたくさんの秩父の魅力を知ることができた。
浦山の獅子舞を見学した時、何人かの担い手さんにお話を伺ってみると、埼玉県の春日部市や東京など、地域外から来る人が多いことに気づいた。
故郷は浦山でも住んでいるのは違う土地。故郷に関わり続けるということについて考えさせられた。本当に大事な場所なんだと思った。「ぜひSNSでも発信してくださいね」と頼まれたり「来年は踊りに来てください」と誘ってもらったり、その芸能の魅力をどうにか伝えようと奮闘されている様子が伺えた。
地域の人と対話することで関係性ができ、「またあの人と会いたい」「あの格好良い獅子舞を踊りたい」などの思いが生まれる事で、「第二のふるさと」ができるのだろう。
秩父には300もの祭りが存在する。奥深い歴史を感じながら祭りを体験し、それが自分の心の支えになっていく。その先にまた秩父に行きたいと思える。そのような可能性が十分に感られた2日間だった。